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私の「前田青邨展」
前田青邨
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先日は小林古径の作品を集めたので、今回は同じ日本美術院の画家、
前田青邨(まえだせいそん、1885-1977)の作品を集めてみました。

前田青邨は岐阜県中津川の出身で、梶田半古に入門しています。
同門に小林古径、奥村土牛らがいます。

前田青邨 「洞窟の頼朝」 1929年 大倉集古館 重要文化財
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前田青邨は甲冑をよく研究し、鎧武者の絵でよく知られています。
平家を倒そうと治承4年(1180)に伊豆で挙兵し、石橋山の合戦に破れた
源頼朝主従が洞窟に篭っている場面を描いた、前田青邨の代表作です。
丸く固まって座る主従は、昂然とした表情の頼朝の辺りは明るく、周辺は暗く
描かれ、緊密な画面になっています。
頼朝の着ている赤糸威大鎧など、甲冑の表現も素晴らしく、武者たちの鎧の
千切れた威糸や、矢のほとんど残っていない箙は戦いの激しさを示しています。
この時従ったのは、土居実平、弟の土屋宗遠、足達盛長、岡崎義実、
新開忠氏、田代信綱とされ、岡崎義実は70歳近くでした。

前田青邨 「洞窟の頼朝」 1958年
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この作品も力のみなぎる武者群像になっています。
画面奥の武者は孫悟空のような顔をしています。

前田青邨 「大物浦」 1968年
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兄の源頼朝に追われた源義経一行が摂津の大物浦から船出したところ、
嵐に遭って散り散りになってしまったという場面です。
覆面をした武蔵坊弁慶も乗っています。
たらし込みの技法で塗られた深い藍色の波は観る人を引き込む力があり、
画面全体に緊張感がみなぎっています。
謡曲の「船弁慶」にもなった古典的な題材ですが、近代の歴史画の傑作と
なっています。

前田青邨はこの作品と対になる「知盛幻生」を描いています。
長刀を手にした平知盛たちの亡霊が暗い波間から浮かび上がっています。

前田青邨 「鎮西八郎」 松岡美術館
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源頼朝の叔父で、鎮西八郎と呼ばれた源為朝の姿です。
弓の名手として知られ、保元の乱で活躍しますが、敗れて伊豆諸島に流されています。
白糸縅の大鎧を着け、弓を持ち、腹巻を着た郎党に兜を持たせています。
精悍な顔付きで、鼻が上を向いた郎党との対比を面白く見せています。
武者絵ですが、前田青邨の作品には切れの良いモダンさがあります。

歴史上の人物も描いています。

前田青邨 「蓮台寺の松陰」 1967年 山種美術館
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嘉永7年(1854)、前年に続き来航したペリーの艦隊が下田沖に停泊していた時に、
吉田松陰は外国への密航を企て、下田の蓮台寺に潜伏しています。
その時の松陰の姿を描いたもので、研ぎ澄まされた線描によって、行灯の光に
照らされた若々しい松陰の顔を描き出しています。
前田青邨はよく歴史上の人物を題材にしています。

前田青邨 「異装行列の信長」 1969年 山種美術館
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舅の斎藤道三との対面に臨む、若き日の織田信長の一行の姿です。
信長は、虎皮と豹皮の袴を着け、腰に瓢箪や火打石を括り付けた異形の姿で
会見場の美濃の正徳寺に乗り込んだといいます。
背景を小姓たちの顔と、足軽の陣笠で埋め尽くし、皆が同じ方向を向いた画面は
力に満ち、緊迫感があります。
様式性と写実性が一体となり、信長が歴史に踊り出してきた瞬間を見事に捉えた
力作で、前田青邨84歳の作です。

前田青邨 「腑分」 1970年 山種美術館
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江戸時代の腑分(解剖)の場面です。
腑分をする者を中心に、蘭書を手に見入る者、おそるおそる覗く者、
合掌する者など、さまざまな様子が描かれています。
抑えた色彩によって、静かな興奮を表しています。
杉田玄白や前野良沢が明和8年(1771)に見学した腑分の場面を
表しているのでしょうか。

前田青邨 「竹取物語」  1911年 東京国立博物館
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初期の明治44年の作品です。
かぐや姫を迎えに来る月からの使者を阻もうと、屋根に上って立ち騒ぐ武者たちを
絵巻物風に描いています。

前田青邨 「芥子図屏風」 1930年 岐阜・光ミュージアム
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左隻
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右隻
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歴史画を得意とした前田青邨ですが、力強い画風による草花の絵を描いています。
屏風絵にふさわしい装飾的な作品で、前田青邨の持つモダンな感覚が表れています。

前田青邨 「おぼこ」 1944年 東京国立近代美術館
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オボコはボラの幼魚で、水面近くを群れをなして泳ぎます。
前田青邨は歴史画を得意としていますが、構図には近代的な感覚が見られます。
それは大作の「大物浦」(1968年)、「異装行列の信長」(1969年)などにも表れています。

「花売り」 前田青邨 1926年 東京国立博物館
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こちらは京都の町に花を売りに来ていた白川女(しらかわめ)です。
琳派の技法のたらし込みも使い、正面から描いた堂々とした作品です。

前田青邨 「風神雷神」 1949年 松山・セキ美術館
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風神雷神を上下に配した思い切った構図で、雲はたらし込みの
技法に拠っています。
前田青邨得意の活き活きとした描線による躍動的な作品です。

前田青邨 「白頭」 1961年 東京藝術大学大学美術館  
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白桃を横に置き、画架の前に端座する晩年の自画像で、深い精神性を見せています。

前田青邨は日本画の特質である線描を極め、東京藝術大学の教授も勤め、
平山郁夫、守屋多々志、小山硬などを育てています。


前田青邨は日本美術院の創設者の一人、下村観山を敬愛していました。

下村観山 「弱法師(よろぼし)」 1915年 東京国立博物館 重要文化財
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能の「弱法師」を題材にした作品で、下村観山の代表作です。


以下は前田青邨の教えを受けた画家たちの作品です。

平山郁夫 「敦煌鳴沙」 1985年
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四曲一隻の屏風で、敦煌莫高窟を描いています。
平山郁夫特有の大きな景色です。

小山硬 「天草(納戸)」 1973年 山種美術館
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隠れキリシタンの伝統のある天草に取材した、天草シリーズの一つです。
江戸時代の隠れキリシタンは納戸神として祀って、信仰を守っていました。

守屋多々志 「平家厳島納経」(部分) 1978年
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平家一門の公達が何艘もの舟に乗って厳島神社に法華経を納めに詣でています。
武士たちのきらびやかな大鎧姿は歴史画の見せ所です。
前年に亡くなった恩師の前田青邨を悼んで納経の場面を描いたとのことです。


【2021/05/30 20:58】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
神田・御茶ノ水あたり  2021/5
お茶の水
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神田・御茶ノ水あたりのアジサイなどの写真です。

神田明神に寄りました。
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御茶ノ水駅は改築工事が進んでいます。
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お茶の水橋脇のビワの木は実を付けていました。
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聖橋口側では献血を呼び掛けていました。
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2020年に完成した順天堂大学A棟の正面は明治の洋館風です。
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順天堂大学前に咲いていた白百合です。
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御茶ノ水仲通りにはキンシバイが咲いていました。
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ソラシティ脇のヤマボウシです。
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神田スクエアに咲いていたアカショウマです。
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アジサイはあちこちに咲いていました。
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こちらは地下鉄大手町駅に貼られた、ワクチンの大規模接種センターの案内板です。
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【2021/05/28 19:01】 街歩き | トラックバック(0) | コメント(0) |
孔雀を題材にした作品
孔雀
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前回、小林古径の絵の中に素晴らしい孔雀の絵があったので、孔雀を題材にした
絵画などを集めてみました。

「孔雀明王像」 中国・北宋時代・10~11世紀 仁和寺 国宝
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密教修法の孔雀経法を修する際の本尊で、大きく羽根を広げた孔雀に乗った
蓮華座に坐しています。
孔雀は毒蛇を食べてしまうことから、孔雀明王は災厄や苦痛を取り除く功徳があるとされ、
また雨乞いの修法の本尊でもあります。
通常は一面四臂ですが、この像は三面六臂の珍しい姿です。

「孔雀明王像」 平安時代・12世紀 東京国立博物館
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金箔を糸のように細く切って貼り付けた截金(きりかね)で飾られた羽根が
きらびやかです。

「孔雀明王坐像」 快慶 鎌倉時代・正治2年(1200) 高野山金剛峰寺 重要文化財
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羽根を広げた孔雀の背に乗る明王で、高野山孔雀堂の本尊です。
明王は人々を強化するため大日如来の命を受けた仏、あるいは大日如来自身が
変化(へんげ)した姿ともされています。
正治元年(1199)に京都の神泉苑で行われた孔雀経法の効験で雨が降ったことを賞して、
後鳥羽上皇の御願により孔雀堂が建てられ、孔雀明王が造像されています。
快慶の前期の作風とのことで、胴は細くすっきりと端正なお顔です。

「瑞巌寺本堂障壁画 松孔雀図」 狩野左京 
 江戸時代・元和6~8年(1620~22) 瑞巌寺蔵 重要文化財

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本堂中心を飾っていた全6面の豪華な襖絵で、牡丹をあしらった引手が付いています。
狩野(佐久間)左京は伊達家最初のお抱え絵師です。

「孔雀立葵図屛風」 尾形光琳 江戸時代・18世紀
 アーティゾン美術館 重要文化財

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二曲一双で、右隻の梅と流水は同じ尾形光琳の紅白梅図屏風を思わせます。
羽根を広げた孔雀と流水の曲線を面白く組合わせています。

「孔雀牡丹図」 円山応挙 明和5年(1768) ファインバーグ・コレクション
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注文も多かったのでしょう、円山応挙はよく孔雀の絵を描いています。
鮮やかな色彩の孔雀が写実的に描かれていて、画面に沿って駆け上がるような
飾り羽の表現には目を見張ります。

「牡丹孔雀図」 円山応挙 安永5年(1776) 宮内庁三の丸尚蔵館
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羽の艶、首や銅の立体感も表現されていて、優れた技量を示しています。

「牡丹孔雀図屏風」 円山応挙 1781年 アーティゾン美術館
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子犬と並んで人気のあった孔雀の絵で、細密な写実が活きています。

「松に孔雀図襖」(部分) 円山応挙 寛政7年(1795) 兵庫県・大乗寺 重要文化財
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金箔地に墨で3本の松と3羽の孔雀が描かれていて、松は16面の広々とした空間に
伸び広がっています。
この絵のある兵庫県香美町の大乗寺は応挙寺とも呼ばれ、応挙は大乗寺の住職に
援助されたことの恩返しに呉春や蘆雪など弟子たちを動員して13室165面の襖絵を
描いています。

「花鳥図」 岸連山 江戸時代・19世紀
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左隻
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桜、牡丹、孔雀、白閑鳥(はっかん)です。
白閑鳥は雉科の鳥で、くっきりとした白と黒が特徴です。
閑と鳥で1字になります。

「孔雀」 小林古径 1934年 永青文庫
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大きく羽根を広げた孔雀の姿を画面いっぱいに描いています。
緑青の鮮やかさを存分に引き出し、丸い模様の金泥も華やかです。
装飾的でありながら端正な、小林古径ならではの画風です。

「白孔雀」 上村松篁 1973年 山種美術館
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ハイビスカスとともに描かれた白孔雀は眼を見張る長さの輝く飾り羽を伸ばしています。
鳥の絵を好んで描いた上村松篁らしい、くっきりとした明快な作品です。
胡粉で描いた羽根は白く輝いています。
少年の頃に観た石崎光瑶の「燦雨」に感銘を受け、いつかは熱帯のインドや孔雀を
描こうと思ったとのことです。

「キング」 西田俊英 2002年 今井美術館
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インドで見た孔雀の印象を元に描いています。
太くたくましい脚も写実的です。

「月と孔雀」 西田俊英 2017年
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昼は白牛、ロバ、ラクダの行き交う所も、夜は雰囲気ががらりと変わり、
幻想的な世界が現れるそうです。

「春に憩う」 那波多目功一 2014年 郷さくら美術館
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20年以上前に多摩動物公園で写生した孔雀をようやく作品にしたそうです。
桜の木の右側を濃く、左側を薄く描いて、奥行きを見せています。

「くじゃく118」 いかわあきこ 2019年
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いかわあきこさん(1970-)は京都府出身のダウン症の画家で、孔雀や樹木などを
細密な描法で描いています。
明るく細密な描き振りで、尾羽根が花の咲くように華やかに広がっています。

「微風」 北久美子
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150号2枚の油彩画です。
広々とした絵で、孔雀と白鳩、草花、海、島、空と、視線が奥へ、上へと
向くようにしています。
孔雀の華麗な姿が画面を華やかにしている中で、鳩の白が印象的です。

「美麗相愛」 牧進 
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金の孔雀、銀の牡丹は黒の地から浮かび上がり、幽玄な世界を見せています。
孔雀は牡丹に求愛しているようです。

「孔雀図煙草箱」 海野勝珉 京都・清水三年坂美術館
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幅17.5㎝で、羽根を広げた優美な姿の鳳凰を彫り込んでいます。
海野勝珉(しょうみん:1844-1915)は刀装具職人から金工作家になっていて、
東京美術学校の教授に就任し、帝室技芸員にも選ばれています

「依仁清意孔雀型香炉」 初代宮川香山 明治時代後期~大正時代初期 泉屋博古館
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横浜眞葛焼の創始者の宮川香山は高浮彫で有名ですが、京焼出身のこともあってか、
仁清や乾山を写した作品も作っています。
国宝の「色絵雉香炉」に拠った作品で、孔雀の羽根を大きく広げた、大胆で面白い
デザインです。
羽根の緑や金彩には仁清らしい味わいがあります。

「倣仁清意雉子香炉」 初代宮川香山 吉兆庵美術館
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「青と金色のハーモニー:ピーコック・ルーム」 ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
 1876年 フーリア美術館

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パトロンだったフレデリック・レイランドのダイニング・ルームの室内装飾です。
ホイッスラーの絵と東洋陶磁のコレクションを飾る予定で、デザインを担当していた
他の建築家の都合が悪くなり、ホイッスラーが手掛けることになったものです。
正面に金で二羽の孔雀を力強く描き、青海波や網代模様も取り入れて、とても東洋風で
装飾的な見事な室内になっています。

「大皿」 ウィリアム・ド・モーガン  
 1888年頃 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

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直径40cmほどの大きなお皿で、孔雀が画面いっぱいに羽根を広げています。
ウィリアム・ド・モーガン(1839-1917)はウィリアム・モリスのモリス商会にデザインを提供し、
自らも陶磁器の工房を開いています。

「テーブルセンターピース 三羽の孔雀」 ルネ・ラリック 1920年 北澤美術館
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テーブルの中央に置く装飾品で、厚さは2cmほどしかありません。
電灯が組み込まれていて、孔雀の姿が光によって浮き上がります。

「孔雀」 沼田一雅 1921年 硬質磁器 セーヴル陶磁都市蔵
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日本の彫刻家・沼田一雅(ぬまたいちが:1873-1954)は1904年に
セーヴル磁器製作所の初めての外国人協力作家となっています。

「白地孔雀羽根模様銘仙単衣」 昭和初期~昭和10年代前半
 長野県・須坂クラシック美術館

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アール・ヌーヴォー調の柄で、活き活きとして、力強さがあります。


【2021/05/27 19:40】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(2) |
私の「小林古径展」
小林古径
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日本美術院の画家、小林古径(1883-1957)の作品を集めてみました。

小林古径は新潟県出身で、梶田半古(1870-1917)の画塾に入門しています。
同門に前田青邨、奥村土牛らがいます。
梶田半古は、従来の日本画家が粉本(作品の模写)を参考にしていたのに対し、
写生を重視した画家で、弟子たちにも写生の大切さを教えています。

小林古径 「闘草」 1907年 山種美術館
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五月五日の頃に草を持ち寄って、その優劣を競った、「草合わせ」という
四天王寺蔵の平安時代の扇面古写経にも描かれている遊びです。
手前の子は汗衫(かざみ)を着ています。
小林古径によれば、肌の色の表現に苦労したそうです。

小林古径 「極楽井」 明治45年(1912年) 東京国立近代美術館
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小石川伝通院裏の宗慶寺にあった極楽井の水を汲む乙女たちです。
白木蓮は裏箔によって描かれているそうです。
イエズス会の紋章を模様にした着物やロザリオなど南蛮趣味をあしらって
いますが、清楚で気品に満ちています。
泉に少女たちの集まっている情景は、大伴家持の詠った、
「もののふの八十乙女らが汲みまがふ寺井の上の堅香子(かたかご)の花」を
思い浮かべます。

小林古径 「河風」 1915年 山種美術館
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黒の絣の浴衣姿の女が河原に置いた縁台に掛け、桔梗の団扇を持って
足を水にひたしています。
後ろに垂らした帯の色が鮮やかで、水の描き方にも特徴があります。
33歳頃の作品で、後の画風と違い、
絵に生々しさがあります。

小林古径 「竹取物語より『昇天』」 大正6年(1917) 京都国立近代美術館
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絵巻物の形で、6つの場面が描かれていて、当初は12の場面にする予定
だったそうです。
かぐや姫はこの世のすべてを忘れ、天女たちに囲まれ、天に帰っていきます。

小林古径 「花」 1919年 東京藝術大学大学美術館
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桃山の風俗図屏風のようで華やかですが、小林古径らしく端正な絵柄です。

小林古径 「静物」 1922年 山種美術館
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小林古径の描いた唯一の油絵ということですが、背景が無地のところは日本画風です。
きっちりとして気品のある描き方は、やはり小林古径です。
それにしても、ずっしりと重い黒を選んでいるのは何故だろうかと思います。
この時期は西洋画と日本画の間で心が揺れていた頃とのことです。
前田青邨も一時は洋画に転向しようかと悩んだ時期もあるとのことですから、
日本画を続けていくのは大変だったようです。
小林古径はこの絵を描いた年に39歳で前田青邨とともに欧州に留学しています。
大英博物館では東晋の画家、顧愷之(こがいし:344?-405?)の「女史箴図巻
(じょししんずかん)」を見て逆に東洋画の線描に目覚め、模写しています。

小林古径 「木菟」 昭和4年(1929) 大倉集古館
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紅梅の枝に止まるミミズクです。
薄墨色の中に紅梅が点々と浮かび、ミミズクの目もそれに染まったように紅く
なっています。

小林古径 「清姫」 8枚連作のうち「日高川」(部分) 1930年 山種美術館
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紀州の安珍清姫伝説を絵巻物風に8枚続きの絵に仕立てたものです。
安珍を追う清姫が日高川に阻まれています。

小林古径 「清姫」 8枚連作のうち「入相桜」 1930年 山種美術館 
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鐘の中で焼き殺された安珍と、日高川に身を投げた清姫の亡骸は共に比翼塚に葬られ、
桜が植えられ、入相桜と呼ばれます。
悲恋の物語は最後に満開の桜によって優しく慰められています。
小林古径はこの作品を気に入っていて、一生手元に置いておくつもりだったのを、
山種美術館の設立のお祝いに寄贈したとのことです。

小林古径 「犬(庭の一隅)」 1932(昭和7)年 歌舞伎座
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白百合や昼顔の間の広い地面で遊んでいるのは、横山大観から譲り受けた
テリア種の「丹」と、サモエドの雑種、「ジョキ」ということです。
「丹」は戦前、日本で盛んに飼われていた日本テリアと思われます。
草を引き散らかして遊んでいる犬たちも、小林古径ならではの気品のある姿に
なっています。

小林古径 「髪」 昭和6年(1931) 永青文庫 重要文化財
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仏画のような端正な線描による、気品のある画面です。
少女の着物の濃い青、帯の赤、頬の薄紅色が絵を晴れやかにしています。
女性の腕の、左右を交差させた置き方は、古代エジプト絵画を参考に
しているとのことで、二人の目の線もエジプト風です。

小林古径 「孔雀」 昭和9年(1934) 永青文庫
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大きく羽根を広げた孔雀の姿を画面いっぱいに描いています。
緑青の鮮やかさを存分に引き出し、丸い模様の金泥も華やかです。
装飾的でありながら端正な、小林古径ならではの画風です。

小林古径 「白華小禽」 1935年 山種美術館
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泰山木に止まっているのは瑠璃でしょうか。
葉の艶や厚みも表されています。

小林古径 「人形」  昭和14年(1939)
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淡い色の無地を背景にして、黒い衣装の人形をくっきりと浮き立たせています。
濃淡を使い分けて華やかな薔薇のレースの質感まで表わしています。
腕と手にも表情があります。
端正な線描の顔は金髪、緑の目、紅い唇、ブローチが彩りを添えています。
一体の人形に生命と気品を与えた作品です。
欧州留学のお土産として娘さんに買ってきたフランス人形とのことで、
娘さんも長い間大事にしていたのでしょう。

小林古径 「三宝柑」 1939年 山種美術館
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研ぎ澄まされた線描による日本画ですが、陰影も付けられ、立体感があります。

小林古径 「観音」 1940年 霊友会妙一記念館
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横向きという珍しい構図ですが光背はこちらを向いています。
十一面観音は紅い蓮を活けた花瓶を持ちますが、この像では満開の花を
手にしています。
小林古径は絵具をあまり混ぜずに描くということで、色彩が鮮やかなのも特徴です。

小林古径は1944年から東京美術学校の日本画科教授を勤めています。
助教授だった山本丘人は、教授の梅原龍三郎が戦時中の食糧難の時代なのに
豪華な弁当を広げている横で、小林古径が細い薩摩芋を取り出し、二人とも
平然と食べていることに驚いています。

小林古径 「狗」 1949年 個人蔵
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撫子の花を添えて、琳派の技法のたらし込みを使って、子犬の可愛らしさを
描き出しています。

前田青邨は梶田半古の塾では兄弟子の小林古径から絵具の溶き方を習っています。
青邨は古径について、謹厳荘重という言葉がこんなにぴったりあてはまった人は
画人にはちょっと見出せない、と述べています。

奥村土牛も梶田半古の塾では半古の亡くなった後、塾頭だった小林古径の指導を
受けています。
奥村土牛は小林古径が亡くなったことについて、「先生ほどの高潔な人がこの世に
何人いるだろうかと思い、私は悲しくてならなかった。」と追懐しています。

奥村土牛 「醍醐」 1972年 山種美術館
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奈良の薬師寺で行なわれた、小林古径の七回忌の法要の帰りに見た、
醍醐寺三宝院の枝垂桜に感激し、その後10年越しで完成させた作品です。
静かに咲いて静かに散る桜の姿と、亡き小林古径の姿を重ね合わせて
描いたとのことです。


【2021/05/25 18:51】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
牡丹を題材にした作品 その2
牡丹
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牡丹の花を題材にした作品その2、絵画です。

「花といちごのある静物」 モデスト・カルリエ 山寺 後藤美術館
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緑と赤の対照の際立った作品です。
牡丹や陶器の壷など、シノワズリ(中国趣味)を思わせます。
モデスト・カルリエ(1820-1878)はベルギー出身で、炭鉱夫として働いた後、
パリの美術学校に入り、ローマ賞も得てローマに滞在しています。

「牡丹孔雀図」 円山応挙 安永5年(1776) 宮内庁三の丸尚蔵館
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羽の艶、首や銅の立体感も表現されていて、優れた技量を示しています。

「孔雀牡丹図」 円山応挙 明和5年(1768) ファインバーグ・コレクション
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鮮やかな色彩の孔雀が写実的に描かれていて、画面に沿って駆け上がるような
飾り羽の表現には目を見張ります。

「石橋図」 礒田湖龍斎 江戸時代 18世紀 出光美術館
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石橋(しゃっきょう)は、寂照法師が中国の清涼山の麓にかかる石橋のたもとで、
文殊菩薩の乗り物である獅子が牡丹と戯れるのを見たという故事を演劇化した
ものです。 
目出度い演目で、能や歌舞伎でよく演じられています。
着物の両袖を脱ぎ、牡丹の花をかざして華やかに踊る様を、躍動的な構図で
描いています。
紅白の色の対比も効果的です。

「牡丹小禽図」 徳川斉脩 文化11年(1814) 泉屋博古館
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徳川斉脩(とくがわなりのぶ 1797~1829)は水戸徳川藩第7代藩主で、
学問芸術に秀でていましたが、病弱で若くして亡くなっています。

「牡丹図」 鈴木其一 嘉永4年(1851) 山種美術館
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白、薄紅、赤と色を変え、蕾から盛り、しおれ始めまでを
一つの絵の中に収めています。

「四季花木図屏風」 鈴木其一 六曲一双
右隻
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右隻(部分)
琳004

右隻には白牡丹を囲むように紅白梅、蒲公英、菫、燕子花が
描かれています。

「牡丹に蝶図」 1893年 渡辺省亭 個人蔵
花0

咲き始め、満開、散り際の牡丹は時間を表し、満開の花は重みで首を垂れ、
クロアゲハが留まり、地面には花弁が散っています。
手前の方は鮮やかな色合いで、奥の方の葉は薄墨で描かれ、画面に奥行きを
見せています。

「白牡丹」 菱田春草 1901年頃 山種美術館
花img790 (3)

白い牡丹がふっくらと立ち上がり、白い蝶も上を舞っています。
菱田春草たちが朦朧体を始めた頃の作品です。

「牡丹花(墨牡丹)」 速水御舟 1934年 山種美術館
御舟2

描線を使わず、墨のにじみによって花弁を描き出しています。

「青獅子」 川端龍子 1950年 歌舞伎座
歌007

焼失した歌舞伎座の再建のお祝いとして描かれたものでしょう。
大きな画面いっぱいの青い獅子は仏画の獅子に基いていますが、勢いのある筆遣いで
描かれています。
白牡丹の花がまた大きく、それを咥えた獅子の姿には有無を言わせぬ迫力があります。

「牡丹」 杉本健吉 1977年 日本赤十字社 
日009

油彩による豪華な牡丹の絵で、背景の金地には和の趣きがあります。

「郭公の来る頃」 松尾敏男 1992年
松2-7-2010_003

福島県須賀川の牡丹園の牡丹です。
山から郭公の声が聞こえてくるところで、雌雄で呼び合って鳴くので、2羽描き入れています。

「微風」 加山又造 1994年 吉野石膏
三007

牡丹に獅子ならぬシャム猫を取り合わせています。
シャム猫は加山又造の作品の中で特に人気のある画題です。

「美麗相愛」 牧進 四曲一双 2013年
牧001

孔雀牡丹図は伝統的な画題で、円山応挙や長沢蘆雪も描いています。
金の孔雀、銀の牡丹は黒の地から浮かび上がり、幽玄な世界を見せています。
孔雀は牡丹に求愛しているようです。

「古都花王」 大矢紀 2017年
春院展5

中国で花の王とされる牡丹に、唐三彩の壺と馬です。

「牡丹」 10号 山下徹
山下006

山下徹さん(1952~)は花や果物を油彩の細密な写実で描かれています。
色彩は濃厚で、粘りのある表現です。

「国宝・渥美壷に牡丹」 九鬼三郎
九鬼001

油彩画で、古陶と花を取り合わせています。
平安時代末(12世紀)の作と思われる壷で、現在は東京国立博物館に寄託
されています。
薄、瓜、柳、蜻蛉などが彫られているところから「秋草文壷」と呼ばれています。
秋草と春の牡丹のコラボレーションです。

こちらは上野東照宮の冬の牡丹です。

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【2021/05/23 19:35】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
牡丹を題材にした作品 その1
牡丹
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牡丹の花を題材にした陶磁器や絵画を集めてみました。
2回に分け、その1は陶磁器など、その2は絵画です。

「三彩印花牡丹文稜花長盤」 遼時代
唐三彩img919 (1)

中国北方の契丹族の国、遼(916-1125)で唐三彩を採り入れて作られた遼三彩です。
型作りで、牡丹と蝶をあしらっています。

「青磁刻花牡丹文壺」 耀州窯 北宋時代
宋磁img339 (7)

高さ10.2㎝の小さな壺です。
耀州窯は陝西省銅川市黄堡鎮にあった窯で、唐代から金代まで続いています。
北宋時代はオリーブグリーンと呼ばれる緑色の釉が特徴で、片切彫りという技法で
牡丹を彫っています。

「青磁浮牡丹不遊環耳瓶」 龍泉窯 南宋時代 出光美術館
悠久003

古代青銅器の形を模していますが、耳に付けた環は釉薬によって器に
貼り付いて動かないので、「不遊環」の名が付いています。

「青磁貼花牡丹唐草文瓶」 
 龍泉窯 南宋~元時代 13−14世紀 京都・北野天満宮蔵

名012

高さ50.4㎝の大きな瓶で、胴に牡丹唐草文が貼り付けられています。
頸の部分の修理は豊臣秀吉の命によるものとされています。
京焼の永楽和全(1823-96)が別の陶片を使って継ぎ足す、呼び続ぎをした箇所もあります。

「青磁浮牡丹文水指」 龍泉窯 元時代 13-14世紀 根津美術館
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涼しげな色合いの壺で、水指に使われています。

「青花牡丹唐草文双耳壷」 元時代 14世紀 松岡美術館
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上と横から見た大輪の牡丹を描き出し、肩の上には鳳凰や麒麟をあしらった、
堂々とした壷です。

「青花牡丹唐草文八角燭台」 景徳鎮官窯 明・永楽 出光美術館
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西アジアの金属の燭台の形を模しています。
官窯の作品らしく、模様が細密に描き込まれています。

「五彩牡丹文盤(大明萬暦年製銘)」 景徳鎮窯 明・万暦 サントリー美術館
東005

径38.5cmの大きなお皿で、内側の底に牡丹、内側の側面に石榴などの吉祥文を
描いてあります。
官窯の作品ですが、びっしり描かれた図柄も伸びやかで色彩も華やかです。

「金襴手孔雀文共蓋仙盞瓶(冨貴佳器銘)」 景徳鎮窯 明・嘉靖 出光美術館 重要美術品
陶磁0

仙盞瓶(せんさんびん)とは西アジアの金属器の形を模した陶器の水注のことです。
胴に金彩で孔雀と牡丹を描き、蓋には犬の形のつまみが付いています。

「色絵牡丹図水指」 野々村仁清 江戸時代前期 東京国立博物館
仁清004
金彩もふんだんに用いて、何とも色鮮やかな、いかにも京焼らしい作品です。
絵柄が永平寺伝来の狩野探幽筆、四季花鳥図に似ているそうで、狩野探幽や
弟の安信は仁清の陶器に絵付けをしたという記録もあるそうです。

「色絵鶏撮丸香炉」 仁清 江戸時代・17世紀 泉屋博古館
住004

香炉の蓋の横を向いた鶏がつまみになっています。
羽毛の描き具合が面白く、胴の唐草、蓋の牡丹模様の赤と緑が華やかです。
煙出しの部分を見ると、とても薄く作られていることが分かります。

「染付牡丹格子目文輪花大皿」 伊万里 江戸時代 泉屋博古館
伊004

格子目から手前に満開の牡丹がはみ出してくる、立体的なデザインです。

「色絵植木鉢岩牡丹文大皿」 鍋島 17世紀後半~18世紀前半 サントリー美術館 重要文化財
鍋003

鍋島は染付が基本で、色絵を付けます。
植木鉢と中国で好まれた太湖石を染付で描き、赤と緑の色絵で紅白の牡丹を
上絵付けしています。
牡丹は富貴を表す目出度い花で、鍋島はこのような吉祥を示す絵柄を多く
使っています。
白の余白が効いていて、鍋島はよく余白による空間造りをしています。

「色絵青海波牡丹文皿」 鍋島 江戸時代中期 出光美術館
花鳥003

径19.7cmの皿です。
ちょうど半分を青海波模様で埋め、半分を白く残しています。
水に浮かび、また波の向こうに見える赤い牡丹は幻想的で、
シュルレアリスムに通じるものを感じます。
少し冷ややかな装飾性は鍋島の特徴です。

「高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指」 初代宮川香山 明治時代前期
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浮彫された紅白の牡丹の上には獅子の代わりに背を丸めた猫が置かれています。
眠りから覚めたところですが、切れ長の目に眉毛も付いた面白い顔をしています。

「霙青磁牡丹彫文花瓶」 板谷波山 1925年 東京国立近代美術館
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釉薬の青が大きく彫り出した牡丹を浮かび上がらせています。

「釉裏金彩牡丹文 飾皿」 吉田美統
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釉裏金彩は金箔や金泥で文様を描き、その上に釉薬を掛けて焼成する、
極めて高度な技法です。

「堆朱牡丹鳳凰文香合」 明時代
鎌002

堆朱(ついしゅ)、堆黒(ついこく)は漆を塗り重ねて厚い層を作り、それを彫っ
て模様を浮き出させる中国の技法で、色の異なる漆を重ねて、断面に変化を
付けています。
牡丹と鳳凰を彫り出しています。

「堆朱牡丹文盆 大明永楽年製銘」 明時代・永楽年間(1403−25) 根津美術館
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鮮やかな朱色の面に牡丹の花や葉が立体的に彫り込まれていて、
宮廷用の品と思われます。

「鎌倉彫牡丹文大香合」 室町時代
鎌001

鎌倉彫は鎌倉時代に多数の禅宗寺院が建てられ、そこで仏像や仏具を作っていた
仏師たちが、中国から伝わった堆朱や堆黒などの調漆を木彫漆塗で模倣したのが
始まりとのことです。
花や葉の重なり具合が立体的に表現されています。
素朴でおおらかな味わいがあります。

「牡丹蝶図鐔」 加納夏雄 明治時代 19世紀 根津美術館
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幕末から明治にかけての彫金の名人、加納夏雄(1828-1898)の作です。
鉄地に牡丹を浮き彫りし、花芯には金象嵌を施してあります。

「迎賓館赤坂離宮 七宝額原画 尉鶲(ジョウビタキ)に牡丹」
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明治42年(1909)に完成した赤坂離宮の公式の晩餐会の催される部屋の壁に
渡辺省亭の花鳥図の原画による濤川惣助の無線七宝が30枚、嵌め込まれています。

「大牡丹唐草」 服部早苗 1997年
服006

打掛で桧垣模様の赤い地の背中に大きく牡丹唐草を一つあしらっています。
戦国武将の羅紗の陣羽織を思わせます。


【2021/05/22 18:38】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「上島珈琲店 黒田記念館店」 2021/5
上野
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上野の東京藝術大学大学美術館で開かれていた「渡辺省亭展」の帰りに
「上島珈琲店 黒田記念館店」に寄りました。
場所は台東区上野公園13-43、黒田記念館別館の1.2階です。

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道路に面して数席のテラス席があります。
上野公園の新緑が見えます。

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ミルクコーヒー440円です。

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以前、「上島珈琲店 黒田記念館店」に行った時の記事です。

黒田記念館は遺産の一部を美術奨励事業に充てるようにとの黒田清輝の遺言により
設立された施設で、1928年に竣工し、2015年にリニューアル・オープンしています。

黒田記念館の記事です。


【2021/05/21 20:18】 お店 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「徳永陶子 作品展」と「パブロ賢次の世界展」 丸善丸の内本店
東京
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丸の内オアゾ内の丸善丸の内本店4階ギャラリーBでは、「徳永陶子 作品展
記憶シリーズ vol.14 ー「間」ー」が5月25日(火)まで開かれています。

徳永陶子さん(1967~)は淡く、柔らかい色彩による抽象画を描いておられます。
2007年からは毎年、丸善丸の内本店で個展が開かれています。
今回のテーマは「間」ということで、約40点の展示です。

「Nature 1」
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静かに澄んだ色調の連なりで、観ていて心が落着きます。

*****

同じ本店4階ギャラリーAでは、「ー画業50周年記念ー パブロ賢次の世界展」が
5月25日(火)まで開かれています。

パブロ賢次(旧名 赤平健二)さん(1950~)は大振りで元気な筆さばきで、
風景画や人物画、静物画などを描いておられます。

展覧会ではフランスなどの風景画を中心にした展示で、現在とは少し画風の違
う初期の作品もあります。

「ニースの海岸通り」
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通りには人があふれ
旗がなびき、活気に満ちて、描く楽しさが伝わります。


【2021/05/20 18:29】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
私の「クロード・ロラン展」
クロード・ロラン
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私の好きな画家の一人、クロード・ロランの作品を集めてみました。

クロード・ロラン(1600年代-1682)はフランスのロレーヌ地方出身の画家で、
各地を転々とした後、ローマに落着き、以後はローマを中心に活躍しています。
静かで抒情的な理想化された古代の風景画を得意として、その人気は高く、
古典主義の画家とされています。


クロード・ロラン 「笛を吹く人物のいる牧歌的な風景」 
 1635-39年 静岡県立美術館

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古代の遺跡のある夕暮れの景色に人物を交えた、ロマンチックな風景画です。
空は金色に輝き、遠くにローマのティボリにあるシビラ神殿が描かれています。

クロード・ロラン 「聖セラピアの埋葬のある風景」 1639年頃 プラド美術館
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まだ、風景画が独立のジャンルとして認められていなかった時代なので、
殉教者の埋葬の場面を手前に小さく入れて、宗教画の体裁を採っています。
クロード自身、「自分は風景を売っているのであり、人物はおまけだ。」とも言っています。
古代の廃墟に柔らかな日が差し、遠くにはローマのコロッセウムも見える、
穏やかな風景画です。

クロード・ロラン 「日の出」 おそらく1646-47年 メトロポリタン美術館
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朝日が木々や遠くの丘を照らし、牛や羊を追う人が点景のように描かれています。

クロード・ロラン 「エウロペの掠奪」 1655年 プーシキン美術館
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エウロペはギリシャ神話に登場する人物で、白い雄牛に変身したゼウスに
誘拐されています。
描きたかったのは海辺の風景で、帆船の浮かぶ海は波立ち、遠くの山や
海の向こうの島は淡く霞んでいます。

クロード・ロラン 「トビアと天使のいる風景」 1663年 エルミタージュ美術館
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旧約聖書のトビト書の、チグリス河畔でトビアが巨大な魚に食われようとして、
大天使ラファエルによって救われ、魚の内臓を取り出している場面です。
夕陽が空や雲、野原や木々を照らし、雲は輝いています。

上野の国立西洋美術館も「踊るサテュロスとニンフのいる風景」を所蔵しています。

クロード・ロランは同じフランス出身でローマで活動したニコラ・プッサン(1594-1665)とも
交流しています。

ニコラ・プッサン 「アモリびとを打ち破るヨシュア」 1624-25年頃 プーシキン美術館
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旧約聖書のヨシュア記の一場面で、モーセの後継者ヨシュアの軍勢が
カナンのアモリ人を打ち破っています。
ヨシュアが太陽と月に命じて一日留まらせたという記述を表すため、
太陽と月が描かれています。
ニコラ・プッサンは静かな古典主義の画家として有名ですが、この作品は
ローマで修業を始めた頃のもので、動的な歴史画になっています。
画面も古代ユダヤというより、ギリシャ・ローマ風です。

クロード・ロランは後の風景画家にも影響を与えています。

ユベール・ロベール 「ティヴォリの滝」 1776年 プティ・パレ、パリ市立美術館
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左上にシビラ神殿が見えますが、実際のティヴォリの景色とは異なり、素材を
自由に組み合わせています。

フランスの風景画家ユベール・ロベール(1733-1808)は、イタリアで学んだ後、
フランスに戻り、人気画家となります。
荒廃した古代神殿やモニュメントのある風景を描いて、「廃墟のロベール」と
呼ばれました。

国立西洋美術館はユベール・ロベールの「ローマの景観」を描いた大作2点を
所蔵しています。

クロード=ジョゼフ・ヴェルネ 「パレルモ港の入口、月夜」 1769年 エルミタージュ美術館
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月明かりの港の情景で、雲もくっきり照らし出されています。
埠頭の焚き火との対比が効果的で、船室の窓の明かり、ボートのオールから
したたる水も描かれています。

クロード=ジョゼフ・ヴェルネ(1714-1789)はフランスの風景画家で、ローマに
長く滞在した後、フランスに戻っています。
国立西洋美術館には「夏の夕べ、イタリア風景」が所蔵されています。


【2021/05/18 18:03】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
本郷給水所公苑のバラ園  2021/5
本郷三丁目・水道橋
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本郷給水所公苑のバラ園のバラの花が満開になりました。
場所は文京区本郷2-7です。

本郷給水所の上部は和風と洋風の庭園になっていて、洋風庭園には何種類もの
バラが植えられています。

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ゾンマーアーベント
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ドイツ語で夏の夕方という意味です。

モナリザ
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花弁の端が薄紅色になります。

つるサラバンド
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しろたえ
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ノックアウト
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びっしりと花が咲きます。

アイスバーグ
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株いっぱいに純白の花が咲きます。

この日は休日の午後で、たくさんの親子連れが来ていました。


【2021/05/16 20:29】 街歩き | トラックバック(0) | コメント(0) |
絵巻物 その4(最後)
絵巻
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今回は絵巻物その4(最後)で、江戸時代以降の作品です。

「乗興舟」(部分) 伊藤若冲  1767年 大倉集古館
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京都から大坂まで下る淀川の風景を墨で描いた版画絵巻です。
拓版画という、版木に紙を乗せ、墨を含んだたんぽで叩いて刷り出す、
拓本と同じ技法によっています。
墨の黒によって川沿いの林、家並み、橋、などの情景がゆったりと
大らかに広がっています。


「四季日待図巻」 英一蝶
 元禄11年~宝永6年(1698~1709) 出光美術館 重要文化財

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「日待」は、日の出を拝むため、集まって夜を明かす行事とのことです。
1月、5月、9月の中旬に行なわれることが多く、この図巻では炭火を起こしているので、
1月の情景のようです。
酒を飲んだり、碁を打ったり、瓢箪を的に弓を射たりと、人々が賑やかに楽しんでいます。
修験者がお勤めをしている後ろで、団扇であおいでいる小僧さんは居眠りをしています。
一蝶が徳川綱吉の禁令に触れて、三宅島に島流しにされている時の作品ですが、
着物の柄まで細かく描かれ、目の前の光景を写したように活き活きとしています。
一蝶の画力と、江戸を懐かしむ思いの伝わる絵巻です。


「石山寺縁起絵巻」 七巻のうち巻七(部分) 谷文晁 
 文化2年(1805) 石山寺 重要文化財

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石山寺縁起絵巻全七巻は鎌倉時代に一部完成していますが、六巻と七巻は
詞書のみでした。
石山寺座主の尊賢の願いを受けた松平定信が文晁に命じて、六巻と七巻の絵を
完成させています。
画像は巻七第三十一段で、母を助けるため自らを身売りした娘を乗せた
人買いの舟が大津の浦を出ると大嵐となり、娘が石山観音に祈ると白馬が現れ、
娘を岸に引き揚げます。
その後、娘は結婚し、母を養って幸福に暮らしたという霊験譚です。
逆巻く波や嵐の表現は動的で迫力があり、湖面を駆ける白馬はいかにも頼もしげです。
文晁は平治物語絵巻や春日権現絵巻などを参考にして、古様の絵柄を忠実に
再現していて、その技量の高さを示しています。


「プチャーチン以下露国船来朝、戸田浦にて軍艦建造図巻」 安政2年(1855)頃
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デジタルブックになっていて、画面を操作して観ることが出来ます。
日本との条約締結のため来日したロシアのプチャーチン一行の乗船ディアナ号が
安政大地震に遭って損壊しています。
そのため伊豆の戸田(へだ)村で船大工たちがロシア人の指導で代船を建造した時の
模様を描いた絵巻です。
日本人が建造した初の洋式船で、1855年(安政2年)に完成し、戸田村にちなんで
ヘダ号と命名されています。
この絵巻ではヘダではなく、ヒコナとなっています。
皆が大喜びしている様子が描かれ、ロシアの軍艦旗の聖アンドレイ旗も見えます。
これから50年経った1905年(明治38年)に、日本海軍はこの旗を翻したロシアの
バルチック艦隊を日本海海戦で打ち破っています。


今村紫紅 「熱国之巻(熱国之朝)」(部分) 大正3年(1914) 
 東京国立博物館 重要文化財

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今村紫紅 「熱国之巻(熱国之夕)」(部分) 大正3年(1914) 
 東京国立博物館 重要文化財

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タヒチに行ったゴーギャンに倣って、貨物船に乗りインドに向かい、バンコク、
シンガポール、ラングーンなどを経由してカルカッタに着いています。
作品はこの時見た光景を元にして描いた絵巻物で、今村紫紅の代表作です。
黄土を塗った明るい画面に点描を用いて、童話のような異国の風物を描いています。


小林古径 「竹取物語より『昇天』」 大正6年(1917) 京都国立近代美術館
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絵巻物の形で、6つの場面が描かれていて、当初は12の場面にする予定
だったそうです。
かぐや姫はこの世のすべてを忘れ、天女たちに囲まれ、天に帰っていきます。


「生々流転」 大正12(1923)年9月 東京国立近代美術館 重要文化財
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絹本墨画の巻物で、全長40m以上あり、会場では全場面を観ることが出来ます。
水が雨となって山に降り、川を下り、野を越え、やがて海に注ぎ、龍となって
空に昇るまでを、季節の移ろいも交えて描き上げています。
会得した水墨の技法を集大成した作品で、大観の代表作となっています。
上野で展覧会に出品した9月1日に関東大震災が起きていますが、
幸い被災を免れています。


【2021/05/15 18:58】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
美術館の再開
美術館
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新型コロナウイルスのため臨時休館していた広尾の山種美術館は5月15日(土)から
再開するそうです。
京橋のアーティゾン美術館、神宮前の太田記念美術館、渋谷の古代エジプト美術館も
5月15日(土)から再開するそうです。

山種美術館では開館55周年記念特別展「百花繚乱」が開かれていることです。

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「八ツ橋」 川端龍子 1945年
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荒木十畝 「四季花鳥」のうち「春(華陰鳥語)」 1917年
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「夏(玉樹芳艸)」
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「秋(林梢文綿)」
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「冬(山潤雪霽)」
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速水御舟 「椿ノ花」 1933年
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小林古径 「白華小禽」 1935年
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川端龍子 「牡丹」 1961年
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山口蓬春 「梅雨晴」 1966年
百花


奥村戸牛  「初夏の花」 1969年
百花img045 (4)


山種美術館のHPです。

アーティゾン美術館のHPです。

太田記念美術館のHPです。

古代エジプト美術館のHPです。


【2021/05/14 21:17】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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