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「京都・南山城の仏像」展 東京国立博物館
上野
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上野の東京国立博物館では浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念特別展
「京都・南山城の仏像」が開かれています。
会期は11月12日(日)までです。

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南山城は京都府の最南部で、奈良県に接し、両方の文化の影響を受けて、
多くの優れた仏像が伝わっています。

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展覧会では本館 特別5室に18体が展示されています。

「阿弥陀如来坐像」 平安時代 12世紀 京都・浄瑠璃寺 国宝
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浄瑠璃寺は永承2年(1047)の創建と伝えられる、現在は真言律宗の寺院です。
国宝の本堂には木造阿弥陀如来坐像9体が安置されていることから、九体寺とも
呼ばれています。
観無量寿経に説く、上品上生(じょうぼんじょうしょう)から下品下生(げぼんげしょう)まで
9つの段階の往生に応じた阿弥陀仏です。
九体阿弥陀は平安時代に盛んに造像されましたが、現存するのは浄瑠璃寺のみ
とのことです。
2018年度から2022年度までの5年をかけて修理されました。
展示されているのはそのうちの1体で、檜の寄木造り、お顔は丸く穏やかな印象で、
平安後期の定朝様の作風です。

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本堂の前は池のある浄土式庭園になっています。

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私はむかし、お寺廻りをしていた時、夏の夕立ちに遭い本堂で休んでいたら、
隣の木に雷が落ちて驚いたことがあります。

「広目天立像」 平安時代 11~12世紀 京都・浄瑠璃寺 国宝
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四天王像の一つで、等身大と大きく堂々としており、光背や踏み付けられている邪鬼も
当初のもので、彩色・截金がよく残って華やかです。
現在は東京国立博物館に寄託されています。

「多聞天立像」 平安時代 11~12世紀 京都・浄瑠璃寺 国宝
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広目天など他の3体に比べ、天衣の翻りが少ないなど技法の違いがあるので、
元は独立して作られていて、後に3体が加えられたのではないかと考えられています。
現在は京都国立博物館に寄託されています。

「地蔵菩薩立像」 平安時代・12世紀 京都・浄瑠璃寺 重要文化財
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定朝様の優しいお顔のお地蔵さまで、彩色や截金も残っています。
右手に錫杖を持たない姿から矢田寺の地蔵菩薩に近いということで、
矢田型と呼ばれています。
現在は東京国立博物館に寄託されており、この写真は総合文化展で
展示されていた時のものです。
10月11日から26日の間は展示されません。

「十一面観音菩薩立像」 平安時代 10世紀
 京都・禅定寺 重要文化財

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像高286.4㎝の巨大な像で、寄木造、穏やかな作風は造像の和様化の始まった
平安中期の特徴とのことです。
向かい合って置かれた浄瑠璃寺の阿弥陀仏と比べるとしっかりとしたお顔で、
堂々とした姿です。
禅定寺は長徳元年(995)の創建で、藤原氏の帰依を受けていました。

「千手観音菩薩立像」 平安時代 12世紀 京都・寿宝寺 重要文化財 
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千手観音は通常、42本の腕で作られますが、この像は実際に千本の腕を持つと
されています。
すべての掌に眼が描いてあり、千手千眼観音菩薩となっていて、眼病平癒の霊験が
あるとされています。
白木造の清雅な姿で、木目もよく見え、唇には朱が入っています。
寿宝寺は慶雲元年(704)の創建と伝えられる高野山真言宗の寺院です。

「十一面観音菩薩坐像」 鎌倉時代 13世紀  京都・現光寺 重要文化財
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端正な顔立ち、引き締まった胴が印象的で、慶派の特徴を表しており、坐像の
十一面観音像は極めて珍しい姿です。
これは近くの海住山寺に移り住んだ貞慶(1155-1213)が十一面観音を深く信仰し、
観音は補陀落山に住すると考えたことから坐像となったのではないかということです。
貞慶は、保元の乱で暗躍し平治の乱で討たれた信西の孫に当たります。
現光寺は真言宗智山派の寺院で、創建時は不明、現在は無住となっていて、
海住山寺が管理しています。

「阿弥陀如来立像」 鎌倉時代 嘉禄3年(1227)
 京都・極楽寺 重要文化財

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快慶の弟子、行快の作とされ、優美繊細な快慶の作風が表れています。
展示されている、像内に納められた文書には法橋行快造之と書かれ、
過去法眼快慶の文言もあって、快慶が嘉禄3年以前に亡くなっていることが
分かります。
極楽寺は城陽市にある浄土宗の寺院です。


平安から鎌倉に掛けて、貴重な仏像の揃った、仏像ファンには見逃せない
興味深い展覧会です。
南山城にこれほど多くの仏像の優品が残っているとは知りませんでした。

展覧会のHPです。


【2023/09/30 18:31】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「中村英生・名古屋剛志・山岸千穂展」と「留守玲展」 日本橋髙島屋
日本橋
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日本橋髙島屋美術画廊では「The New World―中村英生・名古屋剛志・山岸千穂―」展が
開かれています。
会期は10月2日(月)までです。

東京藝術大学出身の3名の日本画家による展示です。

中村英生 「令和波濤図」
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100号の大きな作品で、墨流しの群青の波が躍動的で鮮やかです。
富士山に逆巻く波濤というと横山大観を思い出しますが、こちらは装飾性が際立っています。

名古屋剛志 「Energy Flow」
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牡丹が透明な青に輝き、生命力にあふれています。
雨宿りする蛙や猫の絵はユーモラスです。
名古屋さんの作品はモダンで、デザイン性があります。

山岸千穂 「バタフライエフェクト」(部分)
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バタフライエフェクトとは小さな動きが予想外の大きな力学的効果を生むことをいいます。
墨絵で、クロアゲハが羽ばたき、柳の葉が揺れています。
山岸さんは水墨による鋭い筆捌きで動物などを描いておられます。

***

同じ日本橋髙島屋の美術画廊Xでは「留守玲展―順手・逆手・ドライヴ 1から作るか、
ある物から作るか―」が開かれています。
会期は10月9日(月・祝)までです。

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留守玲さんは鉄を素材にしたオブジェを制作されています。

「鋼と情線」
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「スカラムブル」
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「2つの経路」
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「Cut’ SPCC」
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「アンバーミスト」
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火山の溶岩のようなゴツゴツとして荒々しい地肌や曲がった板など、変化があります。
制作にはかなりの熱と労力を要したのだろうと思います。
鉄という素材はなかなか面白いものです。


【2023/09/29 19:36】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「甲冑・刀・刀装具―光村コレクション・ダイジェストー」 南青山 根津美術館
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南青山の根津美術館では企画展、「甲冑・刀・刀装具―光村コレクション・ダイジェストー」が
開かれています。
会期は10月15日(日)までです。

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光村コレクションは実業家で現在の光村印刷の創業者である光村利藻(1877―1955)が
収集した3000点以上の武具のコレクションです。
明治42年(1909)に根津嘉一郎が一括購入しています。


「黒韋肩取威腹巻」 室町時代 16世紀 重要文化財
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光村コレクション以外の所蔵品です。
背中で引き合わせる腹巻で、鹿革を藍で濃く染めた黒韋と紅糸・白糸で威してあり、
大袖が付いています。
金具の鋲は八重菊の形です。
室町時代の当初の状態を残す品ということで、重要文化財に指定されています。

「浅葱紺糸威胴丸具足」 江戸時代・18~19世紀
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復古調の鎧で、胴丸に面頬、大袖、杏葉が付き、胴には弦走(つるばしり)が
張ってあります。
杏葉は古代には馬の装飾板でしたが、やがて下級武士の肩先を守る防具となり、
更に胸前に付ける防具となります。

「太刀 銘 長光」 鎌倉時代 13世紀 重要美術品
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長光は備前長船派の刀工で、長船派の祖、光忠の子とされています。
刃文は直線的で、目釘穴が幾つも開いているのは摺り上げたのでしょうか。

「早蕨金具脇指拵」 海野勝珉 明治時代 20世紀
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刀装具などの意匠を早蕨でまとめています。
幕末に現れた、洋式の軍装で刀を差しやすいように、鐺(こじり)を丸くした突兵拵です。
海野勝珉(1844-1915)は水戸出身の彫金家で、帝室技芸員にもなっています。
光村利藻は海野勝珉など金工家を保護し、江戸時代以来の工芸技術の継承に
貢献しています。

明治の刀工、初代月山貞一の刀剣も3振り展示されています。


「鬼念仏・笛吹地蔵目貫(部分)」 大月光弘 江戸時代 19世紀
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目貫は刀身を柄に固定する目釘に被せる金具です。
首から鉦を提げた鬼念仏と、蓮の葉を被った地蔵の姿です。
鬼念仏は大津絵によく描かれる題材です。
大月光弘は京金工の大月光興の子で、光村コレクションには大月派の作品が
多く含まれています。

「波兎図鍔」 篠山篤興 江戸時代 文久2年(1862)
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波兎は目出度い図柄で、能の「竹生島」では「月海上に浮かんでは兎も波を走るか
おもしろの島の景色や」と謡っています。
篠山篤興(1813-1891)は京都の金工で、徳川家茂や孝明天皇の刀の刀装具を
制作しています。

「牡丹蝶図鐔」 加納夏雄作 明治時代 19世紀
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幕末から明治にかけての彫金の名人、加納夏雄(1828-1898)の作です。
表側には鉄地に牡丹を浮き彫りし、花芯には金象嵌を施してあります。

「呂洞賓図小柄」 塚田秀鏡 明治30年代 19~20世紀
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塚田秀鏡(1848-1918)は明治大正期の金工で、絵を柴田是真に学んでいます。
銘に、「應光村利藻之需要 眞雄斎秀鏡」とあり、光村利藻はよく名画を題材にした物を
注文しています。

幕末明治の名工、後藤一乗や落語の「宗珉の滝」の題材になった横谷宗珉、
粟穂の意匠で有名な荒木東明の作もあります。
刀装具は精巧な細工が施されているので、単眼鏡を持参されることをお勧めします。


展示室5には「二月堂焼経」が展示されています。

「華厳経巻第四十六」 奈良時代・8世紀 重要文化財
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紺紙に銀字で書かれていて、二月堂焼経とも呼ばれています。
東大寺二月堂に置かれていた物が、寛文7年(1667)にお水取りの火が燃え移って
お堂が焼けてしまった時に持ち出された経巻で、上下が少し焦げています。
元は全六十巻ありましたが、始めから終わりまで残っている巻はこの巻第四十六と
個人蔵の巻第一だけだそうです。
現存する奈良時代の紺紙銀字経はこの焼経のみとのことです。
写経生による謹直な字体で、銀字は時が経つと酸化して見えにくくなりがちですが、
このお経は字がよく残っています。
料紙はコウゾ紙で、藍で何度も染めています。
東大寺は華厳経による寺院です。

光明皇后が亡き両親の藤原不比等と橘三千代の追福のため発願した一切経の
一部も展示されています。
「天平十二年五月一日記」と書かれているので、五月一日経の名があります。


展示室6のテーマは「月見の茶」です。
月にまつわる茶道具の展示です。

「色絵武蔵野図茶碗」 野々村仁清作 江戸時代 17世紀 重要美術品
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銀を塗って夜景を、大きく丸く塗り残して満月を表し、薄を見込みにまで描き入れて
秋の風情としていて、仁清らしい華やぎがあります。

「一重切花入 銘 三井寺」 千宗旦作 江戸時代 17世紀
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千利休の作った、園城寺という名の一重切花入に倣って、孫の宗旦が作ったものです。
謡曲の「三井寺」は中秋の名月の日の三井寺(園城寺)を舞台にしています。

展覧会のHPです。


【2023/09/28 19:29】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「第86回 新制作展」 国立新美術館 その2
乃木坂
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六本木の国立新美術館で開かれている「第86回 新制作展」の昨日の記事で
載せきれなかった作品を載せます。
会期は10月2日(月)までです。
会場は撮影可能です。

明山應義 「野火―B」
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利かん気な子の心象風景でしょうか。

緒方和美 「Let’s Magic!」
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何とも陽気で平面的な画面です。

奥田善章 「迷宮のダンサー」
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ボールペンで描いたボリューム満点の女性です。

椎名ミドリ 「欲望のホシ I」
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戦争の影が見えるシュールな画面です。

鈴木信子 「夢心地」
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明るく輝いていますが、時の経過も見えます。

中井英夫 「桜の樹の下に」
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重厚な春の景色です。

長井キコ 「Feeling Love」
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あわあわとした色彩が広がります。

中野幸江 「金魚 川」
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中国画を基にした、大賑わいの川辺です。

浜本忠比古 「画家の肖像」
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どっしりとした麗子像が制作しています。

平松幸雄 「田舎の隣近所」
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雰囲気のある暗さです。

蛭田美保子 「白いレースを纏うように」
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これだけ大きいとミカンにも迫力が出ます。

本家浩一 「圓立寺枝垂桜孔雀図」
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圓立寺は枝垂桜で有名な広島県の寺院です。
満月に照らされた豊麗な情景です。


【2023/09/26 20:14】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「第86回 新制作展」 国立新美術館
乃木坂
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六本木の国立新美術館では「第86回 新制作展」が開かれています。
会期は10月2日(月)まで、火曜日は休館日です。

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足立嘉之 「夏がゆく」
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古典絵画のような存在感があります。

石川由子 「灯点し頃」
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割烹着を着た女性が居て、昭和に流行ったダッコちゃんも見えます。

板屋諭使 「種まく人」
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どこかとぼけた浮遊感があります。

伊藤万几子 「不確かな時―III」
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妖しく儚げに立ち上がっています。

小野仁良 「オトノキオク・アスナロノウタ」
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年輪の見える床板です。

片山裕之 「ある風景」
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小気味良いほどの廃物の風景です。

加藤貞子 「ニンギョウサマの舟」
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東北の民俗の世界です。

金森宰司 「ライフ「ソロキャンプ」」
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最近流行のソロキャンプです。

北村多希子 「ぷるっ」
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みずみずしさがあふれ出ています。

近藤オリガ 「故郷の思い出」
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重い空間に故郷への時間を感じます。

近藤オリガ 「新たな一日の始まり」
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佐藤泰生 「旭日 海に向かって」
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海辺からは富士山が望めます。

関水英司 「宙にともる 2023ーI」
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天井まで届く、巨大で迫力のある抽象画です。

高堀正俊 「めばえ」
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頑固に素っ気ない写実です。

田村研一 「熱唱 Eternal Valor(魔騎士ディノヴァ主題歌) & Other Songs」
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日本橋の上での狂騒です。

田村佳丈 「待賢門合戦」
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平治の乱の大内裏待賢門での平重盛(右)と源義平(左)の一騎討です。

鶴山好一 「喧騒の街」
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大都会の活気と一体感があります。

鍋島正一 「湘南の海 夕紫」
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透明感のある写実です。

原田夏樹 「名犬六兵衛の居る風景(12)」
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今年も六兵衛は嬉しそうにしています。

渡辺久子 「落ち葉と花」
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風の通る、心地の良い空間です。

20点に留めましたが、他にも載せたい作品の数多くある、面白い展覧会です。


【2023/09/25 19:22】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「永遠の都ローマ展」 東京都美術館
上野
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上野の東京都美術館では「永遠の都ローマ展」が開かれています。
会期は12月10日(日)までです。

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ローマのカピトリーノの丘に建つカピトリーノ美術館は1734年にローマ教皇
クレメンス12世により一般公開の始まった美術館で、一般公開された最古の美術館の
一つとされています。
そのカピトリーノ美術館の所蔵する作品を中心にした約70点で、古代ローマの建国から
近代までのローマの歴史を辿る展覧会です。

「カンピドリオ広場の眺め」 エッチング エティエンヌ・デュペラック
 1569年 ローマ美術館

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ミケランジェロの設計したカンピドリオ広場を囲んで、正面がローマ市庁舎、
左右が美術館です。

「カピトリーノの牝狼(複製)」 20世紀(原作は前5世紀) ローマ市庁舎
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ローマの建国者、双子のロムルスとレムスが牝狼に育てられたという神話をブロンズで
制作したもので、元は牝狼の像だったものに後からロムルスとレムスの像を加えています。
狼の姿はやや様式化していますが、迫力のある顔をしています。

この形を刻んだ古代ローマのコインも何点か展示されています。

「カピトリーノのヴィーナス」 大理石 2世紀 カピトリーノ美術館
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17世紀にローマで発見されました。
古代ギリシャの彫刻家プラクシテレスの制作した女神像を基本にしたとされる、
「恥じらいのヴィーナス」の形の一つです。
かなりの長身で、堂々として均整の取れた体躯をしており、大理石が艶やかな
肌を見せています。
鼻はとても鼻隆の高い典型的なギリシャ鼻で、あごもしっかりしており、
髪は複雑な編み方をしています。
脇の壺は婚礼用の水入れで、火の神ヘパイストス(ギリシャ神話)/ウルカヌス
(ローマ神話)との婚礼前夜の姿を表しているとも考えられています。

「マイナスを表わす浮彫の断片」 大理石 前1世紀末─ 後1世紀
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マイナスはワインの神、ディオニュソス(ギリシャ神話)/バッカス(ローマ神話)に
従う女性です。
熱狂すると極めて凶暴になり、出逢った動物を八つ裂きにしてしまうなど、
恐ろしい所業に及ぶとされています。
ナイフを振りかざした姿を彫られていますが、広がる衣の線が流麗で、
左腕の表現も的確です。

ガイウス・ユリウス・カエサル、初代皇帝アウグストゥス、ローマ帝国の版図を最大にした
トラヤヌス帝、ブリテン島にハドリアヌスの長城を築いたハドリアヌス帝、カラカラ浴場で
知られるカラカラ帝などの肖像も展示されています。

「コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)」
 1930年代(原作は330 ─ 37年) ローマ文明博物館蔵

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約1.8mもある巨大なブロンズ像で、全身はどれだけ大きかったのだろうかと思わせます。
コンスタンティヌス1世(270頃-337)は分割統治されていたローマ帝国を再統一した
皇帝であり、最初のキリスト教徒の皇帝でもあります。
その業績から大帝と呼ばれています。

「ローマ教会の擬人像」 ローマ派工房 13世紀初頭
 ジョヴァンニ・バッラッコ古代彫刻美術館

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モザイク画で、明るく輝いています。
元はコンスタンティヌス1世が建設した最初のサン・ピエトロ大聖堂の壁面を飾って
いましたが、16世紀のミケランジェロの設計による新大聖堂の建設に伴い、
モザイクは解体されました。

「教皇ウルバヌス8世の肖像」 ピエトロ・ダ・コルトーナ
 1624 ─ 27年頃 カピトリーノ美術館

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ローマ教皇ウルバヌス8世(1568-1644)は芸術や学問の庇護者として知られています。
バロックの画家、ピエトロ・ダ・コルトーナ(1596-1669)もその庇護を受けています。
レースの模様も細密に描き出していて、技量の高さを見せています。

「メロンをもつ若者(嗅覚の寓意)」 カラヴァッジョ派の画家
 1626 ─ 29年 カピトリーノ美術館

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カラヴァッジョらしい、光を強調した作品で、色彩もまとまり、画面に緊張感があります。

他にも古代ローマの彫刻が何点か展示されており、興味深い展覧会ですが、
特に「カピトリーノのヴィーナス」は見逃せません。

展覧会のHPです。


【2023/09/24 21:07】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」 国立新美術館
乃木坂
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国立新美術館では「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」が開かれています。
会期は12月11日(月)まで、休館日は火曜日です。

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イヴ・サンローラン(1936-2008)の40年間の活動を振り返る本格的な回顧展で、
会場には110体のデザインの他、ジュエリーや写真資料なども展示されています。
展示室の一部は撮影可能です。

イヴ・サンローランは1955年に19歳でクリスチャン・ディオールの会社に就職して
キャリアをスタートさせ、1957年にディオールが死去すると主任デザイナーとなっています。
1961年に独立し、自身のブランド「イヴ・サンローラン(YSL)」を創設しています。

初のコレクションである1962年春夏オートクチュールコレクションで発表された、
海軍のピーコートを基にした作品です。
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イヴ・サンローランは男性の服の機能性を評価して、積極的に取り入れています。

1984年秋冬オートクチュールコレクションのパンツスタイルの
イヴニング・アンサンブルです。
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映画や演劇にも関心が深く、衣装を手掛けています。

ジャン・コクトーの戯曲「双頭の鷲」の女王のドレスです。
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スペイン、ロシア、アジアなど世界各地の文化も取り入れています。

1989年春夏オートクチュールコレクションのアンサンブルは
清朝の趣きがあります。
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美術作品と融合したデザインも手掛けています。
この展示室は撮影可能です。

ピエール・ボナールへのオマージュのジャケットは色彩が華やかです。
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フィンセント・ファン・ゴッホへのオマージュのジャケットはゴッホの筆遣いまで表しています。
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ピート・モンドリアンへのオマージュのカクテルドレスはそのままモンドリアンです。
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ピカソ、ブラック、マティスへのオマージュの作品もあります。
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イヴ・サンローランの広めたサファリジャケットや、斬新なウエディングドレスもあって、
会場に並んだコレクションは観ていてワクワクするものがあります。

グッズ売り場には長い行列も出来る盛況で、早めに行かれることをお勧めします。

展覧会のHPです。


【2023/09/23 18:22】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「スターバックスコーヒー東京医科歯科大学店」 2023年
お茶の水
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「スターバックスコーヒー東京医科歯科大学店」はお茶の水の東京医科歯科大学C棟1階に
あります。
場所は文京区 湯島1-5-45です。

新築されたC棟です。
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以前あった東京医科歯科大学店は大学のC棟建設に伴い、2019年に一旦閉店し、
今年の6月に再オープンしました。
1階となっていますが、お茶の水側からだと2階に上がる感じになります。

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広くて天井の高いロビーホールの横にあります。
午前7時の開店で、私の行った午前8時頃はまだ空いていました。

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根菜チキンサラダとカフェミストです。

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病院のカフェには職員、通院の人、入院患者、お見舞いの人など、いろいろな人が訪れる
オアシスのような所です


【2023/09/22 19:42】 お店 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ」展 東京ステーションギャラリー
東京
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東京駅の東京ステーションギャラリーでは「春陽会誕生100年 それぞれの闘い 
岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ」展が開かれています。
会期は11月12日(日)までです。
会期中、一部展示替えがありますので、展覧会のHPでご確認下さい。

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春陽会は大正11年(1922)に設立され、現在まで続く洋画団体です。
展覧会では設立から1950年代までの作品、100点以上が展示されています。

元は日本美術院の洋画部の画家が脱退して設立した団体で、創立メンバーは
日本美術院系の足立源一郎、倉田白羊、小杉放庵、長谷川昇、森田恒友、山本鼎、
草土社系の岸田劉生、木村荘八、椿貞雄、中川一政、それに石井鶴三、梅原龍三郎、
萬鉄五郎らです。

小杉放菴 「双馬図」 1925年 小杉放菴記念日光美術館
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尊敬するシャヴァンヌに倣った象徴主義的な趣きがあります。
小杉放菴(1881-1964)は元は洋画家として出発し、小杉未醒(みせい)と
名乗っていました。
1913年にフランスに留学し、そこで逆に東洋画に目覚め、後に飄々とした画風の
日本画に転向しています。

2015年に出光美術館で開かれた「没後50年 小杉放菴 ―〈東洋〉への愛」展の記事です。

岸田劉生 「麗子弾弦図」 1923年 京都国立近代美術館
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麗子像の一つで、三味線を弾いているところです。
岸田劉生(1891-1929)はデューラーに傾倒していましたが、草土社系のメンバーも
岸田に倣って暗く重い雰囲気の絵を描いていたため、春陽会の中で軋轢が起こり、
それが原因で1925年に岸田は退会し、岸田を春陽会に招いた梅原龍三郎も
責任を感じて退会しています。

2019年に同じ東京ステーションギャラリーで開かれた「没後90年記念 岸田劉生展」の記事です。

椿貞雄 「朝子像」 1927年 平塚市美術館
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椿貞雄(1896-1957)は岸田劉生に深く傾倒し、行動を共にしており、1927年には
春陽会を退会しています。
「麗子像」に倣った、いわゆる「デロリとした」描き振りで、岸田の影響が窺われます。

木村荘八 「わたしのラバさん」 1934年 愛知県美術館
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木村荘八(1893-1958)は岸田劉生と出会ってからはフュウザン会、草土社、春陽会の
結成にも参加し、画風も岸田劉生に似たものになっています。
岸田は春陽会を脱会しますが、木村は残り、画風も岸田の影響から脱していきます。
演劇の一場面でしょうか、並んだ人物たちにスポットライトが当たっています。
「わたしのラバさん」はその頃流行した歌謡曲「酋長の娘」の一節です。

  わたしのラバさん 酋長の娘 色は黒いが南洋じゃ美人

日本の南方進出を背景にした歌で、ラバさんとはloverのことです。

木村荘八 「銀座みゆき通り」 1958年 東京ステーションギャラリー
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木村荘八は東京の街や人をこよなく愛し、よく描いています。
挿絵画家として永井荷風の新聞小説、「濹東綺譚」の挿絵を担当して大人気を得ています。
「濹東綺譚」の挿絵も何点か展示されています。

2013年に同じ東京ステーションギャラリーで開かれた「生誕120年 木村荘八展」の記事です。

中川一政 「向日葵」 1982年 真鶴町立中川一政美術館
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薔薇と共によく描いた向日葵の絵です。
中川一政(1893-1991)は21歳の時に描いた作品が岸田劉生の目に留まったことから
画家の道を志すようになり、草土社、春陽会の結成に参加しています。
岸田の春陽会脱会後も留まり、最晩年まで出展を続けています。

2011年に同じ日本橋高島屋で開かれた「没後20年 中川一政展-独行此道-」の記事です。

萬鉄五郎 「羅布かづく人」 1925年 岩手県立美術館
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萬鉄五郎(1885-1927)は春陽会の設立に参加しています。
「裸体美人」など、フォーヴィズムを取り入れた画家として有名で、このような
キュビスムの作品も描いています。

三岸好太郎 「少年道化」 1929年 東京国立近代美術館
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三岸好太郎(1903-1934)は初期にはルオーの強い影響を受けており、画題などに
それが表れています
春陽会の第1回展に出品して入選し、その後も出品を続けていましたが、1930年に
独立美術協会に参加しています。

岡鹿之助 「魚」 1939年 横須賀美術館
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岡鹿之助(1898-1978)は1940年に春陽会に入会しています。
1924年にフランスに渡り、藤田嗣治に師事しますが、第二次世界大戦のため、
1939年に帰国しています。
帰国した年の作品で、魚と魚の絵を一緒に並べるという面白い構成になっていて、
フランスで編み出した独自の点描法で描いています。

岡鹿之助 「窓」 1949年 愛知県美術館
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手前からカーテン、植木鉢、掘割、建物と続けていく、岡鹿之助らしい構成的な作品です。

長谷川潔 「アレクサンドル三世橋とフランスの飛行船」
 1930年 碧南市藤井達吉現代美術館

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長谷川潔(1891-1980)はフランスで活躍した銅版画家で、深い黒色を基調にした
メゾチント(マニエール・ノワール)という技法を復活させています。
1928年に春陽会会員になりましたが、1918年にフランスに渡って以来、
第二次世界大戦中も含め一度も帰国していません。
この作品はメゾチントによる初期のもので、無数の斜めの線を見せていますが、
後には斜め線は無くなります。

2011年に横浜美術館で開かれた「生誕120年記念 長谷川潔展」の記事です。

前田藤四郎 「紅型」 1939年 大阪中之島美術館
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10月17日からの展示です。
前田藤四郎(1904-1990)は関西の版画家で第7回春陽会に出品して以来、
出品を続けています。

他にも梅原龍三郎など、関係した多くの作家の作品が展示されています。
美術団体は離合集散がよくあり、いろいろな作家が出たり入ったりするものですが、
春陽会にもそれがあってなかなか面白いものです。

展覧会のHPです。


次回の展覧会は「みちのく いとしい仏たち」展です。
会期は12月2日から2024年2月12日までです。

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ラグビーWカップ2023フランス大会が始まり、丸の内仲通りでは丸の内ラグビー神社が
勧請され、ラグビーで盛り上がっています。

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【2023/09/21 19:13】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「第70回 日本伝統工芸展」 日本橋三越本店
三越前
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日本橋三越本店本館7階催事場では9月25日(月)まで、
「第70回 日本伝統工芸展」が開かれています。
入場は無料、作品はです。
今年は陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸7部門の技巧を凝らした逸品、
557点が展示されています。

陶芸 彩泥線紋鉢「花びらだんす」 宇佐美成治 日本工芸会奨励賞
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さまざまな色の化粧土を散りばめていて華やかです。
外側は搔き落としで黒の地を見せ、輪郭線としています。

陶芸 鉄絵銅彩秋海棠文鉢 神谷紀雄
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銅を含む顔料で描かれた、ほのぼのとした味わいのシュウカイドウです。

2020年に銀座和光で開かれた「神谷紀雄展」の記事です。

陶芸 金襴手彩色鉢 吉田幸央
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九谷焼金襴手の作品で、品の良い輝きを見せています。


染織 友禅訪問着「波に魚」 大村幸太郎 文部科学大臣賞
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三角形の山と菱形の魚を組合わせた、大きな絵柄です。

染織 縠織着物「Garden」 海老ヶ瀬順子 日本工芸会会長賞
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縠織(こめおり)は米粒のような織目の入った紗の織物です。
庭の若葉をモチーフにしているとのことで、爽やかです。


漆芸 彫漆箱「遥かに」 松本達弥 日本工芸会総裁賞
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乾漆で、白漆と青色漆を重ね塗りしたものを彫って白から紺に色の変化する波を表し、
貝を貼り付けて波頭を際立たせています。

漆芸 蒔絵箱「木洩日の熊谷草」 鬼平慶司 第70回記念賞
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クマガイソウはラン科の植物で、膨らんだ形の花を咲かせます。
ランの一種らしい妖艶な雰囲気と奥行きを感じます。
身の側面には蝶が描かれています。


金工 布目銷盛象嵌扁形鉄花器「阿吽」 鹿島和生 東京都知事賞
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縦横の細かい筋を入れて金属を埋める布目象嵌で、渦のような形に勢いがあります。


木竹工 「神代杉柾目造板目象嵌二段卓」 福嶋則夫 高松宮記念賞
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神代杉は長期間、水中や地中に埋没していた杉材で、貴重な材です。
この天板に板目で細い線を並べて入れ、同じ材の柾目で象嵌して景色をつくっています。


人形 陶彫彩色「霧笛」 中村弘峰 朝日新聞社賞
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中村弘峰さん(1986-)は福岡県の出身で、博多人形師の4代目です。
東京藝術大学彫刻家を卒業し、斬新なスタイルの人形を制作されています。

2019年にポーラ ミュージアム アネックスで開かれた「中村弘峰
SUMMER SPIRITS」展の記事
です。

人形 木彫彩色 「風と雲と」 松崎幸一光
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松崎幸一光さんは江戸木目込人形、江戸節句人形を制作されていますが、
この作品はモダンさが際立ちます。


諸工芸 有線七宝抽象文花器 柴田明 日本工芸会保持者賞
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色の境目に入れる銀線そのもので模様を作っています。

どの工芸部門の作品も素晴らしく、ずらりと並んだ様は壮観です。
これからもこの技能が継承され続けることを願います。

2022年の「第69回 日本伝統工芸展」の記事です。


【2023/09/19 19:10】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「超絶技巧、未来へ!」展 三井記念美術館
三越前
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日本橋の三井記念美術館では特別展、「超絶技巧、未来へ!」が開かれています。
会期は11月26日(日)までです。

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三井記念美術館は過去2回、日本工芸の超絶技巧を紹介する展覧会を開いており、
今回は3回目です。
所蔵先の記載の無い作品は個人蔵です。
作品の一部は撮影可能です。

現代作家

金工
本郷真也 「Visible 01 境界」 2021年
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展示室の入口に置かれています。
自在置物の技法を基にした鉄の鍛造で、実物大のカラスの骨格や筋肉の
形を作ってから羽根を付けています。
外からは見えませんが、カラスが間違って飲み込んだ異物を銀で作って
入れてあるそうです。

吉田泰一郎 「夜霧の犬」 2020年
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銅で作ったボルゾイで、全身に銅の木の葉や花、蝶を貼り付けています。

長谷川清吉 「真鍮製 爪楊枝」2023年
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艶消しした銀の容器に真鍮の爪楊枝がびっしりと入っています。

漆工
池田晃将 「百千金字塔香合」 2022年
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木曽檜に漆を塗ったピラミッド型の香合です。
表面は螺鈿の数字で埋め尽くされ、デジタルな雰囲気があります。

池田晃将 「電光金針水晶飾箱」 2022年
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木曽檜に漆を塗って石の様に見せ、断面で光る結晶は貝で表しています。

彦十蒔絵 若宮隆志  「「ねじが外れている」モンキー、工具箱、ねじ」 2023年
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工具箱はヒバに漆が塗ってあり、モンキーレンチは乾漆に銀粉を塗って錆を
表現しています。
工具箱の赤には根来塗の趣きがあります。

彦十蒔絵 若宮隆志 「草花研ぎ出し蒔絵 渡辺省亭図引用」 2022年
漆黒の地の水注に渡辺省亭の「牡丹に蝶図」を写していて、蝶は描かず、
水注の蓋に留まらせています。

「牡丹に蝶図」 明治26年(1893) 
花0

樋渡賢 「羽根蒔絵杯」 2022年
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研ぎ出し蒔絵で孔雀の羽根を描き、金粉を蒔いて輝かせています。

木彫
松本涼 「涅槃」 2021年
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樟の一木から彫り出していて、仏花でもある菊の花の枯れていく様を涅槃に例えています。

前原冬樹 「《一刻》 スルメに茶碗」 2022年
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朴の一木造りで、クリップの金属まで一木から彫り出しています。

大竹亮峯 「月光」 2020年
パンフレットに使われている作品です。
1年に1度だけ、夜に花を咲かせる月下美人が蝙蝠の羽根の形の花器に
挿してあります。
月下美人の原産国メキシコでは蝙蝠が花粉を運んでいるそうです。
花弁は鹿角、花器は神代欅を使っていて、花器に水を注ぐと花が開く仕掛けに
なっています。

ガラス
青木美歌 「あなたに続く森」
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青木美歌さん(1981-2022)はバーナーでガラスを熔かす、バーナーワークと
いう技法で、透明なガラスを使い、バクテリア、ウイルス、細胞など、
「生命」をがテーマに制作されました。
ガラスという硬い素材を使いながら、さまざまな形で繊細で柔軟な生命を
表現されていましたが、昨年逝去されました。

青木美歌さんの作品の記事です。


以下は明治工芸です。

七宝
並河靖之 「梅鶯図小花瓶」
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濃紺地の小さな瓶に有線七宝で梅とウグイスを描いています。
並河靖之(1845-1927)は色の境目に金属線を置いて絵柄をくっきりとさせる
有線七宝で有名です。

金工
海野勝珉 「孔雀図煙草箱」 清水三年坂美術館
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羽根を広げた優美な姿の鳳凰を彫り込んでいます。
海野勝珉(しょうみん)(1844-1915)は東京美術学校の教授を務め、
帝室技芸員にも選ばれています。

木彫
泉亮之 「蛇纏髑髏」
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一木造りで髑髏と蛇を彫り出していて、顎は動かせるようになっています。
泉亮之(1838-1918)は近江生まれの木彫家で、髑髏や蛇を得意としています。
明治24年(1891)にロシア皇太子(後のニコライ2世)が来日した時、作品が
買い上げられたこともあるそうです。

牙彫
無銘 「鳩の親子」
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胴は牙彫(げちょう)、脚は真鍮、目は黒蝶貝で作られています。
餌をねだるヒヨコの嘴は舌まで表現されています。
牙彫は象牙や鹿の角などを使った彫刻で、明治時代は木彫より盛んだったそうです。

三井記念美術館で開かれる超絶技巧展に展示される作品の見せる技の素晴らしさには
いつも驚かされます。

2017年に三井記念美術館で開かれた「驚異の超絶技巧!-明治工芸から
現代アートまでー」展の記事
です。

展覧会のHPです。


次回の展覧会は「国宝 雪松図と能面×能の意匠」展です。
会期は12月8日から2024年1月27日までです。
もう「雪松図屏風」の話が出る季節になりました。

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【2023/09/17 18:33】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
「日本画に挑んだ精鋭たち―菱田春草、上村松園、 川端龍子から松尾敏男へ―」展 山種美術館
恵比寿
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広尾の山種美術館では、特別展「日本画に挑んだ精鋭たち―菱田春草、上村松園、
川端龍子から松尾敏男へ―」展が開かれています。
会期は9月24日(日)までです。

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柴田是真 「墨林筆哥」 1877-88年
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漆を使って描く漆絵による、琵琶を弾く蛙です。
蛙の鳴き声を琵琶になぞらえているのでしょうか。
柴田是真は漆絵の技法で有名です。

菱田 春草 「雨後」  1907年頃
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横山大観と菱田春草は日本美術院の創設に参加し、1900年頃からは光や空気感を
出すために輪郭線を使わないで描く技法を手掛けています。
輪郭線が無いため、ぼんやりした印象があり、当時は「朦朧体」と呼ばれ、
非難されています。

土田麦僊 大原女 1915年
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京都大原の桜で、右隻には三人の大原女が柴を頭を載せて、山道を歩いています。
左隻には何本もの竹が伸び、水車が回り、屋根にはキジバトが止まっています。
満開の桜の枝が両側に向けて広がり、右隻の大原女は右に体を傾け、左隻の竹は
左に傾き、左右に広がりを見せています。
大原女の足元をデッサンのままに残して、動きを感じさせる工夫をしています。

速水御舟 「白芙蓉」 1934年
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あわあわとした描き振りで、葉も墨の濃淡を巧みに使って表し、
芙蓉に挿した赤が華やかさを添えています。

川端龍子 「鳴門」 1929年
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川端龍子は洋画を学んでいましたが日本画に転向し、横山大観の日本美術院に
参加しています。
そして青龍社を設立し、従来のいわゆる「床の間芸術」に対抗して、広い展示場での
展示に耐える、「会場芸術」を追及しています。
横約8m以上もある大作で、濃い群青の波が渦巻く、迫力いっぱいの画面が
広がっています。
青龍社の第1回展の出品作で、「会場芸術」を目指す川端龍子の意気込みが
表れています。

上村松園 「牡丹雪」 1944年
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雪の積もった傘を傾けて、二人の町娘が歩いています。
一人は、麻の葉模様の帯を締め、袂で傘の柄をくるむ様にして持ち、
前かがみになって褄を取り、雪道に難渋している風情で、もう一人は
御高祖頭巾を被っています。
清らかで、凛とした風情が、雪によって引き立ちます。

山口蓬春 「卓上」 1952年
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日本画とは思えないようなキュビズム風のモダンな作品ですが、装飾的なところは
やはり日本画で、緑色が爽やかです。
山口蓬春は洋画出身ということもあってか、近代西欧画を積極的に取り入れています。

これらの画家はそれぞれの方法で日本画の近代化に努めてきました。


以下は過去に山種美術館賞やSeed山種美術館日本画アワードを受賞した作品の展示です。

松尾敏男 「翔」 1970年 山種賞展(1 回) 優秀賞
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上へ上へと広がる雄大な構想の作品です。

2010年に日本橋三越で開かれた「松尾敏男展」の記事です。

大森運夫 「山の夜神楽」 1975年 山種賞展(3 回)大賞
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伝統芸能の土俗的な力強さを描いています。

岡村桂三郎 「オオカミ」 1987年 山種賞展(9 回) 優秀賞
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人と獣の交錯する、猛々しい世界です。
岡村桂三郎さん(1958~)は東京都出身の日本画家で、板に怪物などを
ごつごつとした筆触で武骨に描いています。

京都絵美 「ゆめうつつ」 2016年 Seed 展(1 回) 大賞
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更紗を着た女性が夢を見ているような表情で、漂うように浮かび上がっています。
肌の色の濃淡やペイズリーの柄によって、日本画には珍しい立体感のある作品です。
京都絵美(みやこえみ)さん(1981-)は福岡県出身で、日本美術院院友、創作と
仏教絵画の研究を行なっています。


山種美術館のHPです。


【2023/09/16 18:56】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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Author:chariot
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