六本木
六本木の森美術館では「アラブ・エクスプレス展」が開かれています。
会期は10月28日(日)までで、会期中は無休です。

多様な文化と複雑な歴史を持つ現代のアラブ世界のアーティスト、
34組の作品の展示です。
日本で初めてのアラブの現代美術についての展覧会で、外務省やアラブ各国の
大使館も後援しています。
出展者のうち15人が女性とのことで、その比率の高さは意外でした。
7月20日に、ブログやツイッターを持っている人を対象にした特別鑑賞会が
ありましたので、私も参加させていただきました。
プロジェクトマネジャーの田篭美保さんによるギャラリーツァーのある夜7時に
合わせて行ってきました。
特別鑑賞会は撮影自由です。
インパクトのある色彩感覚の受付です。

アトファール・アハダース (レバノンで結成、活動中)
「私をここに連れて行って:想い出を作りたいから」 2010-12年

3人組のアーティストの作品で、レバノンの写真スタジオで流行している
プリクラのように特殊加工した写真に想を得ているそうです。
富士山、アークヒルズ、東京タワーとアフリカの動物たちが一緒になっています。
想い出も切り貼り出来るものになっていることを表しているようです。
シャリーフ・ワーキド (ナザレ生まれ、イスラエル/パレスチナ在住)
「次回へ続く」 2009年

約40分間のビデオ作品はイスラムのテロリストが銃を前に犯行声明を読み上げている
ようですが、実は「千夜一夜物語」を朗読しているところです。
アラブと言えば「千夜一夜物語」かイスラムのテロを思い浮かべる西欧の先入観への
皮肉を込めています。
銃もテロリストのよく使うカラシニコフではなく、米軍の小銃のようです。
「次回へ続く」という題名も効いています。
ハリーム・アル・カリーム (イラク生まれ、アラブ首長国連邦/アメリカ在住)
『無題1 「キングズ・ハーレム」シリーズより』 2008年

アラブの民族衣装を着ているように見えますが、これは架空のデザインで
実在はしないそうです。
ハーレムの女性という、西欧のステレオタイプのイメージ、いわゆる
オリエンタリズムに疑問を向けています。
ミーラ・フレイズ (アラブ首長国連邦生まれ、在住)
2010年 左から、「グラディエーター」「マドンナ」「ダンス ウイズ ウルブズ」

1989年生まれの女性の作品で、いろいろな仮面を被った女性の写真です。
人は他者からのイメージに合わせた仮面を被っていることを表しているようです。
イスラムの女性が顔を覆っているヒジャブを抑圧の象徴とみる風潮に対する批判も
込めているとのことです。
ハリーム・アル・カリーム (イラク生まれ、アラブ首長国連邦/アメリカ在住)
『無題1 「都会の目撃者」シリーズより』 2002年

口を塞がれ、顔の輪郭もぼやけた女性の眼はしっかりとこちらを見つめています。
言論の抑圧に対して、それを見据える姿勢を示しています。
彼自身もイラクのフセイン政権の弾圧を逃れて、3年間南部の砂漠の洞穴に
潜んでいた経験があるそうです。
ルラ・ハラワーニ (エルサレム生まれ、在住)
「親密さ」 2004年

パレスチナ人居住区とエルサレムの間に設けられた検問所でイスラエル兵士の
行なう身分証明書や手荷物の検査を隠し撮りしたものです。
パレスチナ人は仕事や用事でエルサレムに行くためにはここを通らねばならず、
「親密さ」という題とは無縁の緊張、不信が漂います。
アマール・ケナーウィ (エジプト生まれ、在住)
「羊たちの沈黙」 2009年

カイロの雑踏を羊飼いになった彼女に連れられた人たちが四つん這いになって
進む様子を写したビデオです。
呆気にとられたような顔をした通行人や、これは何なんだと言って食って掛かる
人もいます。
人びとが羊のように従順に従わされている状況を告発するパフォーマンスとも言え、
後に彼女も逮捕されてしまいます。
この後、アラブの春が始まってエジプト革命が起こり、2011年にムバラク政権は
崩壊しています。
それにしても、パフォーマンスに参加した人たちはいろいろな意味で勇気があったと
思います。
展覧会に出展されている作品の作家の中には2011年にカイロのタハリール広場の
騒乱で亡くなった人もいます。
リーム・アル・ガイス (アラブ首長国連邦生まれ、在住)
「ドバイ:その地には何が残されているのか?」 2008/11年

建設ラッシュに沸くアラブ首長国連邦のドバイを表したインスタレーションです。
周辺から建設労働者により人口の多数は外国人になっている現在のドバイを
作者は鳥の姿になって眺めています。
マハ・ムスタファ(イラク生まれ、カナダ/スウェーデン在住)
「ブラック・ファウンテン」 2008/12年
(夕方撮った写真)

(夜撮った写真)

1991年の湾岸戦争で、クウェートから退却するイラク軍が油田を爆破したため
黒煙が空を覆い、黒い雨となって周辺国に降っています。
作家はこの雨を浴びた経験があります。
作品は、水の乏しい中東で喜ばれる噴水の形をしていますが、黒い水が天井近くまで
吹き上がり、黒い飛沫が周りの床にまで飛び散っています。
飛沫が飛ぶのは予想していなかったとのことで、展覧会が始まって日数が経つにつれ、
濃くなってきたそうです。
文明を支える一方で自然破壊を起こし、争奪戦に巻き込まれる石油を象徴的に
表しています。
窓の外の東京の景色を背景にすると、さらに深い意味合いを感じます。
アハマド・マーテル (サウジアラビア生まれ、在住)
「マグネティズム III」 2012年

磁石とそれに集まる鉄粉を撮った写真です。
アラブについての展覧会場でこれを見ると、メッカのカアバ神殿の周りを
周回する巡礼者に見えます。
まさしく、宗教の持つ、人々を吸引する力は磁石に似ています。
ゼーナ・エル・ハリール (イギリス生まれ、レバノン在住)
「軽めのファンダンゴを踊ったら」 2010年

2006年にイスラエル軍がレバノンに侵攻した時に空から撒いたビラの絵柄を使った、
コラージュです。
ビラにはシリアのアサド大統領、パレスチナのイスラム原理主義ハマースの
マシャアル政治局長、イランのアフマディネジャド大統領が笛を吹いて、
蛇になったレバノンのシーア派政治組織ヒズブッラーの指導者ナスルッラーを
踊らせているマンガが描かれています。
作者はこのマンガを逆手に取って、飛び切り派手でハッピーなポップアートに
仕立てています。
ファンダンゴはスペインの民俗舞曲で、地中海地域にもなじみのある音楽かも
しれません。
観ていて楽しいアートですが、その厳しい政治状況を思うと笑っていられなく
なります。
ハラーイル・サルキシアン (シリア生まれ、シリア/イギリス在住)
「処刑広場」 2008

アラブの都市風景に見えますが、これはシリアのアレッポ、ラタキア、ダマスカスの
3都市で公開処刑の行われた場所を、時間も同じ早朝に撮ったものです。
現在、シリアのアサド政権は反政府勢力の攻撃に晒されていますが、もし政権が
崩壊すれば、逆の立場での悲劇が始まる恐れもあります。
オライブ・トゥーカーン (アメリカ生まれ、在住)
「(より)新しい中東」 2007/12年


中東各国を磁石の付いた白いプレートにして、壁に並べられるようにしています。
英仏の植民地政策の結果として出来上がった国家と国境線を見直してみようと
するものです。
パレスチナだけは固定されていて、そこが基点となっています。
また、プレートにはアメリカの退役将校ラルフ・ピーターズが構想したという、
民族や宗教に基く新しい国境線も書き込まれています。
たしかに、現在の中東の不安定の原因の一つは人為的な国境線ですが、
これを再編成しようとすると大変な混乱を引き起こしそうです。
アラブの現代アートについてまったく知識が無かったので、この展覧会はとても
興味深く観ることが出来ました。
また、アラブの抱える問題の複雑さを改めて思い知ることにもなりました。
会場の最後にはアラブについての書籍や映像を閲覧できる、アラブ・ラウンジも
設けられています。

展覧会のHPです。
アークヒルズに、ドバイの世界一の高層ビル、ブルジュ・ハリーファを
写した広告がありました。

エドワード・W・サイードはオリエンタリズムについての理論家として有名です。
アラブ世界の抱える問題の一つは聖地エルサレムにあります。
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六本木の森美術館では「アラブ・エクスプレス展」が開かれています。
会期は10月28日(日)までで、会期中は無休です。

多様な文化と複雑な歴史を持つ現代のアラブ世界のアーティスト、
34組の作品の展示です。
日本で初めてのアラブの現代美術についての展覧会で、外務省やアラブ各国の
大使館も後援しています。
出展者のうち15人が女性とのことで、その比率の高さは意外でした。
7月20日に、ブログやツイッターを持っている人を対象にした特別鑑賞会が
ありましたので、私も参加させていただきました。
プロジェクトマネジャーの田篭美保さんによるギャラリーツァーのある夜7時に
合わせて行ってきました。
特別鑑賞会は撮影自由です。
インパクトのある色彩感覚の受付です。

アトファール・アハダース (レバノンで結成、活動中)
「私をここに連れて行って:想い出を作りたいから」 2010-12年

3人組のアーティストの作品で、レバノンの写真スタジオで流行している
プリクラのように特殊加工した写真に想を得ているそうです。
富士山、アークヒルズ、東京タワーとアフリカの動物たちが一緒になっています。
想い出も切り貼り出来るものになっていることを表しているようです。
シャリーフ・ワーキド (ナザレ生まれ、イスラエル/パレスチナ在住)
「次回へ続く」 2009年

約40分間のビデオ作品はイスラムのテロリストが銃を前に犯行声明を読み上げている
ようですが、実は「千夜一夜物語」を朗読しているところです。
アラブと言えば「千夜一夜物語」かイスラムのテロを思い浮かべる西欧の先入観への
皮肉を込めています。
銃もテロリストのよく使うカラシニコフではなく、米軍の小銃のようです。
「次回へ続く」という題名も効いています。
ハリーム・アル・カリーム (イラク生まれ、アラブ首長国連邦/アメリカ在住)
『無題1 「キングズ・ハーレム」シリーズより』 2008年

アラブの民族衣装を着ているように見えますが、これは架空のデザインで
実在はしないそうです。
ハーレムの女性という、西欧のステレオタイプのイメージ、いわゆる
オリエンタリズムに疑問を向けています。
ミーラ・フレイズ (アラブ首長国連邦生まれ、在住)
2010年 左から、「グラディエーター」「マドンナ」「ダンス ウイズ ウルブズ」

1989年生まれの女性の作品で、いろいろな仮面を被った女性の写真です。
人は他者からのイメージに合わせた仮面を被っていることを表しているようです。
イスラムの女性が顔を覆っているヒジャブを抑圧の象徴とみる風潮に対する批判も
込めているとのことです。
ハリーム・アル・カリーム (イラク生まれ、アラブ首長国連邦/アメリカ在住)
『無題1 「都会の目撃者」シリーズより』 2002年

口を塞がれ、顔の輪郭もぼやけた女性の眼はしっかりとこちらを見つめています。
言論の抑圧に対して、それを見据える姿勢を示しています。
彼自身もイラクのフセイン政権の弾圧を逃れて、3年間南部の砂漠の洞穴に
潜んでいた経験があるそうです。
ルラ・ハラワーニ (エルサレム生まれ、在住)
「親密さ」 2004年

パレスチナ人居住区とエルサレムの間に設けられた検問所でイスラエル兵士の
行なう身分証明書や手荷物の検査を隠し撮りしたものです。
パレスチナ人は仕事や用事でエルサレムに行くためにはここを通らねばならず、
「親密さ」という題とは無縁の緊張、不信が漂います。
アマール・ケナーウィ (エジプト生まれ、在住)
「羊たちの沈黙」 2009年

カイロの雑踏を羊飼いになった彼女に連れられた人たちが四つん這いになって
進む様子を写したビデオです。
呆気にとられたような顔をした通行人や、これは何なんだと言って食って掛かる
人もいます。
人びとが羊のように従順に従わされている状況を告発するパフォーマンスとも言え、
後に彼女も逮捕されてしまいます。
この後、アラブの春が始まってエジプト革命が起こり、2011年にムバラク政権は
崩壊しています。
それにしても、パフォーマンスに参加した人たちはいろいろな意味で勇気があったと
思います。
展覧会に出展されている作品の作家の中には2011年にカイロのタハリール広場の
騒乱で亡くなった人もいます。
リーム・アル・ガイス (アラブ首長国連邦生まれ、在住)
「ドバイ:その地には何が残されているのか?」 2008/11年

建設ラッシュに沸くアラブ首長国連邦のドバイを表したインスタレーションです。
周辺から建設労働者により人口の多数は外国人になっている現在のドバイを
作者は鳥の姿になって眺めています。
マハ・ムスタファ(イラク生まれ、カナダ/スウェーデン在住)
「ブラック・ファウンテン」 2008/12年
(夕方撮った写真)

(夜撮った写真)

1991年の湾岸戦争で、クウェートから退却するイラク軍が油田を爆破したため
黒煙が空を覆い、黒い雨となって周辺国に降っています。
作家はこの雨を浴びた経験があります。
作品は、水の乏しい中東で喜ばれる噴水の形をしていますが、黒い水が天井近くまで
吹き上がり、黒い飛沫が周りの床にまで飛び散っています。
飛沫が飛ぶのは予想していなかったとのことで、展覧会が始まって日数が経つにつれ、
濃くなってきたそうです。
文明を支える一方で自然破壊を起こし、争奪戦に巻き込まれる石油を象徴的に
表しています。
窓の外の東京の景色を背景にすると、さらに深い意味合いを感じます。
アハマド・マーテル (サウジアラビア生まれ、在住)
「マグネティズム III」 2012年

磁石とそれに集まる鉄粉を撮った写真です。
アラブについての展覧会場でこれを見ると、メッカのカアバ神殿の周りを
周回する巡礼者に見えます。
まさしく、宗教の持つ、人々を吸引する力は磁石に似ています。
ゼーナ・エル・ハリール (イギリス生まれ、レバノン在住)
「軽めのファンダンゴを踊ったら」 2010年

2006年にイスラエル軍がレバノンに侵攻した時に空から撒いたビラの絵柄を使った、
コラージュです。
ビラにはシリアのアサド大統領、パレスチナのイスラム原理主義ハマースの
マシャアル政治局長、イランのアフマディネジャド大統領が笛を吹いて、
蛇になったレバノンのシーア派政治組織ヒズブッラーの指導者ナスルッラーを
踊らせているマンガが描かれています。
作者はこのマンガを逆手に取って、飛び切り派手でハッピーなポップアートに
仕立てています。
ファンダンゴはスペインの民俗舞曲で、地中海地域にもなじみのある音楽かも
しれません。
観ていて楽しいアートですが、その厳しい政治状況を思うと笑っていられなく
なります。
ハラーイル・サルキシアン (シリア生まれ、シリア/イギリス在住)
「処刑広場」 2008

アラブの都市風景に見えますが、これはシリアのアレッポ、ラタキア、ダマスカスの
3都市で公開処刑の行われた場所を、時間も同じ早朝に撮ったものです。
現在、シリアのアサド政権は反政府勢力の攻撃に晒されていますが、もし政権が
崩壊すれば、逆の立場での悲劇が始まる恐れもあります。
オライブ・トゥーカーン (アメリカ生まれ、在住)
「(より)新しい中東」 2007/12年


中東各国を磁石の付いた白いプレートにして、壁に並べられるようにしています。
英仏の植民地政策の結果として出来上がった国家と国境線を見直してみようと
するものです。
パレスチナだけは固定されていて、そこが基点となっています。
また、プレートにはアメリカの退役将校ラルフ・ピーターズが構想したという、
民族や宗教に基く新しい国境線も書き込まれています。
たしかに、現在の中東の不安定の原因の一つは人為的な国境線ですが、
これを再編成しようとすると大変な混乱を引き起こしそうです。
アラブの現代アートについてまったく知識が無かったので、この展覧会はとても
興味深く観ることが出来ました。
また、アラブの抱える問題の複雑さを改めて思い知ることにもなりました。
会場の最後にはアラブについての書籍や映像を閲覧できる、アラブ・ラウンジも
設けられています。

展覧会のHPです。
アークヒルズに、ドバイの世界一の高層ビル、ブルジュ・ハリーファを
写した広告がありました。

エドワード・W・サイードはオリエンタリズムについての理論家として有名です。
アラブ世界の抱える問題の一つは聖地エルサレムにあります。
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会場でも訴えていたシリアのおぞましい現在に胸が痛みます。90年代に私はダマスカスに行った事があり、サラセンの古都のモスクやスークの中でアラブ史に思いを寄せた心地良い思い出がなつかしいです。
抑圧や障害が大きいと、逆に芸術の訴える力も強くなるのでしょう。
その点、日本はまだ平和で恵まれている分、パワーは足りないかもしれません。
シリアは心配したとおり、政府派の民兵が処刑されたりしているようです。
その点、日本はまだ平和で恵まれている分、パワーは足りないかもしれません。
シリアは心配したとおり、政府派の民兵が処刑されたりしているようです。
アラブの芸術は日本では馴染みが薄いので貴重な意欲的な企画ですね。戦火や宗教の対立などきな臭さの多い中、抑圧されている事も芸術作品に仕上げる強さが伝わってきます。私も7月下旬に足を運び、少し記事に載せてみました。
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blog_name=【弐代目・青い日記帳 】 ♥ 「アラブ・エクスプレス展」
森美術館で開催中の
「アラブ・エクスプレス展 アラブ美術の今を知る」に行って来ました。
アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る公式サイト
たとえ2,3回否5回、10回と...
【2012/07/28 16:03】
【2012/07/28 16:03】