東京
丸の内の三菱一号館美術館では「奇跡のクラークコレクション―ルノワールと
フランス絵画の傑作―」展が開かれています。
会期は5月26日(日)までです。

米国、マサチューセッツ州のクラーク美術館の所蔵する、ルノワールなど
印象派を中心にした約70点の作品の展示です。
クラーク美術館は、シンガーミシンの共同設立者の孫のロバート・スターリング・
クラークと妻のフランシーヌの収集した、ルネサンス期から19世紀末までの
絵画作品などのコレクションを所蔵しています。
特にルノワールは30点以上、他にも多数の印象派の作品を所蔵しています。
現在、安藤忠雄の設計による美術館の増改築工事に伴い、印象派を中心にした
コレクションが世界を巡回中です。
クラーク美術館はボストンから車で3時間という遠い所にあるので、今回の展覧会は
とても貴重な機会です。
カミーユ・コロー 「ボッロメーオ諸島の浴女たち」 1865-70年
ボッロメーオ諸島はイタリアとスイスにまたがるマッジョーレ湖にある島々です。
コロー独特の銀灰色がかった緑色で、木々と水辺の二人の浴女を描いています。
コローの作品は5点、展示されています。
ジャン=レオン・ジェローム 「蛇使い」 1879年頃

当時流行した東方趣味(オリエンタリズム)による作品で、ジェローム自身、
何度かオリエント地域を訪れています。
青いタイル壁が印象的ですが、イスタンブールのトプカプ宮殿のもので、
ところがオスマン・トルコでは蛇使いの芸は無かったそうです。
人びとの衣装や持物も各地域の寄せ集めということで、ジェロームは素材を
自由に取り合わせて描いていたようです。
ジェームズ・ティソ 「菊」 1874-76年頃

ジェームズ・ティソ(1836-1902)はフランスの画家で、普仏戦争に出征した後、
フランス敗北後のパリ・コミューンに参加したため、1871年にイギリスに
亡命しています。
イギリスでは上流階級の女性風俗を描いて大成功を収めています。
当時、菊は大気汚染にも耐える植物として好まれ、また、植物を育てるのは
ヴィクトリア朝の女性の持つべき教養ともされていたそうです。
日に当たって輝く菊の群れに埋れて世話している女性は、「教養」というには
大変そうな仕事をしているように見えます。
パリ・コミューンに参加した画家が上流階級の風俗を描いて評判を得るというのも
面白い話です。
ドガやルノワールも普仏戦争に出征しており、ティソは印象派の人たちとは
同時代人ですが、その作風の違いを観ると印象派がどれほど当時の標準と
離れていたかが分かります。
カミーユ・ピサロ 「ポントワーズ付近のオワーズ川」 1873年

ポントワーズはフランス北部の町で、ピサロは長くここに住んでいます。
空を大きく取った、ピサロらしい構図で、まとまった色彩で大まかに描かれ、
おだやかな雰囲気になっています。
この辺りも工業化の波が押し寄せていて、ピサロはそれに興味を持ったのか
工場と煙突の煙も描き入れています。
ウジェーヌ・ブーダン 「港へ戻る帆船、トゥルーヴィル」 1894年
海辺の光景で、左から吹く風に煽られて汽船も帆掛け舟も右に傾いています。
波立つ海、流れる雲が描かれ、全体に明るく、風の勢いが感じられます。
トゥルーヴィルはノルマンディー海岸にある町です。
ブーダンの作品はこの1点が展示されています。
クロード・モネ 「小川のガチョウ」 1874年

パリ郊外のアルジャントゥイユに住んでいた時の作品で、この年に第1回印象派展が
開かれています。
ガチョウの作る青い水紋、水に映る白、木々の影、日の当たる白壁と赤い屋根、
青い空と、光に満ちた世界が広がっています。
クロード・モネ 「エトルタの断崖」 1885年

朝日の当たる岩と海面に映る影、暗い日陰、日を受けた帆船、朝焼けの残る空と雲、
光のつくるさまざまな情景を描き出しています。
エトルタの断崖風景は、モネが先達と認めていたブーダン、ヨンキント、
クールベが描いています。
モネは彼らと比較するため、また自分をフランスの風景画の伝統の中に
位置付けるために描いたとのことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「うちわを持つ少女」 1879年頃

ジャポニズム趣味の作品で、人物、団扇、花が重なって華やかです。
顔立ちは入念に描かれ、優しい雰囲気になっています。
服の濃い青と、花の赤が互いにうまく引き立ち、背景の緑と白の縞の色は
フランス風で洒落ています。
女性は女優のジャンヌ・サマリーで、彼女はよくルノワールのモデルに
なってるとのことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「テレーズ・ベラール」 1879年

銀行家で外交官の13歳の娘、テレーズを描いています。
深い青色の際立つ作品で、少女の上品な雰囲気を表しています。
テレーズの息子によれば、彼女が着せられているブラウスが田舎で子供たちが
着ているもので優雅には思えず、この絵が気に入らなかったそうです。
「うちわを持つ少女」と「テレーズ・ベラール」の2点は2010年に国立新美術館で
開かれていた「ルノワール~伝統と革新」展に
出品されていました。
「ルノワール~伝統と革新」展の記事です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「劇場の桟敷席(音楽界にて)」 1880年

短い金髪に黒いドレス、長い黒髪に白いドレスの愛らしい二人の少女を
描いています。
手に楽譜を持って、音楽会の場面であることを示しています。
肖像画として描いたものの注文主が受け取らなかったので、右上にあった
男性の姿を消して画面を造り換えたそうです。
最初、作品を観たとき、右上が空きすぎているのではないかと思いましたが、
訳が分かりました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「金髪の浴女」 1881年

若い生命力を表す肌色と、背景の薄紫色が調和した、輝きのある作品です。
肖像画としての特徴も持っていて、目をくっきりと描いて作品に力を与えています。
モデルは、後に妻となるアリーヌ・シャリゴです。
同時代のアカデミズムを代表するウィリアム=アドルフ・ブグローの
「座る裸婦」(1884年)も展示されています。
たくみな写実の際立つ作品ですが、ルノワールの華やかさ、楽しさと比べると
固いものを感じます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「鳥と少女(アルジェリアの
民族衣装をつけたフルーリー嬢)」 1882年

西欧人の少女を描いていますが、フルーリーが誰かは不明とのことです。
東方趣味(オリエンタリズム)による作品ですが、異国趣味よりも開放感に
あふれた色彩に目を惹かれます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「シャクヤク」 1880年頃

咲き誇るシャクヤクが画面いっぱいに勢い良く広がっています。
描いているうちに萎れてしまったらしい枝もかまわず一緒に描き込んでいます。
ルノワールは22点が展示されています。
エドゥアール・マネ 「花瓶のモスローズ」 1882年

亡くなる前年の作品で、体調の不良のため小品を描いています。
シックな色調はやはりマネです。
マネの作品はこの1点が展示されています。
印象派を中心にした、多くが日本初公開の素晴らしい作品をたっぷり観られて、
とても満足できる展覧会でした。
靴音対策として3階展示室の床がカーペット敷きになり、静かになりました。
元々はオフィスで小さく区切られた展示室に多くの作品が並んでいるので、
これからかなり混雑するのではないかと思います。
展覧会のHPです。
***
三菱一号館美術館の次回の展覧会は、「浮世絵 Floating World
-珠玉の斎藤コレクション-」展です。
会期は6月22日(土)から9月8日(日)までです。

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丸の内の三菱一号館美術館では「奇跡のクラークコレクション―ルノワールと
フランス絵画の傑作―」展が開かれています。
会期は5月26日(日)までです。

米国、マサチューセッツ州のクラーク美術館の所蔵する、ルノワールなど
印象派を中心にした約70点の作品の展示です。
クラーク美術館は、シンガーミシンの共同設立者の孫のロバート・スターリング・
クラークと妻のフランシーヌの収集した、ルネサンス期から19世紀末までの
絵画作品などのコレクションを所蔵しています。
特にルノワールは30点以上、他にも多数の印象派の作品を所蔵しています。
現在、安藤忠雄の設計による美術館の増改築工事に伴い、印象派を中心にした
コレクションが世界を巡回中です。
クラーク美術館はボストンから車で3時間という遠い所にあるので、今回の展覧会は
とても貴重な機会です。
カミーユ・コロー 「ボッロメーオ諸島の浴女たち」 1865-70年
ボッロメーオ諸島はイタリアとスイスにまたがるマッジョーレ湖にある島々です。
コロー独特の銀灰色がかった緑色で、木々と水辺の二人の浴女を描いています。
コローの作品は5点、展示されています。
ジャン=レオン・ジェローム 「蛇使い」 1879年頃

当時流行した東方趣味(オリエンタリズム)による作品で、ジェローム自身、
何度かオリエント地域を訪れています。
青いタイル壁が印象的ですが、イスタンブールのトプカプ宮殿のもので、
ところがオスマン・トルコでは蛇使いの芸は無かったそうです。
人びとの衣装や持物も各地域の寄せ集めということで、ジェロームは素材を
自由に取り合わせて描いていたようです。
ジェームズ・ティソ 「菊」 1874-76年頃

ジェームズ・ティソ(1836-1902)はフランスの画家で、普仏戦争に出征した後、
フランス敗北後のパリ・コミューンに参加したため、1871年にイギリスに
亡命しています。
イギリスでは上流階級の女性風俗を描いて大成功を収めています。
当時、菊は大気汚染にも耐える植物として好まれ、また、植物を育てるのは
ヴィクトリア朝の女性の持つべき教養ともされていたそうです。
日に当たって輝く菊の群れに埋れて世話している女性は、「教養」というには
大変そうな仕事をしているように見えます。
パリ・コミューンに参加した画家が上流階級の風俗を描いて評判を得るというのも
面白い話です。
ドガやルノワールも普仏戦争に出征しており、ティソは印象派の人たちとは
同時代人ですが、その作風の違いを観ると印象派がどれほど当時の標準と
離れていたかが分かります。
カミーユ・ピサロ 「ポントワーズ付近のオワーズ川」 1873年

ポントワーズはフランス北部の町で、ピサロは長くここに住んでいます。
空を大きく取った、ピサロらしい構図で、まとまった色彩で大まかに描かれ、
おだやかな雰囲気になっています。
この辺りも工業化の波が押し寄せていて、ピサロはそれに興味を持ったのか
工場と煙突の煙も描き入れています。
ウジェーヌ・ブーダン 「港へ戻る帆船、トゥルーヴィル」 1894年
海辺の光景で、左から吹く風に煽られて汽船も帆掛け舟も右に傾いています。
波立つ海、流れる雲が描かれ、全体に明るく、風の勢いが感じられます。
トゥルーヴィルはノルマンディー海岸にある町です。
ブーダンの作品はこの1点が展示されています。
クロード・モネ 「小川のガチョウ」 1874年

パリ郊外のアルジャントゥイユに住んでいた時の作品で、この年に第1回印象派展が
開かれています。
ガチョウの作る青い水紋、水に映る白、木々の影、日の当たる白壁と赤い屋根、
青い空と、光に満ちた世界が広がっています。
クロード・モネ 「エトルタの断崖」 1885年

朝日の当たる岩と海面に映る影、暗い日陰、日を受けた帆船、朝焼けの残る空と雲、
光のつくるさまざまな情景を描き出しています。
エトルタの断崖風景は、モネが先達と認めていたブーダン、ヨンキント、
クールベが描いています。
モネは彼らと比較するため、また自分をフランスの風景画の伝統の中に
位置付けるために描いたとのことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「うちわを持つ少女」 1879年頃

ジャポニズム趣味の作品で、人物、団扇、花が重なって華やかです。
顔立ちは入念に描かれ、優しい雰囲気になっています。
服の濃い青と、花の赤が互いにうまく引き立ち、背景の緑と白の縞の色は
フランス風で洒落ています。
女性は女優のジャンヌ・サマリーで、彼女はよくルノワールのモデルに
なってるとのことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「テレーズ・ベラール」 1879年

銀行家で外交官の13歳の娘、テレーズを描いています。
深い青色の際立つ作品で、少女の上品な雰囲気を表しています。
テレーズの息子によれば、彼女が着せられているブラウスが田舎で子供たちが
着ているもので優雅には思えず、この絵が気に入らなかったそうです。
「うちわを持つ少女」と「テレーズ・ベラール」の2点は2010年に国立新美術館で
開かれていた「ルノワール~伝統と革新」展に
出品されていました。
「ルノワール~伝統と革新」展の記事です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「劇場の桟敷席(音楽界にて)」 1880年

短い金髪に黒いドレス、長い黒髪に白いドレスの愛らしい二人の少女を
描いています。
手に楽譜を持って、音楽会の場面であることを示しています。
肖像画として描いたものの注文主が受け取らなかったので、右上にあった
男性の姿を消して画面を造り換えたそうです。
最初、作品を観たとき、右上が空きすぎているのではないかと思いましたが、
訳が分かりました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「金髪の浴女」 1881年

若い生命力を表す肌色と、背景の薄紫色が調和した、輝きのある作品です。
肖像画としての特徴も持っていて、目をくっきりと描いて作品に力を与えています。
モデルは、後に妻となるアリーヌ・シャリゴです。
同時代のアカデミズムを代表するウィリアム=アドルフ・ブグローの
「座る裸婦」(1884年)も展示されています。
たくみな写実の際立つ作品ですが、ルノワールの華やかさ、楽しさと比べると
固いものを感じます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「鳥と少女(アルジェリアの
民族衣装をつけたフルーリー嬢)」 1882年

西欧人の少女を描いていますが、フルーリーが誰かは不明とのことです。
東方趣味(オリエンタリズム)による作品ですが、異国趣味よりも開放感に
あふれた色彩に目を惹かれます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「シャクヤク」 1880年頃

咲き誇るシャクヤクが画面いっぱいに勢い良く広がっています。
描いているうちに萎れてしまったらしい枝もかまわず一緒に描き込んでいます。
ルノワールは22点が展示されています。
エドゥアール・マネ 「花瓶のモスローズ」 1882年

亡くなる前年の作品で、体調の不良のため小品を描いています。
シックな色調はやはりマネです。
マネの作品はこの1点が展示されています。
印象派を中心にした、多くが日本初公開の素晴らしい作品をたっぷり観られて、
とても満足できる展覧会でした。
靴音対策として3階展示室の床がカーペット敷きになり、静かになりました。
元々はオフィスで小さく区切られた展示室に多くの作品が並んでいるので、
これからかなり混雑するのではないかと思います。
展覧会のHPです。
***
三菱一号館美術館の次回の展覧会は、「浮世絵 Floating World
-珠玉の斎藤コレクション-」展です。
会期は6月22日(土)から9月8日(日)までです。

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blog_name=【弐代目・青い日記帳 】 ♥ 「奇跡のクラーク・コレクション展」
三菱一号館美術館で開催中の
「奇跡のクラーク・コレクション― ルノワールとフランス絵画の傑作」展に行って来ました。
「クラーク・コレクション展」公式サイト:http://mimt.jp/cla...
【2013/02/16 16:40】
【2013/02/16 16:40】