三越前
日本橋の三井記念美術館では特別展、「超絶技巧! 明治工芸の粋」が
開かれています。
会期は4月6日(日)までです。

京都の清水三年坂美術館の所蔵する、七宝、金工、漆工、牙彫、陶芸など
精緻を極めた明治の工芸品約160点の展示です。
4月26日の夜にweb特別鑑賞会があったので、行ってきました。
浅野研究所の広瀬麻美さんの司会で、山下裕二明治学院大学教授の解説を
伺いました。
清水三年坂美術館の館長でこのコレクションを収集された村田理如(まさゆき)
さんも来られていて、お話を伺うことが出来ました。
江戸時代、将軍や諸大名の需要をまかなっていた工芸の職人たちは
明治維新によって顧客を失ったため、明治政府は彼らの保護と外貨獲得のため、
輸出用の工芸品を彼らに作らせています。
そのため、工芸技術は明治時代に頂点を極め、優良品は海外に流出していく
状況が現在まで続いています。
やがて日本では西洋芸術の流入によって、在来の工芸は衰えていくのに対し、
現在も海外で最も人気のある日本の芸術は浮世絵と明治の工芸品だそうです。
七宝 「花文飾り壺」 並河靖之

展示室1の最初に展示されています。
小さな壺で、この展覧会から使用されたというLED照明の下で煌めいています。
色の境目に金属線を置く、有線七宝という技法を用いていて、七宝らしい
くっきりした模様が漆黒の背景に浮かび上がっています。
七宝 「桜蝶図平皿」 並河靖之

桜花で囲まれた鮮やかな緑色の地にさまざまな蝶が舞っています。
モンキチョウが他のチョウに重なっていて、空間性もあります。
七宝 「藤図花瓶」 濤川惣助


色を置いた後、焼成する前に金属線を抜く、無線七宝という技術を
使っています。
境界線がぼやけるので、白い藤は筆で描いたような味わいがあります。
刺繍絵画 「瀑布図」 無銘

6月1日までの展示です。
絹糸の刺繍によって絵を仕上げていくもので、遠くから見ると
絵か写真のようです。
近くで見ると絹糸の光沢のある風合いを感じます。
保存の都合上、刺繍絵画の展示期間は短くなっています。
金工 「古瓦鳩香炉」 正阿弥勝義


古瓦に止まった鳩に見付かった蜘蛛が逃げようとして、下の方にわずかに
身を寄せた瞬間を捉えています。
古瓦は奈良県にある楽田寺の瓦のようで、鉄が古錆びた色を出しており、
鳩は銀製です。
牙彫(げちょう)・木彫 「竹の子、梅」 安藤緑山

牙彫は象牙などを使った彫刻です。
大きな一本の象牙から掘出した筍で、皮の破れまで再現した、本物と
見分けが付かない精巧な細工です。
緑山の作品はどれも支えが無くても自立できるように、上手く作られて
いるそうです。
安藤緑山は牙彫師で、野菜や果物を得意とし、素材に着色するという、
当時は異端だった技法を使っています。
作品は数十点残っていますが、弟子も取らなかったため、彫りや彩色の
技法も伝わらず、緑山自身の経歴もほとんど判っていないそうです。
以下も安藤緑山の牙彫です。
左から仏手柑、柿、バナナ、パイナップル

柘榴、蜜柑

茄子

竹の子、豌豆、独活、玉蜀黍、パセリ、蕪

蜂の巣、焼き栗、霊芝、蝸牛

牙彫・木彫 「葛に蜘蛛の巣図文庫」 旭玉山

桐の箱に象牙などの別の素材を嵌め込む彫嵌の技法によっています。
旭玉山(1843-1923)は牙彫作家で、高村光雲とともに東京美術学校の
教授も勤めています。
明治には輸出用に牙彫が盛んに作られ、高村光雲の言葉によれば、
「彫刻の世界は象牙で真ッ白になってしまいました」というほど
だったそうです。
木彫が近代彫刻として発展してきたのに対し、現在では牙彫はあまり
知られなくなってしまいました。
牙彫・木彫 「法師狸」 高村光雲

近代彫刻の祖とされる高村光雲の作品です。
昔話の「狸和尚」から想を得た木彫で、袈裟を掛け、衣を担いだ
狸を彫っています。
茶室には三井記念美術館の所蔵する、安藤緑山の「仏手柑」が
展示されていました。


自在 「鯉」 高橋好山

自在とは、金属の小さな部品をつなぎ合わせて、実物と同じように
形を変えることの出来る置物です。
鱗がびっしりと並んだ胴体や鰭を動かすことが出来ます。
甲冑師の技術により制作されたもので、甲冑の需要の激減し
た江戸時代の末期に特に盛んになり、輸出もされるようになります。
刀装具 「鳳凰花桐文銀装兵庫鎖太刀拵」 海野勝珉


明治天皇への献上のため、三井家から注文を受けたものの、
制作に15年掛かったため、天皇の崩御により献上は
叶わなかったそうです。
海野勝珉や正阿弥勝義は江戸期には刀装具を作っていたのが、
明治になりさまざまな金工品を手掛けるようになっています。
漆工 「四季草花蒔絵堤箪笥」 赤塚自得

蒔絵や螺鈿で牡丹、藤、山吹、鉄線などを描いた、とても豪華な
作品です。
扉を開けると蛍の飛び交う夏の景色になっているそうです。
漆工 「渦文蒔絵香合」 白山松哉


小さな香合の全面に隙間なく同じ太さの細い線が渦巻き状に入っています。
この線は器物の方を動かして描いてあるそうです。
漆工 「宝舟蒔絵茶箱」 柴田是真

漆絵で有名な柴田是真の作で、宝舟には笠、七宝文、珊瑚、巻物などが
載っています。
近代的なすっきりしたデザインの作品です。
漆工 「鍔に煙管図堤箪笥」 無銘(柴山細工)

芝山細工は漆などの面の上に貝や珊瑚、象牙、べっ甲などを貼って図柄を
描きます。
江戸時代に上総国芝山(現在の千葉県芝山町)の大野木専蔵が考案し、
将軍家の御用にも使われています。
薩摩 「花見図花瓶」 錦光山

薩摩焼は幕末に金彩色絵の豪華な製品が作られ、パリやウィーンでの
万国博覧会で好評を得たことから、輸出工芸品として盛んになります。
花見の様子を描いた花瓶の上部にアール・ヌーボー風の植物を
巻き付かせています。
アール・ヌーボーは日本からの湧出された工芸品に影響を受けていますが、
逆の流れもあるという面白い例です。
薩摩 「雀蝶尽し茶碗」 精巧山

器の外側を雀、内側を小さな蝶で埋め尽くしています。
作者の精巧山については経歴が分からないそうです。
文字通り、どの作品も超絶技巧の連続で、観終わるとご馳走を存分に味わった
ような満足感があります。
細部にも徹底的にこだわる日本人の特質がよく表れています。
これらの作品の中には作者の名や経歴の分からない物もあるというのは
惜しいことで、今後の研究が進むことを期待します。
日本の工芸技術を見直す良い機会になる、とても興味深く、面白い展覧会です。
展覧会のHPです。
三井記念美術館の次回の展覧会は、「能面と能装束展」です。
会期は7月24日(木)から9月21日(日)までです。

chariot
日本橋の三井記念美術館では特別展、「超絶技巧! 明治工芸の粋」が
開かれています。
会期は4月6日(日)までです。

京都の清水三年坂美術館の所蔵する、七宝、金工、漆工、牙彫、陶芸など
精緻を極めた明治の工芸品約160点の展示です。
4月26日の夜にweb特別鑑賞会があったので、行ってきました。
浅野研究所の広瀬麻美さんの司会で、山下裕二明治学院大学教授の解説を
伺いました。
清水三年坂美術館の館長でこのコレクションを収集された村田理如(まさゆき)
さんも来られていて、お話を伺うことが出来ました。
江戸時代、将軍や諸大名の需要をまかなっていた工芸の職人たちは
明治維新によって顧客を失ったため、明治政府は彼らの保護と外貨獲得のため、
輸出用の工芸品を彼らに作らせています。
そのため、工芸技術は明治時代に頂点を極め、優良品は海外に流出していく
状況が現在まで続いています。
やがて日本では西洋芸術の流入によって、在来の工芸は衰えていくのに対し、
現在も海外で最も人気のある日本の芸術は浮世絵と明治の工芸品だそうです。
七宝 「花文飾り壺」 並河靖之

展示室1の最初に展示されています。
小さな壺で、この展覧会から使用されたというLED照明の下で煌めいています。
色の境目に金属線を置く、有線七宝という技法を用いていて、七宝らしい
くっきりした模様が漆黒の背景に浮かび上がっています。
七宝 「桜蝶図平皿」 並河靖之

桜花で囲まれた鮮やかな緑色の地にさまざまな蝶が舞っています。
モンキチョウが他のチョウに重なっていて、空間性もあります。
七宝 「藤図花瓶」 濤川惣助


色を置いた後、焼成する前に金属線を抜く、無線七宝という技術を
使っています。
境界線がぼやけるので、白い藤は筆で描いたような味わいがあります。
刺繍絵画 「瀑布図」 無銘

6月1日までの展示です。
絹糸の刺繍によって絵を仕上げていくもので、遠くから見ると
絵か写真のようです。
近くで見ると絹糸の光沢のある風合いを感じます。
保存の都合上、刺繍絵画の展示期間は短くなっています。
金工 「古瓦鳩香炉」 正阿弥勝義


古瓦に止まった鳩に見付かった蜘蛛が逃げようとして、下の方にわずかに
身を寄せた瞬間を捉えています。
古瓦は奈良県にある楽田寺の瓦のようで、鉄が古錆びた色を出しており、
鳩は銀製です。
牙彫(げちょう)・木彫 「竹の子、梅」 安藤緑山

牙彫は象牙などを使った彫刻です。
大きな一本の象牙から掘出した筍で、皮の破れまで再現した、本物と
見分けが付かない精巧な細工です。
緑山の作品はどれも支えが無くても自立できるように、上手く作られて
いるそうです。
安藤緑山は牙彫師で、野菜や果物を得意とし、素材に着色するという、
当時は異端だった技法を使っています。
作品は数十点残っていますが、弟子も取らなかったため、彫りや彩色の
技法も伝わらず、緑山自身の経歴もほとんど判っていないそうです。
以下も安藤緑山の牙彫です。
左から仏手柑、柿、バナナ、パイナップル

柘榴、蜜柑

茄子

竹の子、豌豆、独活、玉蜀黍、パセリ、蕪

蜂の巣、焼き栗、霊芝、蝸牛

牙彫・木彫 「葛に蜘蛛の巣図文庫」 旭玉山

桐の箱に象牙などの別の素材を嵌め込む彫嵌の技法によっています。
旭玉山(1843-1923)は牙彫作家で、高村光雲とともに東京美術学校の
教授も勤めています。
明治には輸出用に牙彫が盛んに作られ、高村光雲の言葉によれば、
「彫刻の世界は象牙で真ッ白になってしまいました」というほど
だったそうです。
木彫が近代彫刻として発展してきたのに対し、現在では牙彫はあまり
知られなくなってしまいました。
牙彫・木彫 「法師狸」 高村光雲

近代彫刻の祖とされる高村光雲の作品です。
昔話の「狸和尚」から想を得た木彫で、袈裟を掛け、衣を担いだ
狸を彫っています。
茶室には三井記念美術館の所蔵する、安藤緑山の「仏手柑」が
展示されていました。


自在 「鯉」 高橋好山

自在とは、金属の小さな部品をつなぎ合わせて、実物と同じように
形を変えることの出来る置物です。
鱗がびっしりと並んだ胴体や鰭を動かすことが出来ます。
甲冑師の技術により制作されたもので、甲冑の需要の激減し
た江戸時代の末期に特に盛んになり、輸出もされるようになります。
刀装具 「鳳凰花桐文銀装兵庫鎖太刀拵」 海野勝珉


明治天皇への献上のため、三井家から注文を受けたものの、
制作に15年掛かったため、天皇の崩御により献上は
叶わなかったそうです。
海野勝珉や正阿弥勝義は江戸期には刀装具を作っていたのが、
明治になりさまざまな金工品を手掛けるようになっています。
漆工 「四季草花蒔絵堤箪笥」 赤塚自得

蒔絵や螺鈿で牡丹、藤、山吹、鉄線などを描いた、とても豪華な
作品です。
扉を開けると蛍の飛び交う夏の景色になっているそうです。
漆工 「渦文蒔絵香合」 白山松哉


小さな香合の全面に隙間なく同じ太さの細い線が渦巻き状に入っています。
この線は器物の方を動かして描いてあるそうです。
漆工 「宝舟蒔絵茶箱」 柴田是真

漆絵で有名な柴田是真の作で、宝舟には笠、七宝文、珊瑚、巻物などが
載っています。
近代的なすっきりしたデザインの作品です。
漆工 「鍔に煙管図堤箪笥」 無銘(柴山細工)

芝山細工は漆などの面の上に貝や珊瑚、象牙、べっ甲などを貼って図柄を
描きます。
江戸時代に上総国芝山(現在の千葉県芝山町)の大野木専蔵が考案し、
将軍家の御用にも使われています。
薩摩 「花見図花瓶」 錦光山

薩摩焼は幕末に金彩色絵の豪華な製品が作られ、パリやウィーンでの
万国博覧会で好評を得たことから、輸出工芸品として盛んになります。
花見の様子を描いた花瓶の上部にアール・ヌーボー風の植物を
巻き付かせています。
アール・ヌーボーは日本からの湧出された工芸品に影響を受けていますが、
逆の流れもあるという面白い例です。
薩摩 「雀蝶尽し茶碗」 精巧山

器の外側を雀、内側を小さな蝶で埋め尽くしています。
作者の精巧山については経歴が分からないそうです。
文字通り、どの作品も超絶技巧の連続で、観終わるとご馳走を存分に味わった
ような満足感があります。
細部にも徹底的にこだわる日本人の特質がよく表れています。
これらの作品の中には作者の名や経歴の分からない物もあるというのは
惜しいことで、今後の研究が進むことを期待します。
日本の工芸技術を見直す良い機会になる、とても興味深く、面白い展覧会です。
展覧会のHPです。
三井記念美術館の次回の展覧会は、「能面と能装束展」です。
会期は7月24日(木)から9月21日(日)までです。

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こんにちは。
どれもこれも絶品ですね。特にナスがお気に入りです。ほしい。買ったら幾らになるんだろうか。自分で彫れば只だな。できるかな。ナスば成る。・・・・はい、すみません。これが言いたかっただけですorz
どれもこれも絶品ですね。特にナスがお気に入りです。ほしい。買ったら幾らになるんだろうか。自分で彫れば只だな。できるかな。ナスば成る。・・・・はい、すみません。これが言いたかっただけですorz
安藤緑山の作品は高級すぎて、皇室買上げや三井家の購入が
中心になっていて、おかげでほとん海外流出していないそうです。
私も三の丸尚蔵館で、皮を剥きかけの蜜柑を観たことがあります。