東京・京橋・日本橋
東京駅八重洲口のブリヂストン美術館では、4月12日(日)まで、同館のコレクション
による、「名画と出合う-印象派から抽象絵画まで」という展覧会が開かれています。


ブリヂストン美術館は1952年に開館し、1999年にリニューアルされています。
白を基調にした館内には図書コーナー、ティールーム、ミュージアムショップ、ロッカーが
揃っています。
パンフレットも英語並記で書かれ、音声ガイドもあります。
毎週水曜日、金曜日にはギャラリートークがあり、ほぼ隔週土曜日には
土曜講座(有料)があります。
私は、こちらでの若桑みどりさんの講座で、光と闇の画家、カラヴァッジョを知りました。
とても充実した設備と行き届いた運営の美術館だと思います。

今回の展覧会は、以下の4つのグループで構成されています。
I. 印象派の誕生と印象派以降の動き 絵画44点
II. 20世紀美術の台頭 33点
III. 抽象絵画の発生と展開 25点
IV. 日本近代洋画のあゆみ 29点
この他に古代美術や近現代彫刻を合わせて、180点が展示されています。
この中で私の出会った名画について、思いつくままに書いてみます。
特別出品として1点展示されています。
レンブラント・ファン・レイン
「聖書あるいは物語に取材した夜の情景」1626~28年
とても小さな絵で、火の周りで男たちが話をしています。
鎧を着た男もいて、題名の通り、何か物語性を感じます。
新約聖書の「ペテロの否認」の場面か何かでしょうか。
レンブラントはカラヴァッジョの影響を受けているということですが、
確かにカラヴァッジョと同じく、光が劇的な情景を作り上げています。
I. 印象派の誕生と印象派以降の動き
カミーユ・コロー
「ヴィル=ダブレー」1835~40年
ヴィル=ダブレーには父の別荘があり、コローも晩年までここで制作を続けたそうです。
暗い森の中を奥へと続く道、木々の合間に見える明るい空と木洩れ日が印象的です。
レンブラントの時代とは違い、光は日常の中にあります。
「オン・フルールのトゥータン農場」1845年頃
森の中の大きな一軒家です。
家には強い日が射していて、コローが光を強調しているのが分かります。
この、自然の光への注目が、後の印象派に影響を与えたとのことです。
「森の中の若い女」1865年
暗い森の前に立つ、若い女性の全身像です。
写実的で古典的な画風で、顔の表情や前に組んだ腕の描き方など、
コローが肖像画も巧みだったことがよく分かります。
女性の右から日が当たり、こちらを見ている顔を立体的にしています。
室内画にしてもよい絵だと思いますが、背景を森にしたのは、外の光である
ということを表現したかったのでしょうか。
ジャン=フランソワ・ミレー
「乳しぼりの女」1854~60年
夕暮れでしょうか、前景の牛と、乳をしぼる女性の輪郭はぼんやりとして、
丘の上の空は淡く紅色がかっています。
ミレーも、ニューオータニ美術館の「新春展」で観た、「田園に沈む夕陽」と同じく、
日の沈む前のわずかな時間の光の変化を捉えようとしています。
カミーユ・ピサロ
「ブージヴァルのセーヌ河」1870年
田舎の川べりの明るい、穏やかな風景で、空は大きく広がり、並木や丘も見え、
いかにも印象派らしい風景画です。
万遍なく日が当たり、画面全体が明るい分、平面的な感じもします。
「菜園」1878年
木や畑、向こうの家々にも日が当たり、影も目立たず、全体に明るい画面です。
近景も遠景も同じように明るいので、ますます平面的に見えてきます。
コローに比べるとピサロの絵は明るく、その分、アクセントが無くなっていくのが
分かります。
アルフレッド・シスレー
「森へ行く女たち」1866年
晴れた日に田舎の家の並ぶ前を、3人のおばあさんが歩いています。
家の影の暗い部分が大きく描かれ、絵にアクセントを付けています。
逆光で写真を撮っているような感じですが、よく観ると、影の映る方向が
現実の景色とは違うような気がします。
光と影の関係を強く意識した構図にしたためでしょう。
「サン=マメス六月の朝」1884年
ピサロの「ブージヴァルのセーヌ河」と同じく、川べりの穏やかな風景ですが、
画面手前の道路のほとんどが建物の影になっています。
影は「森へ行く女たち」ほど暗くはありませんが、画面に立体感を与えています。
コローの暗い画面の中の明るい光に対して、シスレーは明るい画面の中の影に
注目しているようです。
クロード・モネ
「黄昏、ベネツィア」1908年
モネは6点展示されて、池、川、海と、どれも水の絵です。
有名な「水練の池」もあり、洪水の情景まであります。
空の映った水面を描いて、光の具合による水の色彩の変化を追求しています。
この絵はその中で一番新しい作品です。
黄昏時、海も空も境なく青から赤への虹色に輝く中に、寺院と鐘楼が影となって
浮かんでいます。
まさしく「印象」派の名前にふさわしい作品です。
印象派以前のターナーも後期によく似た絵を描いていて、ターナーが印象派の
先駆者と言われる訳もよく分かります。
コローの絵は古典的で分かりやすかったのですが、ここまで来ると、絵を観る方で
画家の感じた「印象」に付き合わないといけません。
絵画の主導権が観客から画家に移ったということでしょうか。
続きは次の回に書きます。
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東京駅八重洲口のブリヂストン美術館では、4月12日(日)まで、同館のコレクション
による、「名画と出合う-印象派から抽象絵画まで」という展覧会が開かれています。


ブリヂストン美術館は1952年に開館し、1999年にリニューアルされています。
白を基調にした館内には図書コーナー、ティールーム、ミュージアムショップ、ロッカーが
揃っています。
パンフレットも英語並記で書かれ、音声ガイドもあります。
毎週水曜日、金曜日にはギャラリートークがあり、ほぼ隔週土曜日には
土曜講座(有料)があります。
私は、こちらでの若桑みどりさんの講座で、光と闇の画家、カラヴァッジョを知りました。
とても充実した設備と行き届いた運営の美術館だと思います。

今回の展覧会は、以下の4つのグループで構成されています。
I. 印象派の誕生と印象派以降の動き 絵画44点
II. 20世紀美術の台頭 33点
III. 抽象絵画の発生と展開 25点
IV. 日本近代洋画のあゆみ 29点
この他に古代美術や近現代彫刻を合わせて、180点が展示されています。
この中で私の出会った名画について、思いつくままに書いてみます。
特別出品として1点展示されています。
レンブラント・ファン・レイン
「聖書あるいは物語に取材した夜の情景」1626~28年
とても小さな絵で、火の周りで男たちが話をしています。
鎧を着た男もいて、題名の通り、何か物語性を感じます。
新約聖書の「ペテロの否認」の場面か何かでしょうか。
レンブラントはカラヴァッジョの影響を受けているということですが、
確かにカラヴァッジョと同じく、光が劇的な情景を作り上げています。
I. 印象派の誕生と印象派以降の動き
カミーユ・コロー
「ヴィル=ダブレー」1835~40年
ヴィル=ダブレーには父の別荘があり、コローも晩年までここで制作を続けたそうです。
暗い森の中を奥へと続く道、木々の合間に見える明るい空と木洩れ日が印象的です。
レンブラントの時代とは違い、光は日常の中にあります。
「オン・フルールのトゥータン農場」1845年頃
森の中の大きな一軒家です。
家には強い日が射していて、コローが光を強調しているのが分かります。
この、自然の光への注目が、後の印象派に影響を与えたとのことです。
「森の中の若い女」1865年
暗い森の前に立つ、若い女性の全身像です。
写実的で古典的な画風で、顔の表情や前に組んだ腕の描き方など、
コローが肖像画も巧みだったことがよく分かります。
女性の右から日が当たり、こちらを見ている顔を立体的にしています。
室内画にしてもよい絵だと思いますが、背景を森にしたのは、外の光である
ということを表現したかったのでしょうか。
ジャン=フランソワ・ミレー
「乳しぼりの女」1854~60年
夕暮れでしょうか、前景の牛と、乳をしぼる女性の輪郭はぼんやりとして、
丘の上の空は淡く紅色がかっています。
ミレーも、ニューオータニ美術館の「新春展」で観た、「田園に沈む夕陽」と同じく、
日の沈む前のわずかな時間の光の変化を捉えようとしています。
カミーユ・ピサロ
「ブージヴァルのセーヌ河」1870年
田舎の川べりの明るい、穏やかな風景で、空は大きく広がり、並木や丘も見え、
いかにも印象派らしい風景画です。
万遍なく日が当たり、画面全体が明るい分、平面的な感じもします。
「菜園」1878年
木や畑、向こうの家々にも日が当たり、影も目立たず、全体に明るい画面です。
近景も遠景も同じように明るいので、ますます平面的に見えてきます。
コローに比べるとピサロの絵は明るく、その分、アクセントが無くなっていくのが
分かります。
アルフレッド・シスレー
「森へ行く女たち」1866年
晴れた日に田舎の家の並ぶ前を、3人のおばあさんが歩いています。
家の影の暗い部分が大きく描かれ、絵にアクセントを付けています。
逆光で写真を撮っているような感じですが、よく観ると、影の映る方向が
現実の景色とは違うような気がします。
光と影の関係を強く意識した構図にしたためでしょう。
「サン=マメス六月の朝」1884年
ピサロの「ブージヴァルのセーヌ河」と同じく、川べりの穏やかな風景ですが、
画面手前の道路のほとんどが建物の影になっています。
影は「森へ行く女たち」ほど暗くはありませんが、画面に立体感を与えています。
コローの暗い画面の中の明るい光に対して、シスレーは明るい画面の中の影に
注目しているようです。
クロード・モネ
「黄昏、ベネツィア」1908年
モネは6点展示されて、池、川、海と、どれも水の絵です。
有名な「水練の池」もあり、洪水の情景まであります。
空の映った水面を描いて、光の具合による水の色彩の変化を追求しています。
この絵はその中で一番新しい作品です。
黄昏時、海も空も境なく青から赤への虹色に輝く中に、寺院と鐘楼が影となって
浮かんでいます。
まさしく「印象」派の名前にふさわしい作品です。
印象派以前のターナーも後期によく似た絵を描いていて、ターナーが印象派の
先駆者と言われる訳もよく分かります。
コローの絵は古典的で分かりやすかったのですが、ここまで来ると、絵を観る方で
画家の感じた「印象」に付き合わないといけません。
絵画の主導権が観客から画家に移ったということでしょうか。
続きは次の回に書きます。
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