新宿
新宿の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館では、「ランス美術館展」が開かれています。
会期は6月25日(木)までです。

ランスはフランス北東部にある都市で、歴代フランス国王が戴冠式を行なった大聖堂で有名です。
展覧会ではランス美術館の所蔵する17世紀から20世紀にかけての絵画作品、約70点が
展示されています。
特に晩年にフランスに帰化したレオナール・フジタ(藤田嗣治)の作品が多く、フジタがランスに
建設した「平和の聖母礼拝堂」の壁画のための素描も展示されています。
ジャック=ルイ・ダヴィッド(および工房) 「マラーの死」 1793年 7月13日以降

フランス革命の歴史を書いた本によく載っている絵です。
ベルギー王立美術館にある絵と同じ画面で、人気があったので工房で何点か制作されています。
ジャン=ポール・マラー(1743–1793)はジャコバン派の革命家で、皮膚病の治療のため
風呂に入っていたところを、対立するジロンド派の女性に殺されています。
ウジェーヌ・ドラクロワ 「ポロニウスの亡骸を前にするハムレット」 1854-56年

ハムレットが叔父のデンマー王クローディアスと間違えてオフェーリアの父
ポロニウスを殺してしまった場面です。
奥では母である王妃ガートルードが驚き嘆いています。
ロマン派の特徴の、動きのある対角線の画面です。
カミーユ・コロー 「川辺の木陰で読む女」 1865-70年

コロー独特の、銀灰色の水辺と樹々、点景として描かれた人物の世界です。
ポール・ゴーギャン 「バラと彫像」 1889年 油彩、カンヴァス

ブルターニュのル・ブルデュの宿屋で描いた作品で、マルティニークで制作した
丸彫り彫刻が置いてあります。
この彫刻は宿屋の主人に借金のかたとして取られてしまったそうです。
カミーユ・ピサロ 「オペラ座通り、テアトル・フランセ広場」 1898年

ピサロがパリの街の連作に取り組むようになったのは画商のポール・デュラン=リュエルの
奨めによるもので、モネの積み藁やルーアン大聖堂を描いた連作の成功の影響とのことです。
テアトル広場に面したホテルの窓からの景色でパリ改造計画の一つとして建設され、
1975年に竣工したオペラ座と、その正面から伸びるオペラ座通りが見えます。
オペラ座通りを中心にした作品は15点描かれています。
モーリス・ドニ 「魅せられた人々」 1907年

家族旅行でヴェネツィアの沖のリド島を訪れた時に見た光景をヒントにしているそうで、
海の向こうに教会の円屋根が見えます。
ギリシャ彫刻の彫像のような人物の並ぶ、薔薇色に輝く古典古代の世界です。
ランス美術館はレオナール・フジタの作品を数多く所蔵していて、展覧会でも
油彩やテンペラは13点、展示されています。
レオナール・フジタ 「猫」 1963年

黒を背景にした、猫尽くしの図です。
レオナール・フジタ 「マドンナ」 1963年

1959年公開の映画、「黒いオルフェ」のヒロインを演じた、アフリカ系アメリカ人の
マルペッサ・ドーン(1934-2008)がモデルです。
「黒いオルフェ」はテーマ曲の「カーニヴァルの朝」でも有名です。
マリアの周りをアフリカ系の顔のケルビム(天使の一種)が囲み、中世絵画の
趣きがあります。
西洋の美の系譜に異文化の薫りを混ぜるのをフジタは得意としていたとのことで、
フジタの乗りやすい性格も表れています。
アフリカにあったフランスの植民地の多くはこの絵の頃までに独立を果たしています。
フジタは1959年にランス大聖堂でカトリックの洗礼を受けています。
レオナール・フジタ 「授乳の聖母」 1964年

「授乳の聖母」はキリスト教絵画の画題ですが、聖母子と一緒に、ライオン、狼、
それに珍奇な動物のカンガルーやコアラの親子が描かれています。
マリアが手にしているのはゴシキヒワの巣で、膝元のアザミとともにキリストの受難の
象徴とされています。
聖母子も動物も母子ということでは同じというのは、西洋とは異なる発想のように思います。
レオナール・フジタ 「平和の聖母礼拝堂」フレスコ画のための素描
「死せるキリストを嘆く人々 十字架降下」 1965年5月12日

木炭などで描かれた、十字架から降ろされたキリストの遺骸に取り付いて
嘆く女性たちです。
腕を垂れたキリストの姿は15世紀フランスの画家、アンゲラン・カルトンの
「アヴィニヨンのピエタ」を思わせます。
晩年のフジタはランスに礼拝堂を建てることを思い立ち、シャンパン醸造業の社長、
ルネ・ラルーの援助で、1966年に「平和の聖母礼拝堂」を完成させています。
会場にはステンドグラスとフレスコの壁画のための素描類、10点も展示されています。
どれも80歳で描いたとは思えない、気迫に満ちた描写で、とても見応えがあり、
礼拝堂建設がフジタの画業の集大成だったことが分かります。
レオナール・フジタは礼拝堂の完成の2年後に亡くなっています。
展覧会のHPです。
次回の展覧会は「生誕140年 吉田博展 山と水の風景」です。
会期は7月8日(土)から8月27日(日)までです。

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新宿の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館では、「ランス美術館展」が開かれています。
会期は6月25日(木)までです。

ランスはフランス北東部にある都市で、歴代フランス国王が戴冠式を行なった大聖堂で有名です。
展覧会ではランス美術館の所蔵する17世紀から20世紀にかけての絵画作品、約70点が
展示されています。
特に晩年にフランスに帰化したレオナール・フジタ(藤田嗣治)の作品が多く、フジタがランスに
建設した「平和の聖母礼拝堂」の壁画のための素描も展示されています。
ジャック=ルイ・ダヴィッド(および工房) 「マラーの死」 1793年 7月13日以降

フランス革命の歴史を書いた本によく載っている絵です。
ベルギー王立美術館にある絵と同じ画面で、人気があったので工房で何点か制作されています。
ジャン=ポール・マラー(1743–1793)はジャコバン派の革命家で、皮膚病の治療のため
風呂に入っていたところを、対立するジロンド派の女性に殺されています。
ウジェーヌ・ドラクロワ 「ポロニウスの亡骸を前にするハムレット」 1854-56年

ハムレットが叔父のデンマー王クローディアスと間違えてオフェーリアの父
ポロニウスを殺してしまった場面です。
奥では母である王妃ガートルードが驚き嘆いています。
ロマン派の特徴の、動きのある対角線の画面です。
カミーユ・コロー 「川辺の木陰で読む女」 1865-70年

コロー独特の、銀灰色の水辺と樹々、点景として描かれた人物の世界です。
ポール・ゴーギャン 「バラと彫像」 1889年 油彩、カンヴァス

ブルターニュのル・ブルデュの宿屋で描いた作品で、マルティニークで制作した
丸彫り彫刻が置いてあります。
この彫刻は宿屋の主人に借金のかたとして取られてしまったそうです。
カミーユ・ピサロ 「オペラ座通り、テアトル・フランセ広場」 1898年

ピサロがパリの街の連作に取り組むようになったのは画商のポール・デュラン=リュエルの
奨めによるもので、モネの積み藁やルーアン大聖堂を描いた連作の成功の影響とのことです。
テアトル広場に面したホテルの窓からの景色でパリ改造計画の一つとして建設され、
1975年に竣工したオペラ座と、その正面から伸びるオペラ座通りが見えます。
オペラ座通りを中心にした作品は15点描かれています。
モーリス・ドニ 「魅せられた人々」 1907年

家族旅行でヴェネツィアの沖のリド島を訪れた時に見た光景をヒントにしているそうで、
海の向こうに教会の円屋根が見えます。
ギリシャ彫刻の彫像のような人物の並ぶ、薔薇色に輝く古典古代の世界です。
ランス美術館はレオナール・フジタの作品を数多く所蔵していて、展覧会でも
油彩やテンペラは13点、展示されています。
レオナール・フジタ 「猫」 1963年

黒を背景にした、猫尽くしの図です。
レオナール・フジタ 「マドンナ」 1963年

1959年公開の映画、「黒いオルフェ」のヒロインを演じた、アフリカ系アメリカ人の
マルペッサ・ドーン(1934-2008)がモデルです。
「黒いオルフェ」はテーマ曲の「カーニヴァルの朝」でも有名です。
マリアの周りをアフリカ系の顔のケルビム(天使の一種)が囲み、中世絵画の
趣きがあります。
西洋の美の系譜に異文化の薫りを混ぜるのをフジタは得意としていたとのことで、
フジタの乗りやすい性格も表れています。
アフリカにあったフランスの植民地の多くはこの絵の頃までに独立を果たしています。
フジタは1959年にランス大聖堂でカトリックの洗礼を受けています。
レオナール・フジタ 「授乳の聖母」 1964年

「授乳の聖母」はキリスト教絵画の画題ですが、聖母子と一緒に、ライオン、狼、
それに珍奇な動物のカンガルーやコアラの親子が描かれています。
マリアが手にしているのはゴシキヒワの巣で、膝元のアザミとともにキリストの受難の
象徴とされています。
聖母子も動物も母子ということでは同じというのは、西洋とは異なる発想のように思います。
レオナール・フジタ 「平和の聖母礼拝堂」フレスコ画のための素描
「死せるキリストを嘆く人々 十字架降下」 1965年5月12日

木炭などで描かれた、十字架から降ろされたキリストの遺骸に取り付いて
嘆く女性たちです。
腕を垂れたキリストの姿は15世紀フランスの画家、アンゲラン・カルトンの
「アヴィニヨンのピエタ」を思わせます。
晩年のフジタはランスに礼拝堂を建てることを思い立ち、シャンパン醸造業の社長、
ルネ・ラルーの援助で、1966年に「平和の聖母礼拝堂」を完成させています。
会場にはステンドグラスとフレスコの壁画のための素描類、10点も展示されています。
どれも80歳で描いたとは思えない、気迫に満ちた描写で、とても見応えがあり、
礼拝堂建設がフジタの画業の集大成だったことが分かります。
レオナール・フジタは礼拝堂の完成の2年後に亡くなっています。
展覧会のHPです。
次回の展覧会は「生誕140年 吉田博展 山と水の風景」です。
会期は7月8日(土)から8月27日(日)までです。

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