上野
上野の東京都美術館では『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展』が
開かれています。
会期は7月2日(日)までです。

オランダのロッテルダムにあるボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館はボイマンスと
ベーニンゲンの2人が寄付したコレクションを基礎にした美術館で、中世から近代まで
約126,000点の美術品を所蔵しています。
展覧会ではヒエロニムス・ボスの作品2点、ピーテル・ブリューゲルの「バベルの塔」を中心に、
16世紀ネーデルラントの絵画や版画、彫刻など約90点が展示されています。
会場の最初にはキリスト教の聖人たちの木彫が置かれています。
彩色の残っている作品もあり、どれも精緻に彫られています。
ヒエロニムス・ボス 「放浪者(行商人)」油彩、板 1500年頃


破れた服の痩せこけた男が杖を突き、とぼとぼと歩きながら、後ろを振り返っています。
背負っている籠に付けられている柄杓と猫の皮は何を意味するのでしょうか。
持っている帽子にはキリが留めてあるので、靴直しもするのではないかとのことです。
それにしては、右足にブーツ、左足にサンダルというのは、かなりの出で立ちです。
左の家は棒の先の壺、白鳥の看板などから娼家らしいとのことで、戸口では男女が
抱き合っています。
男が未練ありげに振り返っている訳が分かります。
祭壇画の一部だったとのことで、欲望への戒めを表しているのでしょうか。
男の表情が生きており、色調もまとまった作品です。
ヒエロニムス・ボス(1450年頃-1516)はネーデルラントの画家で、幻想的な作風で有名です。
後にも大きな影響を与えていますが、油彩画は僅かしか現存していません。
展覧会ではそのうち2点が展示されています。
ヒエロニムス・ボス 「聖クリストフォロス」 油彩、板 1500年頃

男が川の渡し守りをして人助けをしていたところ、小さな男の子が川を渡してくれるよう頼みます。
男は気軽に応じて男の子を乗せて渡り始めますが、男の子はだんだん重くなります。
やっとのことで渡り終ると、男の子は自分がキリストであることを明かし、男を祝福して、
キリストを背負う者という意味のクリストフォロスと名付けます。
中世末期には、聖クリストフォロスは旅人の守護聖人として大変人気があったそうです。
川を渡る場面が描かれていますが、男は杖にすがって何とか歩いています。
足の形や背を傾けた姿勢は「放浪者(行商人)」とよく似ています。
杖の先から芽が出ていて、地面に突き刺した杖から若芽が出て巨木になったという伝説を
表しています。
血を流した魚が下がっているのはキリストの磔刑を暗示しているそうです。
遠景には追剥のような光景や吊り下げられた熊が、右側にはボス独特の割れた壺などが
描かれています。


絵:ピーテル・ブリューゲル 彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン
「大きな魚は小さな魚を食う」 エングレーヴィング 1557年

ピーテル・ブリューゲル(1526/1530年頃-1569年)はネーデルラントの画家で、
農民の生活などを細密に描いています。
同名で画家の長男と区別するため、(父)(1世)などと表記されることもあります。
ブリューゲルは版画の下絵も多く制作しています。
魚が魚を食べている異様な光景で、ボスの影響が感じられます。
ネーデルラントでも魚はよく獲られていたはずですが、日本人の持つ魚への親和性とは
異なるものがあります。
ピーテル・ブリューゲル 「バベルの塔」 油彩、板 1568年頃

「バベルの塔」はブリューゲルの代表作の一つです。
横74.6㎝の作品で、海辺の巨大な円錐の塔が描かれています。
螺旋状の構造になっていて、階によってアーチの形も違い、上の階には雲がかかっています。
左側の白い部分は漆喰をクレーンで運び上げているところで、漆喰をかぶって白くなった
作業員も描き込まれています。

その左の赤い部分はレンガを運び上げているところで、白と赤の色彩効果を出しています。

ステンドグラスの嵌まった教会に向かう行列も見えます。

波止場には大小の船が泊っています。

一番上はまだ建築中で、木の支えでアーチを組もうとしています。

遠くにはのどかな風景が広がっています。

旧約聖書ではこの後、神が人びとの言葉を乱したため、建築は続けられなくなったとありますが、
この絵ではまだ塔は建築中です。
絵の意味は不明ですが、山岳の無いネーデルラントでは高い塔というものに対しては
特別の思いがあったことでしょう。
1400人もの人物が描き込まれているという細密画なので、会場で放映されているCGで
細部の描写を確認できます。
16世紀ネーデルラントの宗教的・社会的雰囲気の伝わる展覧会です。
展覧会のHPです。
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上野の東京都美術館では『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展』が
開かれています。
会期は7月2日(日)までです。

オランダのロッテルダムにあるボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館はボイマンスと
ベーニンゲンの2人が寄付したコレクションを基礎にした美術館で、中世から近代まで
約126,000点の美術品を所蔵しています。
展覧会ではヒエロニムス・ボスの作品2点、ピーテル・ブリューゲルの「バベルの塔」を中心に、
16世紀ネーデルラントの絵画や版画、彫刻など約90点が展示されています。
会場の最初にはキリスト教の聖人たちの木彫が置かれています。
彩色の残っている作品もあり、どれも精緻に彫られています。
ヒエロニムス・ボス 「放浪者(行商人)」油彩、板 1500年頃


破れた服の痩せこけた男が杖を突き、とぼとぼと歩きながら、後ろを振り返っています。
背負っている籠に付けられている柄杓と猫の皮は何を意味するのでしょうか。
持っている帽子にはキリが留めてあるので、靴直しもするのではないかとのことです。
それにしては、右足にブーツ、左足にサンダルというのは、かなりの出で立ちです。
左の家は棒の先の壺、白鳥の看板などから娼家らしいとのことで、戸口では男女が
抱き合っています。
男が未練ありげに振り返っている訳が分かります。
祭壇画の一部だったとのことで、欲望への戒めを表しているのでしょうか。
男の表情が生きており、色調もまとまった作品です。
ヒエロニムス・ボス(1450年頃-1516)はネーデルラントの画家で、幻想的な作風で有名です。
後にも大きな影響を与えていますが、油彩画は僅かしか現存していません。
展覧会ではそのうち2点が展示されています。
ヒエロニムス・ボス 「聖クリストフォロス」 油彩、板 1500年頃

男が川の渡し守りをして人助けをしていたところ、小さな男の子が川を渡してくれるよう頼みます。
男は気軽に応じて男の子を乗せて渡り始めますが、男の子はだんだん重くなります。
やっとのことで渡り終ると、男の子は自分がキリストであることを明かし、男を祝福して、
キリストを背負う者という意味のクリストフォロスと名付けます。
中世末期には、聖クリストフォロスは旅人の守護聖人として大変人気があったそうです。
川を渡る場面が描かれていますが、男は杖にすがって何とか歩いています。
足の形や背を傾けた姿勢は「放浪者(行商人)」とよく似ています。
杖の先から芽が出ていて、地面に突き刺した杖から若芽が出て巨木になったという伝説を
表しています。
血を流した魚が下がっているのはキリストの磔刑を暗示しているそうです。
遠景には追剥のような光景や吊り下げられた熊が、右側にはボス独特の割れた壺などが
描かれています。


絵:ピーテル・ブリューゲル 彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン
「大きな魚は小さな魚を食う」 エングレーヴィング 1557年

ピーテル・ブリューゲル(1526/1530年頃-1569年)はネーデルラントの画家で、
農民の生活などを細密に描いています。
同名で画家の長男と区別するため、(父)(1世)などと表記されることもあります。
ブリューゲルは版画の下絵も多く制作しています。
魚が魚を食べている異様な光景で、ボスの影響が感じられます。
ネーデルラントでも魚はよく獲られていたはずですが、日本人の持つ魚への親和性とは
異なるものがあります。
ピーテル・ブリューゲル 「バベルの塔」 油彩、板 1568年頃

「バベルの塔」はブリューゲルの代表作の一つです。
横74.6㎝の作品で、海辺の巨大な円錐の塔が描かれています。
螺旋状の構造になっていて、階によってアーチの形も違い、上の階には雲がかかっています。
左側の白い部分は漆喰をクレーンで運び上げているところで、漆喰をかぶって白くなった
作業員も描き込まれています。

その左の赤い部分はレンガを運び上げているところで、白と赤の色彩効果を出しています。

ステンドグラスの嵌まった教会に向かう行列も見えます。

波止場には大小の船が泊っています。

一番上はまだ建築中で、木の支えでアーチを組もうとしています。

遠くにはのどかな風景が広がっています。

旧約聖書ではこの後、神が人びとの言葉を乱したため、建築は続けられなくなったとありますが、
この絵ではまだ塔は建築中です。
絵の意味は不明ですが、山岳の無いネーデルラントでは高い塔というものに対しては
特別の思いがあったことでしょう。
1400人もの人物が描き込まれているという細密画なので、会場で放映されているCGで
細部の描写を確認できます。
16世紀ネーデルラントの宗教的・社会的雰囲気の伝わる展覧会です。
展覧会のHPです。
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一枚の絵に途方もなく詰め込まれた場面の数々。本小さなカットなんかで見ただけでは絶対に気がつかない緻密さ。やはり本物を見るのが一番ですね。
TVの解説や会場のCGによって、初めて分る部分もありました。
漆喰をかぶった作業員たちまで描かれていることは知りませんでした。