新宿
新宿の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館では
「クインテットIV 五つ星の作家たち」展が開かれています。
会期は2月18日(日)までです。

この展覧会は「クインテット」(五重奏)と題して、継続的な作品発表の実績があり、
招来有望な5人の作家を紹介する企画です。
今回は4回目で、最終回とのことで、「具象と抽象の狭間」をテーマに、青木恵美子、
竹中美幸、田中みぎわ、船井美佐、室井公美子の作品、約80点が展示されています。
1月12日に開かれた内覧会に行き、各作家のアーティストトークも聴いてきました。
作品は撮影可能です。
青木恵美子さん(1976~、埼玉県出身)

「つつまれて」 2010年 アクリル・油彩・パステル・キャンバス 昭和シェル石油蔵

「INFINITY Blue No7」 2017年 アクリル・キャンバス

トーク
具体的なものでない、抽象的なものを描こうとしている。
色彩は光であり、神聖なもので、思考の純度が色彩に反映される。
赤は生命の象徴、青は生命の生まれるおだやかな世界。
厚塗りの絵も花弁をつくっているというより、筆跡が花弁のような生命となったもの。
遠近法とは違ったイル―ジョンが表れると良い。
青木恵美子さんは2017年に上野の森美術館で開かれた、「VOCA展2017
現代美術の展望―新しい平面の作家たち」で、佳作賞・大原美術館賞を
受賞しています。
「VOCA展2017」の記事です。
竹中美幸さん(1976~、岐阜県出身)
右:「新たな物語(電灯)」 2017年 35mmフィルム
左:「新たな物語(カーテン)」 2017年 35mmフィルム

「緑の隙間」 2017年 水彩・パステル・墨・水彩紙

トーク
透明な素材を貼った作品で、見る者の気付きを促している。
35㎜フィルムを貼った作品は、着彩ではなく、すべて感光させてつくっている。
実家を壊して無くなっていく物をフィルムに焼き付けたりして、作品にしている。
デジタル化によって消えていくフィルムそのものにも興味がある。
水彩の作品は、物事の起こる予兆、気配といったものを形にしている。
田中みぎわさん(1974~、東京都出身)
「神様の手のひら」 2008年 墨・胡粉・雲肌麻紙・パネル

「夜長の雨」 2009年 墨・胡粉・雲肌麻紙・パネル

「波間の子守唄(4枚組)」 2017年 墨・胡粉・石州半紙稀・パネル

トーク
夏休みに熊本の祖父母の家で遊んだ体験が作品の基になっている。
自分の知らない大きな存在が急な雨や雷を起こしているようで、恐怖と美しさを感じた。
日本画を描いているが、八重山諸島にいた時、残照が雲を照らしていて、
それを赤で表すことに限界を感じた。
白黒の方が五感で感じる風や香り、音などを表現できると思った。
どうさを引かない、生紙(きがみ)を使ったりする。
どうさを引くと、漉きたての生紙の良さが失われてしまう。
今は屋外で描いている。
天草の海で月景色を描いたとき、月の音を聞いた。
月の音を聞いていたのに気付いたと言ってよい。
スケッチをしているうちに、自分の意識が身体の限界を超え、向こうの山々や雲、
空にまで広がっていく。
船井美佐さん(1974~、京都府出身)
「womb-世界の内側と外側はどちらが 内側で外側なのか」
2009年 アクリル・顔料・麻紙・パネル

「Hole/桃源郷/境界/絵画/眼底」 2010年 アクリルミラー・木

右:「まる・さんかく・しかく」 2014年 顔料・木・ステンレスミラー

トーク
初期には日本画の線描で自分の内面から湧くものを描いて、そこには身体や動物の
イメージも入っている。
「womb」という作品は生命の躍動感を表している。
この絵を見た人から、楽園を描いているようだと言われて、鏡を使った楽園を
イメージした作品をつくった。
楽園とは生命の原風景であり、究極のイメージである。
見ている人が鏡に映ることで、現実が理想の世界に入り込み、ギャラリー空間が
作品の世界と一体となる。
黄色いインスタレーションの題は「まる・さんかく・しかく」で、「しかく」はこの
ギャラリー空間のこと。
うさぎの木馬は神話のモチーフで、人の思いを託す存在。
紫の木馬は脳の中でイメージをつかさどる海馬を表している。
木馬は子供が乗れ、2・3歳の子供は、この世とあの世の間にいる存在でもある。
室井公美子さん(1975~、栃木県出身)
「Santa Cecilia (聖チェチェリア)」 2012年 油彩・キャンバス

「Psyche (プシュケー)」 2016年 油彩・キャンバス

トーク
子供の頃の薄暗い実家の経験が作品の基になっていて、この世とあの世の
境に関心がある。
見る人がイル―ジョンを感じ、めまいを覚えるような画面をつくっている。
想像力を働かせてもらいたいので、あまり具象にはしない。
哲学やギリシャ神話を題名にすることが多い。
「ゲートキーパー」はこの世とあの世の間の門番。
「Doxa」は「考え」という意味で、描く時に体を動かしながら考えている過程が表れている。
「Anima」はギュスターヴ・モローの「出現」に想を得ていて、宗教的なものの持つ
死のイメージを画面に入れ込んでいる。
どの方のトークも大変面白く、また作品を観る参考にもなりました。
共通して、自己の内面、過去、異世界に関心があることを特に興味深く思いました。
特に抽象的な作品の場合、見たままを感じても良いのですが、作者の意図を聴くと、
作品の面白さがさらに増します。
展覧会のHPです。
2017年の「クインテットIV 五つ星の作家たち」展の記事です。
次回の展覧会は「FACE展2018」です。
会期は2月24(土)から3月30日(金)までです。

内覧会が終わった後の42階の美術館のロビーからは新宿の夜景が
輝いているのが見えます。

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新宿の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館では
「クインテットIV 五つ星の作家たち」展が開かれています。
会期は2月18日(日)までです。

この展覧会は「クインテット」(五重奏)と題して、継続的な作品発表の実績があり、
招来有望な5人の作家を紹介する企画です。
今回は4回目で、最終回とのことで、「具象と抽象の狭間」をテーマに、青木恵美子、
竹中美幸、田中みぎわ、船井美佐、室井公美子の作品、約80点が展示されています。
1月12日に開かれた内覧会に行き、各作家のアーティストトークも聴いてきました。
作品は撮影可能です。
青木恵美子さん(1976~、埼玉県出身)

「つつまれて」 2010年 アクリル・油彩・パステル・キャンバス 昭和シェル石油蔵

「INFINITY Blue No7」 2017年 アクリル・キャンバス

トーク
具体的なものでない、抽象的なものを描こうとしている。
色彩は光であり、神聖なもので、思考の純度が色彩に反映される。
赤は生命の象徴、青は生命の生まれるおだやかな世界。
厚塗りの絵も花弁をつくっているというより、筆跡が花弁のような生命となったもの。
遠近法とは違ったイル―ジョンが表れると良い。
青木恵美子さんは2017年に上野の森美術館で開かれた、「VOCA展2017
現代美術の展望―新しい平面の作家たち」で、佳作賞・大原美術館賞を
受賞しています。
「VOCA展2017」の記事です。
竹中美幸さん(1976~、岐阜県出身)
右:「新たな物語(電灯)」 2017年 35mmフィルム
左:「新たな物語(カーテン)」 2017年 35mmフィルム

「緑の隙間」 2017年 水彩・パステル・墨・水彩紙

トーク
透明な素材を貼った作品で、見る者の気付きを促している。
35㎜フィルムを貼った作品は、着彩ではなく、すべて感光させてつくっている。
実家を壊して無くなっていく物をフィルムに焼き付けたりして、作品にしている。
デジタル化によって消えていくフィルムそのものにも興味がある。
水彩の作品は、物事の起こる予兆、気配といったものを形にしている。
田中みぎわさん(1974~、東京都出身)
「神様の手のひら」 2008年 墨・胡粉・雲肌麻紙・パネル

「夜長の雨」 2009年 墨・胡粉・雲肌麻紙・パネル

「波間の子守唄(4枚組)」 2017年 墨・胡粉・石州半紙稀・パネル

トーク
夏休みに熊本の祖父母の家で遊んだ体験が作品の基になっている。
自分の知らない大きな存在が急な雨や雷を起こしているようで、恐怖と美しさを感じた。
日本画を描いているが、八重山諸島にいた時、残照が雲を照らしていて、
それを赤で表すことに限界を感じた。
白黒の方が五感で感じる風や香り、音などを表現できると思った。
どうさを引かない、生紙(きがみ)を使ったりする。
どうさを引くと、漉きたての生紙の良さが失われてしまう。
今は屋外で描いている。
天草の海で月景色を描いたとき、月の音を聞いた。
月の音を聞いていたのに気付いたと言ってよい。
スケッチをしているうちに、自分の意識が身体の限界を超え、向こうの山々や雲、
空にまで広がっていく。
船井美佐さん(1974~、京都府出身)
「womb-世界の内側と外側はどちらが 内側で外側なのか」
2009年 アクリル・顔料・麻紙・パネル

「Hole/桃源郷/境界/絵画/眼底」 2010年 アクリルミラー・木

右:「まる・さんかく・しかく」 2014年 顔料・木・ステンレスミラー

トーク
初期には日本画の線描で自分の内面から湧くものを描いて、そこには身体や動物の
イメージも入っている。
「womb」という作品は生命の躍動感を表している。
この絵を見た人から、楽園を描いているようだと言われて、鏡を使った楽園を
イメージした作品をつくった。
楽園とは生命の原風景であり、究極のイメージである。
見ている人が鏡に映ることで、現実が理想の世界に入り込み、ギャラリー空間が
作品の世界と一体となる。
黄色いインスタレーションの題は「まる・さんかく・しかく」で、「しかく」はこの
ギャラリー空間のこと。
うさぎの木馬は神話のモチーフで、人の思いを託す存在。
紫の木馬は脳の中でイメージをつかさどる海馬を表している。
木馬は子供が乗れ、2・3歳の子供は、この世とあの世の間にいる存在でもある。
室井公美子さん(1975~、栃木県出身)
「Santa Cecilia (聖チェチェリア)」 2012年 油彩・キャンバス

「Psyche (プシュケー)」 2016年 油彩・キャンバス

トーク
子供の頃の薄暗い実家の経験が作品の基になっていて、この世とあの世の
境に関心がある。
見る人がイル―ジョンを感じ、めまいを覚えるような画面をつくっている。
想像力を働かせてもらいたいので、あまり具象にはしない。
哲学やギリシャ神話を題名にすることが多い。
「ゲートキーパー」はこの世とあの世の間の門番。
「Doxa」は「考え」という意味で、描く時に体を動かしながら考えている過程が表れている。
「Anima」はギュスターヴ・モローの「出現」に想を得ていて、宗教的なものの持つ
死のイメージを画面に入れ込んでいる。
どの方のトークも大変面白く、また作品を観る参考にもなりました。
共通して、自己の内面、過去、異世界に関心があることを特に興味深く思いました。
特に抽象的な作品の場合、見たままを感じても良いのですが、作者の意図を聴くと、
作品の面白さがさらに増します。
展覧会のHPです。
2017年の「クインテットIV 五つ星の作家たち」展の記事です。
次回の展覧会は「FACE展2018」です。
会期は2月24(土)から3月30日(金)までです。

内覧会が終わった後の42階の美術館のロビーからは新宿の夜景が
輝いているのが見えます。

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