ギリシャ・ローマ神話
私の観た、ギリシャ・ローマ神話を題材にした作品を集めてみました。
西洋美術では神話の世界は中心テーマの一つなので作品も多く、その上、神話の中で
それぞれ好き勝手なことをされているので、まとめるのが大変でした。
記事は2回に分け、今回はその1で、ゼウス(ローマ神話のユピテル)、アフロディテ
(ローマ神話のヴィーナス)を中心に載せます。
「ゼウス小像」 ブロンズ 紀元後1-2世紀 大英博物館

伝ハンガリー出土で、高さ24cmほどの小像ですが、ギリシャ神話の最高神らしい
威厳に満ちています。
最初の近代オリンピックである1896年アテネオリンピックの優勝メダルの
デザインにも使われています。
「エウロペの掠奪」 クロード・ロラン 1655年 プーシキン美術館

エウロペはギリシャ神話に登場する女性で、白い雄牛に変身したゼウスに
誘拐されています。
まだ風景画が絵画のジャンルとして確立していなかった時代なので、
神話をテーマにしていますが、描きたかったのは海辺の風景で、
海は波立ち、遠くの山や海の向こうの島は淡く霞んでいます。
「エウロペの誘拐」 ギュスターヴ・モロー 1868年 パリ、ギュスターヴ・モロー美術館

大きな作品で、ゼウスは神の顔を顕し、エウロペは身を預けています。
筆遣いも細かく、精緻な描き方です。
「ダナエ」 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
1544-46年頃 ナポリ、カポディモンテ美術館

ギリシャ神話のお話で、美しいダナエに近付くため、ゼウスが黄金の雨となって
降り注いでいます。
雨は金貨の形で表され、ダナエとエロス(ローマ神話のキューピッド)が
それを見上げています。
同じ構図の作品は4点残っていて、ヴァザーリの「芸術家列伝」によれば、
ミケランジェロはティツィアーノに会い、現在プラド美術館所蔵の作品を見ています。
その時は称賛したものの、後でヴァザーリに、ティツィアーノの色彩は優れているが、
デッサンと画面構成に難があると批評しています。
ティツィアーノは色彩に優れた画家として有名ですが、本当にデッサンに問題が
あるのでしょうか。
「レダと白鳥」 レオナルド周辺の画家 16世紀 ロマ、ボルゲーゼ美術館

ギリシャ神話の、ゼウスが美しいレダを誘惑しようと、白鳥に身を変えて近付いた
という話で、今は失われたレオナルドのオリジナル作品に依っているとされています。
レオナルドらしく、レダの表情はどこか謎めいています。
『「レダ」の頭部習作』 ミケランジェロ・ブオナローティ
赤石墨、紙 1530年頃 フィレンツェ、カーサ・ブオナローティ

ギリシャ神話の、ゼウスが白鳥に姿を変えてレダと通じたという逸話を描いた、
「レダと白鳥」のための習作です。
モデルは男性の弟子とのことで、当時は女性像でも男性をモデルにすることが
多かったそうです。
肌の明暗も細密に描かれていて、まつ毛を長くして女性らしくした部分も
描き添えられています。
「レダと白鳥」 ヤコポ・ティントレット 1551-55年頃 ウフィツィ美術館

ギリシャ神話の、ゼウスが美しいレダを誘惑しようと、白鳥に身を変えて近づいたという
お話を題材にしています。
思い切った斜めの構図で勢いがあり、後のバロック絵画を思わせます。
ヤコポ・ティントレット(1518-94)はティツィアーノの弟子で、ほとんどヴェネツィアを
出ることもなく、ルネサンス後期のヴェネツィアを代表する画家となっています。
同じヴェネツィアのルネッサンスでも、初期のベッリーニの頃とはかなり違ってきています。
「ユピテルとセメレ」 ギュスターヴ・モロー ギュスターヴ・モロー美術館

ユピテル(ローマ神話の主神、ギリシャ神話ではゼウス)はセメレと通じますが、
セメレはユピテルに真の姿を見せるように迫ります。
断り切れなくなったユピテルが雷を伴った姿を現すと、セメレは雷に焼かれて
死んでしまいます。
ユピテルは稲妻を発し、セメレは驚いてのけぞり、足元にはユピテルの象徴である
鷲が描かれています。
モローの好んだ神秘的な世界を描いた作品で、ギュスターヴ・モロー美術館には
同じテーマの大作があります。
「ユピテルとカリスト」 フランソワ・ブーシェ 1744年

ローマ神話のユピテルは月の女神ディアナ(ギリシャ神話のアルテミス)に
従っていたカリストに恋をして、ディアナの姿に変身してカリストに
近付いています。
ディアナは三日月を額にいただき、狩の神でもあるので、足元には獲物の
兎や鳥、矢筒があります。
背後の鷲はディアナが実はユピテルであることを表しています。
ユピテルはレダに恋して白鳥になったり、ダナエに近づくため黄金の雨に
なったりと、マメな神様です。
いかにもロココといった、甘く、この上なく優美な作品です。
「アレッツォのミネルウァ」 前3世紀

ギリシャ時代の、軍神アテナの青銅の立像です。
アテナはローマではミネルウァと呼ばれ、アレッツォで発見されたので、
「アレッツォのミネルウァ」と名がついたそうです。
150cmの細身の像ですが、ギリシャ風の兜を頭に載せ、胸当てを
着けています。
力を抜いて、やや腰を前に出した、自然な姿勢です。
「パラスとケンタウロス」 サンドロ・ボッティチェリ
1480-85年頃 テンペラ、カンヴァス ウフィツィ美術館

パラスはギリシャのアテナ神の別名で、学問・芸術の神です。
ケンタウロスはギリシャ神話に出てくる半人半馬の怪獣で、弓矢などの武器を持ち、
野蛮で暴力的とされています。
パラスがケンタウロスの髪を掴んでいるのは理性の勝利を表しているそうです。
パラスは軍神でもあるので、大きな槍を持っています。
衣装の模様はダイヤモンドの指輪を組合わせたもので、フィレンツェの支配者、
メディチ家の紋章の一つです。
この絵は同じボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」と一緒にメディチ家一族の邸に
飾られていたそうです。
波打つ髪にダイヤモンドの飾りとオリーブの冠を着けたパラスはボッティチェリらしい
優美な顔立ちで、やや憂いを含んだ表情を浮かべています。
「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」 ペーテル・パウル・ルーベンス
1615-16年 ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

ギリシャ神話のお話で、女神アテナ(あるいは地母神ガイア)は後にアテナイ王となる
赤ん坊のエリクトニオスを箱に入れて、アテナイ王ケクロプスの娘たちに預けます。
しかし、娘たちはアテナの言い付けを破って箱の中を見たため、死んでしまいます。
幼年、成年、老年の3者が一つの画面に描かれ、右上には地母神をかたどった
噴水もあります。
「アフロディテ像」 大理石 ローマ時代(紀元前4世紀のギリシャの
オリジナルに 基づくヴァリアント) 大英博物館

高さ107cmで、ギリシャのパロス島の大理石を使っています。
ミロのヴィーナス(アフロディテに対応するローマ神)もパロス島の大理石とのことです。
均整の取れた姿で、サンダルを履いています。
ギリシャの彫刻家、プラクシテレスの作品のヴァリアント(変形版)とのことで、ローマの
外港だったオスティアで出土しています。
「アフロディーテ飾板」 金、トルコ石 1世紀第2四半期
ティリヤ・テペ遺跡出土 アフガニスタン国立博物館

ギリシャ神話の美の女神で、ローマ神話のヴィーナスに相当します。
姿はギリシャ風ですが、翼を持ち、腕輪をして、顔立ちもインド風で、額には
インド風の印もあります。
ガンダーラ仏の顔立ちがギリシャ風なのと逆の形です。
アフロディーテ飾板は2人の女性の墓から発見され、胸元に置かれていました。
「ヴィーナス」 ボッティチェリの工房 1482年頃 テンペラ、油彩・キャンバス
トリノ、サバウダ美術館


代表作、「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスだけを描いてあります。
裸体ではなく、薄物を付けていて、明るく晴れやかな「ヴィーナスの誕生」に比べると
かなり雰囲気が違い、妖艶なヴィーナスです。
「ヴィーナス」 ルーカス・クラーナハ(父) 1532年 フランクフルト、シュテーデル美術館

クラーナハは裸体画の作者としても有名です。
クラーナハの描く古代の女神や女性たちは、長身で細身の独特のプロポーションを
していて、完全な裸体ではなく、薄物を身に着け、蠱惑的な表情を浮かべています。
「音楽にくつろぐヴィーナス」 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 1550年頃 プラド美術館

16世紀ルネッサンスの巨匠、ティツィアーノの作品です。
忠誠を表す犬が描かれていることなどから、誰かの結婚に関係した作品ではないか
ということです。
ティツィアーノは同じ題材の作品を何点か描いています。
「ヴィーナスとキューピッド」 レンブラント・ファン・レイン 1657年頃 ルーヴル美術館

明暗の対比を強調した、レンブラントらしい作品で、ギリシャローマ神話を
題材にしていますが、モデルは妻のヘンドリッキエと娘のコルネリアです。
当時のオランダ風俗を写した、母子像になっています。
「ウェヌスの帯を解くクピド」 ジョシュア・レノルズ 1788年 エルミタージュ美術館

ウェヌス(ヴィーナス)と、その子のクピド(キューピッド)です。
モデルはネルソン提督の愛人だったエンマ・ハミルトンとされています。
ネルソン提督は1805年のトラファルガーの海戦でナポレオンのフランス艦隊を
破りますが、自身も戦死しています。
ジョシュア・レノルズ(1723-1792)はイギリスのロイヤル・アカデミーの初代会長に
なった人で、特に肖像画に優れていました。
この絵は保存状態に問題があったのでしょうか、かなりヒビが入っていて、一部が
剥落しているほどです。
「風景の中のクピド」 バルトロメオ・スケドーニ
16世紀末-17世紀初め エルミタージュ美術館

クピド(キューピッド)が、商売道具の矢を入れたえびらを木に掛け、今度は誰に
矢を射ようかとこちらを見ています。
ちょっと考えているような表情に特徴があります。
バルトロメオ・スケドーニ(1578-1615)はモデナ出身で、パルマに住んだ画家ですが、
夭折しています。
「羊飼い姿のヴィーナス」 ジャン=バティスト・ユエ 山寺後藤美術館

ジャン=バティスト・ユエ(1745-1811)は1768年にフランス王立アカデミーに
入会するなど、早くから人気のあった画家で、特に動物画を得意としていますが、
さまざまな題材の作品を描いています。
「ヴィーナスの誕生」 アレクサンドル・カバネル 1863年 オルセー美術館

アレクサンドル・カバネル(1823-1889)は新古典主義を継承するアカデミズムの
代表的な画家で、この作品もナポレオン3世の買上げになっています。
印象派の画家からは守旧派として非難されていますが、絵の上手さはさすがです。
波の上に横たわっている姿は何となく不自然ですが、空や海の青色はとても
やわらかく優美です。
「ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)」
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 1863-68年頃 ラッセル=コーツ美術館

ギリシャ神話の「パリスの審判」で、三美神の中で最も美しい神に選ばれ、
林檎を受け取ったウェヌス(ヴィーナス、ギリシャ神話ではアフロディテ)です。
ウェヌスは審判を行なう、トロイアの王子パリスに、自分を選んだら自分とそっくり同じ
美人の妻を与えると約束していました。
この申し出で、パリスを心変わり(ウェルティコルディア)させた、魔性のヴィーナスです。
手には林檎と、人を心変わりさせるクピドの矢を持っています。
「パリスの審判」 サンドロ・ボッティチェリと工房
1485-88年頃 テンペラ ヴェネツィア、チーニ邸美術館

ギリシャ神話のパリスの審判を海辺の景色の中で描いています。
パリスや三美神は風景の中に貼り付けたような感じです。
パリスはアフロディテを勝たせた結果、スパルタ王の妃、ヘレネ―を手に入れますが、
これが元で神々をも二分するトロイア戦争が起こります。
「パリスの審判」 ピエール=オーギュスト・ルノワール 1908年 三菱一号館美術館寄託

ギリシャ神話の一場面の、パリスがアフロディテに黄金の林檎を与えているところです。
ルノワール晩年の作品で、三美神は豊麗な姿で描かれています。
「ヘクトルを打ち倒すアキレス」 ペーテル・パウル・ルーベンス 1630-1635年頃
フランス、ポー美術館

タピスリーの下絵で、ギリシャ神話のトロイア戦争の一場面、トロイア側の
総大将ヘクトルがアカイア側のアキレスに槍で喉を突かれて斃されるところです。
額縁のような石柱や花綱に囲まれていて、マントや羽飾りの赤が鎧兜の銀色に映え、
ルーベンスらしい躍動感のある作品です。
タピスリーの下絵は完成品と左右反転して描くためか、ヘクトルもアキレスも
武器を左手に持っています。
「アキレウスとケイロン」 65-79年 ナポリ国立考古学博物館蔵

フレスコ画で、ギリシャ神話の英雄アキレウスに、ケンタウロスの賢者ケイロンが
竪琴を教えているところです。
ポンペイ郊外のエルコラーノの邸宅にあった壁画で、エルコラーノは紀元79年の
ヴェスヴィオ火山の噴火で埋没しています。
「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ
1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託


古代ギリシャの彫刻、「ラオコーン」は1506年にローマで発掘され、ルネッサンス芸術に
大きな影響を与えています。
ギリシャ神話にある話で、トロイア戦争において、トロイアの神官、ラオコーンは
アカイア側の計略による木馬を市内に入れることに反対したため、アテナの怒りを買い、
目をつぶされ、2人の息子と共に海蛇に取り付かれ、殺されます。
苦しむラオコーンの肉体には力がみなぎり、劇的な場面となっています。
コピーもいくつか造られていて、これもその一つです。
「トロイアの城壁に立つヘレネ」 ギュスターヴ・モロー
1868年 パリ、ギュスターヴ・モロー美術館

ギリシャ神話の「パリスの審判」の結果、トロイアに奪い去られたヘレネを
取り返そうとして起こされたのがトロイア戦争です。
犠牲者の横たわる城壁に赤い花を持って立つヘレネは観音像のようにも見えます。
トロイアは現在のトルコのエーゲ海沿いにあり、ハインリヒ・シュリーマン
(1822-1890)による発掘によって有名ですが、シュリーマンの時代は考古学が
未発達だったこともあり、かなり乱暴な発掘だったようです。
実際にトロイア戦争があったのは紀元前1200年頃の事だったようですが、
どのような勢力が攻撃したのかは不明だそうです。
chariot
私の観た、ギリシャ・ローマ神話を題材にした作品を集めてみました。
西洋美術では神話の世界は中心テーマの一つなので作品も多く、その上、神話の中で
それぞれ好き勝手なことをされているので、まとめるのが大変でした。
記事は2回に分け、今回はその1で、ゼウス(ローマ神話のユピテル)、アフロディテ
(ローマ神話のヴィーナス)を中心に載せます。
「ゼウス小像」 ブロンズ 紀元後1-2世紀 大英博物館

伝ハンガリー出土で、高さ24cmほどの小像ですが、ギリシャ神話の最高神らしい
威厳に満ちています。
最初の近代オリンピックである1896年アテネオリンピックの優勝メダルの
デザインにも使われています。
「エウロペの掠奪」 クロード・ロラン 1655年 プーシキン美術館

エウロペはギリシャ神話に登場する女性で、白い雄牛に変身したゼウスに
誘拐されています。
まだ風景画が絵画のジャンルとして確立していなかった時代なので、
神話をテーマにしていますが、描きたかったのは海辺の風景で、
海は波立ち、遠くの山や海の向こうの島は淡く霞んでいます。
「エウロペの誘拐」 ギュスターヴ・モロー 1868年 パリ、ギュスターヴ・モロー美術館

大きな作品で、ゼウスは神の顔を顕し、エウロペは身を預けています。
筆遣いも細かく、精緻な描き方です。
「ダナエ」 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
1544-46年頃 ナポリ、カポディモンテ美術館

ギリシャ神話のお話で、美しいダナエに近付くため、ゼウスが黄金の雨となって
降り注いでいます。
雨は金貨の形で表され、ダナエとエロス(ローマ神話のキューピッド)が
それを見上げています。
同じ構図の作品は4点残っていて、ヴァザーリの「芸術家列伝」によれば、
ミケランジェロはティツィアーノに会い、現在プラド美術館所蔵の作品を見ています。
その時は称賛したものの、後でヴァザーリに、ティツィアーノの色彩は優れているが、
デッサンと画面構成に難があると批評しています。
ティツィアーノは色彩に優れた画家として有名ですが、本当にデッサンに問題が
あるのでしょうか。
「レダと白鳥」 レオナルド周辺の画家 16世紀 ロマ、ボルゲーゼ美術館

ギリシャ神話の、ゼウスが美しいレダを誘惑しようと、白鳥に身を変えて近付いた
という話で、今は失われたレオナルドのオリジナル作品に依っているとされています。
レオナルドらしく、レダの表情はどこか謎めいています。
『「レダ」の頭部習作』 ミケランジェロ・ブオナローティ
赤石墨、紙 1530年頃 フィレンツェ、カーサ・ブオナローティ

ギリシャ神話の、ゼウスが白鳥に姿を変えてレダと通じたという逸話を描いた、
「レダと白鳥」のための習作です。
モデルは男性の弟子とのことで、当時は女性像でも男性をモデルにすることが
多かったそうです。
肌の明暗も細密に描かれていて、まつ毛を長くして女性らしくした部分も
描き添えられています。
「レダと白鳥」 ヤコポ・ティントレット 1551-55年頃 ウフィツィ美術館

ギリシャ神話の、ゼウスが美しいレダを誘惑しようと、白鳥に身を変えて近づいたという
お話を題材にしています。
思い切った斜めの構図で勢いがあり、後のバロック絵画を思わせます。
ヤコポ・ティントレット(1518-94)はティツィアーノの弟子で、ほとんどヴェネツィアを
出ることもなく、ルネサンス後期のヴェネツィアを代表する画家となっています。
同じヴェネツィアのルネッサンスでも、初期のベッリーニの頃とはかなり違ってきています。
「ユピテルとセメレ」 ギュスターヴ・モロー ギュスターヴ・モロー美術館

ユピテル(ローマ神話の主神、ギリシャ神話ではゼウス)はセメレと通じますが、
セメレはユピテルに真の姿を見せるように迫ります。
断り切れなくなったユピテルが雷を伴った姿を現すと、セメレは雷に焼かれて
死んでしまいます。
ユピテルは稲妻を発し、セメレは驚いてのけぞり、足元にはユピテルの象徴である
鷲が描かれています。
モローの好んだ神秘的な世界を描いた作品で、ギュスターヴ・モロー美術館には
同じテーマの大作があります。
「ユピテルとカリスト」 フランソワ・ブーシェ 1744年

ローマ神話のユピテルは月の女神ディアナ(ギリシャ神話のアルテミス)に
従っていたカリストに恋をして、ディアナの姿に変身してカリストに
近付いています。
ディアナは三日月を額にいただき、狩の神でもあるので、足元には獲物の
兎や鳥、矢筒があります。
背後の鷲はディアナが実はユピテルであることを表しています。
ユピテルはレダに恋して白鳥になったり、ダナエに近づくため黄金の雨に
なったりと、マメな神様です。
いかにもロココといった、甘く、この上なく優美な作品です。
「アレッツォのミネルウァ」 前3世紀

ギリシャ時代の、軍神アテナの青銅の立像です。
アテナはローマではミネルウァと呼ばれ、アレッツォで発見されたので、
「アレッツォのミネルウァ」と名がついたそうです。
150cmの細身の像ですが、ギリシャ風の兜を頭に載せ、胸当てを
着けています。
力を抜いて、やや腰を前に出した、自然な姿勢です。
「パラスとケンタウロス」 サンドロ・ボッティチェリ
1480-85年頃 テンペラ、カンヴァス ウフィツィ美術館

パラスはギリシャのアテナ神の別名で、学問・芸術の神です。
ケンタウロスはギリシャ神話に出てくる半人半馬の怪獣で、弓矢などの武器を持ち、
野蛮で暴力的とされています。
パラスがケンタウロスの髪を掴んでいるのは理性の勝利を表しているそうです。
パラスは軍神でもあるので、大きな槍を持っています。
衣装の模様はダイヤモンドの指輪を組合わせたもので、フィレンツェの支配者、
メディチ家の紋章の一つです。
この絵は同じボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」と一緒にメディチ家一族の邸に
飾られていたそうです。
波打つ髪にダイヤモンドの飾りとオリーブの冠を着けたパラスはボッティチェリらしい
優美な顔立ちで、やや憂いを含んだ表情を浮かべています。
「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」 ペーテル・パウル・ルーベンス
1615-16年 ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

ギリシャ神話のお話で、女神アテナ(あるいは地母神ガイア)は後にアテナイ王となる
赤ん坊のエリクトニオスを箱に入れて、アテナイ王ケクロプスの娘たちに預けます。
しかし、娘たちはアテナの言い付けを破って箱の中を見たため、死んでしまいます。
幼年、成年、老年の3者が一つの画面に描かれ、右上には地母神をかたどった
噴水もあります。
「アフロディテ像」 大理石 ローマ時代(紀元前4世紀のギリシャの
オリジナルに 基づくヴァリアント) 大英博物館

高さ107cmで、ギリシャのパロス島の大理石を使っています。
ミロのヴィーナス(アフロディテに対応するローマ神)もパロス島の大理石とのことです。
均整の取れた姿で、サンダルを履いています。
ギリシャの彫刻家、プラクシテレスの作品のヴァリアント(変形版)とのことで、ローマの
外港だったオスティアで出土しています。
「アフロディーテ飾板」 金、トルコ石 1世紀第2四半期
ティリヤ・テペ遺跡出土 アフガニスタン国立博物館

ギリシャ神話の美の女神で、ローマ神話のヴィーナスに相当します。
姿はギリシャ風ですが、翼を持ち、腕輪をして、顔立ちもインド風で、額には
インド風の印もあります。
ガンダーラ仏の顔立ちがギリシャ風なのと逆の形です。
アフロディーテ飾板は2人の女性の墓から発見され、胸元に置かれていました。
「ヴィーナス」 ボッティチェリの工房 1482年頃 テンペラ、油彩・キャンバス
トリノ、サバウダ美術館


代表作、「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスだけを描いてあります。
裸体ではなく、薄物を付けていて、明るく晴れやかな「ヴィーナスの誕生」に比べると
かなり雰囲気が違い、妖艶なヴィーナスです。
「ヴィーナス」 ルーカス・クラーナハ(父) 1532年 フランクフルト、シュテーデル美術館

クラーナハは裸体画の作者としても有名です。
クラーナハの描く古代の女神や女性たちは、長身で細身の独特のプロポーションを
していて、完全な裸体ではなく、薄物を身に着け、蠱惑的な表情を浮かべています。
「音楽にくつろぐヴィーナス」 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 1550年頃 プラド美術館

16世紀ルネッサンスの巨匠、ティツィアーノの作品です。
忠誠を表す犬が描かれていることなどから、誰かの結婚に関係した作品ではないか
ということです。
ティツィアーノは同じ題材の作品を何点か描いています。
「ヴィーナスとキューピッド」 レンブラント・ファン・レイン 1657年頃 ルーヴル美術館

明暗の対比を強調した、レンブラントらしい作品で、ギリシャローマ神話を
題材にしていますが、モデルは妻のヘンドリッキエと娘のコルネリアです。
当時のオランダ風俗を写した、母子像になっています。
「ウェヌスの帯を解くクピド」 ジョシュア・レノルズ 1788年 エルミタージュ美術館

ウェヌス(ヴィーナス)と、その子のクピド(キューピッド)です。
モデルはネルソン提督の愛人だったエンマ・ハミルトンとされています。
ネルソン提督は1805年のトラファルガーの海戦でナポレオンのフランス艦隊を
破りますが、自身も戦死しています。
ジョシュア・レノルズ(1723-1792)はイギリスのロイヤル・アカデミーの初代会長に
なった人で、特に肖像画に優れていました。
この絵は保存状態に問題があったのでしょうか、かなりヒビが入っていて、一部が
剥落しているほどです。
「風景の中のクピド」 バルトロメオ・スケドーニ
16世紀末-17世紀初め エルミタージュ美術館

クピド(キューピッド)が、商売道具の矢を入れたえびらを木に掛け、今度は誰に
矢を射ようかとこちらを見ています。
ちょっと考えているような表情に特徴があります。
バルトロメオ・スケドーニ(1578-1615)はモデナ出身で、パルマに住んだ画家ですが、
夭折しています。
「羊飼い姿のヴィーナス」 ジャン=バティスト・ユエ 山寺後藤美術館

ジャン=バティスト・ユエ(1745-1811)は1768年にフランス王立アカデミーに
入会するなど、早くから人気のあった画家で、特に動物画を得意としていますが、
さまざまな題材の作品を描いています。
「ヴィーナスの誕生」 アレクサンドル・カバネル 1863年 オルセー美術館

アレクサンドル・カバネル(1823-1889)は新古典主義を継承するアカデミズムの
代表的な画家で、この作品もナポレオン3世の買上げになっています。
印象派の画家からは守旧派として非難されていますが、絵の上手さはさすがです。
波の上に横たわっている姿は何となく不自然ですが、空や海の青色はとても
やわらかく優美です。
「ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)」
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 1863-68年頃 ラッセル=コーツ美術館

ギリシャ神話の「パリスの審判」で、三美神の中で最も美しい神に選ばれ、
林檎を受け取ったウェヌス(ヴィーナス、ギリシャ神話ではアフロディテ)です。
ウェヌスは審判を行なう、トロイアの王子パリスに、自分を選んだら自分とそっくり同じ
美人の妻を与えると約束していました。
この申し出で、パリスを心変わり(ウェルティコルディア)させた、魔性のヴィーナスです。
手には林檎と、人を心変わりさせるクピドの矢を持っています。
「パリスの審判」 サンドロ・ボッティチェリと工房
1485-88年頃 テンペラ ヴェネツィア、チーニ邸美術館

ギリシャ神話のパリスの審判を海辺の景色の中で描いています。
パリスや三美神は風景の中に貼り付けたような感じです。
パリスはアフロディテを勝たせた結果、スパルタ王の妃、ヘレネ―を手に入れますが、
これが元で神々をも二分するトロイア戦争が起こります。
「パリスの審判」 ピエール=オーギュスト・ルノワール 1908年 三菱一号館美術館寄託

ギリシャ神話の一場面の、パリスがアフロディテに黄金の林檎を与えているところです。
ルノワール晩年の作品で、三美神は豊麗な姿で描かれています。
「ヘクトルを打ち倒すアキレス」 ペーテル・パウル・ルーベンス 1630-1635年頃
フランス、ポー美術館

タピスリーの下絵で、ギリシャ神話のトロイア戦争の一場面、トロイア側の
総大将ヘクトルがアカイア側のアキレスに槍で喉を突かれて斃されるところです。
額縁のような石柱や花綱に囲まれていて、マントや羽飾りの赤が鎧兜の銀色に映え、
ルーベンスらしい躍動感のある作品です。
タピスリーの下絵は完成品と左右反転して描くためか、ヘクトルもアキレスも
武器を左手に持っています。
「アキレウスとケイロン」 65-79年 ナポリ国立考古学博物館蔵

フレスコ画で、ギリシャ神話の英雄アキレウスに、ケンタウロスの賢者ケイロンが
竪琴を教えているところです。
ポンペイ郊外のエルコラーノの邸宅にあった壁画で、エルコラーノは紀元79年の
ヴェスヴィオ火山の噴火で埋没しています。
「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ
1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託


古代ギリシャの彫刻、「ラオコーン」は1506年にローマで発掘され、ルネッサンス芸術に
大きな影響を与えています。
ギリシャ神話にある話で、トロイア戦争において、トロイアの神官、ラオコーンは
アカイア側の計略による木馬を市内に入れることに反対したため、アテナの怒りを買い、
目をつぶされ、2人の息子と共に海蛇に取り付かれ、殺されます。
苦しむラオコーンの肉体には力がみなぎり、劇的な場面となっています。
コピーもいくつか造られていて、これもその一つです。
「トロイアの城壁に立つヘレネ」 ギュスターヴ・モロー
1868年 パリ、ギュスターヴ・モロー美術館

ギリシャ神話の「パリスの審判」の結果、トロイアに奪い去られたヘレネを
取り返そうとして起こされたのがトロイア戦争です。
犠牲者の横たわる城壁に赤い花を持って立つヘレネは観音像のようにも見えます。
トロイアは現在のトルコのエーゲ海沿いにあり、ハインリヒ・シュリーマン
(1822-1890)による発掘によって有名ですが、シュリーマンの時代は考古学が
未発達だったこともあり、かなり乱暴な発掘だったようです。
実際にトロイア戦争があったのは紀元前1200年頃の事だったようですが、
どのような勢力が攻撃したのかは不明だそうです。
- 関連記事
-
- 「PICNIC×KOGEI展」 銀座 ポーラ ミュージアム アネックス (2020/06/30)
- ギリシャ・ローマ神話を題材にした作品 その2 (2020/06/28)
- ギリシャ・ローマ神話を題材にした作品 その1 (2020/06/27)
- 「高畑一彰 joint」展 日本橋髙島屋美術画廊X (2020/06/25)
- エコール・ド・パリの画家 (2020/06/23)
光を上手く使い、垂れ幕にも動きを持たせた、魅力のある作品です。