ギリシャ・ローマ神話
私の観た、ギリシャ・ローマ神話を題材にした作品を集めてみました。
今回は2回に分けた、その2です。
「アルテミス像」 前100年頃 デロス島、「ディアドゥメノスの家」より出土
アテネ国立考古学博物館蔵

アルテミスはギリシャ神話の狩猟の神で、本来は猛々しいのですが、トゥニカ(単衣)を着た
この像はどこか優し気です。
アレクサンドロス大王以後のヘレニズム文化の作品は優美で繊細になっているそうです。
このような像を観ていると、西洋文明は古代ギリシャに始まるのだということをあらためて
実感します。
『アルテミス:信奉者たちから贈られたマントを留める狩の女神、
通称「ギャビーのディアナ」』
ギャビー(現オステリア・デル・オーザ)、イタリア 100年頃 ルーヴル美術館

18世紀にローマ近郊で発見された像で、ギリシャ彫刻のローマでの模刻と思われます。
アルテミスはギリシャ神話の狩と月の女神、ローマではディアナとして
信仰されています。
ほぼ等身大に近い像で、トゥニカを着てマントを羽織っている姿はとても清楚で、
サンダルの飾り紐まで彫り出されています。
テオドール・シャセリオー 「アクタイオンに驚くディアナ」 1840年 国立西洋美術館

ディアナはローマ神話の狩の女神で、月の女神ともされています。
ギリシャ神話のアルテミスのことです。
水浴中の姿を見た漁師のアクタイオンは鹿の姿に変えられ、連れていた猟犬たちに
噛み殺されてしまいます。
頭に三日月を付けたディアナは背中を見せ、ニンフたちは驚き、アクタイオンは
遠くで鹿の姿になって、犬に襲われています。
夕暮れの光の中で、ニンフたちはただならぬ表情を見せ、異様な雰囲気を持っています。
「フローラ」 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
1515年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

バラ、スミレ、ジャスミンを手にした、ローマ神話の春の女神です。
右手に指輪をしていることから、結婚や花嫁の寓意ではないかということです。
ティツィアーノ(1488/1490頃-1576)の初期の作品で、きっちりとした
豊麗な描き方をしていて、つややかな肌が際立ちます。
「フローラ」 エドワード・バーン=ジョーンズ 1868-84年 郡山市立美術館

花の女神フローラが春風の中で花の種を撒き、その足元ではチューリップが花開いて
います。
体の線を風を受けた衣装が包んでいて、風は西風の神ゼピュロスを暗示しています。
フローラとゼピュロスはボッティチェッリの「プリマヴェーラ」や「ヴィーナスの誕生」などにも
描かれています。
指輪「女神ニケ」 紀元前4世紀後期、古典期ギリシャ
金、ガラス 橋本コレクション、国立西洋美術館

ニケはギリシャ神話の勝利の女神です。
有翼の姿で表され、ルーヴル美術館の所蔵する「サモトラケのニケ像」で有名です。
青いガラスの上に金箔で描かれ、小さなロゼット文が囲んでいます。
かつては透明ガラスにおおわれていたそうです。
「ニケ小像」 ブロンズ 紀元前500年頃 大英博物館

ニケは勝利を司る有翼の女神です。
アーティゾン美術館にあるラウホ作の大理石彫刻「勝利の女神」も
ニケを表しています。
こちらは高さ15cmの小さな像で、元はブロンズの容器の一部だったらしい
とのことです。
南イタリアの工房の作とのことですが、広げた翼はエジプト風の様式美があります。
「アンフィトリテ(海の女神)」 ラウル・デュフィ 1936年 伊丹市立美術館

朝日の昇る海にボート、ヨット、帆船、外輪船、貨物船が浮かび、地引網や浜辺を
散歩する人が見えます。
中心にギリシャ神話の海の女神、アンフィトリテが座って、巻貝から聞こえる海の音を
聴いています。
海の色は自在に塗り分けられ、豊かな地中海世界が広がっています。
デュフィはギリシャ・ローマ神話の神々をよく描いています。
地中海世界の豊穣さを象徴しているのでしょうか。
「シレーヌ」 藤田嗣治 1958年 ポーラ美術館

2013年に新たに発見され、ポーラ美術館が収蔵した作品です。
シレーヌはギリシャ神話の海の怪物、セイレーンのことで、美しい歌声で船人を
惑わし難破させます。
英語のサイレンの語源にもなっています。
フジタ特有の面相筆を活かした筆遣いで、乱れて海藻のように漂う髪も不気味な
妖怪を表しています。
魚の描写がとても巧みで、鱗は光って見えます。
「ムネーモシューネー(記憶の女神)」 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
1876-81年 デラウェア美術館

ムネーモシューネーは記憶を司るギリシャ神話の女神です。
右手の容器に入っている水を飲むと、過去の記憶を完全に思い出すそうです。
額縁にはロセッティ自身により詩が書き込まれています。
「バッカス」 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
1597-98年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

ローマ神話のワインの神、バッカスに扮したカラヴァッジョがブドウの冠を被り、
ちょっと酔ったような無防備な顔でこちらを見ています。
片肌脱ぎをした右腕の手先だけ日焼けしているところまで描かれています。
ワイングラスを左手に持っているのは鏡を見て自分を描いたためだろうということです。
まだ絵の売れない初期の頃はモデルを雇う金が無いので、よく自分自身を
モデルにして描いています。
「バッカス祭」 モーリス・ドニ 1920年 アーティゾン美術館

バッカスはローマ神話のワインの神です。
バッカス祭は豊穣を祝うお祭りで、ブドウの木の下で、にぎやかに祝い、
虎や黒豹、象も集まって、盛り上がっています。
ティツイアーノに倣った作品で、ドニ特有の藤色がかった色彩による祝祭的な情景です。
ジュネーヴの毛皮店、「ベンガル虎」の注文で描かれた作品の下絵なので、
虎が大きく描かれています。
「ヘラクレス」 紀元前4世紀後半 フィレンツェ国立考古学博物館蔵

ギリシャ神話の英雄、ヘラクレスがライオンと闘った棍棒を持った姿で表されています。
高さ約50㎝の小像で、堂々とした体格をしています。
ヘラクレスは仏教の守護神の形で日本に伝わり、仁王様になっています。
「ナルキッソス」 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
1599年頃 ローマ、バルベリーニ宮国立古典美術館

ナルキッソスはギリシャ神話に出てくる美少年で、水に映った自分の姿に恋をしてしまいます。
ナルシズムの語源になったお話で、接吻しようとして水に左手を入れたところを描いています。
明暗の対比が強くなり、劇的な効果が出ています。
「エコーとナルキッソス」 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
1903年 油彩・カンヴァス

ギリシャ神話の中の不毛な愛を象徴するお話で、美少年ナルキッソスは水に映る
自分の姿に恋をして、やがて死んでしまい、水仙に姿を変えます。
エコーはナルキッソスに恋しますが、木霊のように相手の言葉を繰り返すだけで、
自分から話しかけることは出来ません。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(1849-1917)はイギリスの古典主義の
画家ですが、ラファエル前派にも近い雰囲気を持っています。
ピエール=ナルシス・ゲラン 「モルフェウスとイリス」 1811年 エルミタージュ美術館

ギリシャ神話の夢の神、モルフェウスが虹の神のイリスに起こされているところで、
クピドは夜を表すカーテンを開けています。
モルフェウスはモルヒネの語源とされています。
磁器のような硬質で艶やかな肌の神々による、ロマンティックな情景です。
ピエール=ナルシス・ゲラン(1774-1833)は「ナポレオンの戴冠式を描いた、
ジャック=ルイ・ダヴィッドに続く新古典派の画家ですが、感傷的な作風が特徴との
ことです。
「ペルセウスとアンドロメダ」 ペーテル・パウル・ルーベンスと工房
1622年以降 リヒテンシュタイン侯爵家

ギリシャ神話の、英雄ペルセウスが海の怪獣を退治して、生贄にされそうになった
アンドロメダを救う話で、討たれた怪獣は海に落ちています。
ペルセウスの乗っていた、翼のある天馬、ペガサスも描かれています。
ルーベンスらしい、バロックの躍動的な画面で、ペルセウスのマントの赤と
アンドロメダの白い肌が際立っています。
「メドゥーサの死 II」 -連作「ペルセウス」より
エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ
1882年 グワッシュ、紙 サウサンプトン市立美術館

イギリスの政治家、アーサー・バルフォアの邸宅の装飾を依頼されて描いた、
縦約150cmの大きな下絵です。
バルフォアはパレスチナでのユダヤ人国家の設立を支持した、「バルフォア宣言」で
有名です。
作品は、ギリシャ神話の英雄のペルセウスが切り取った怪物メドゥーサの首を
袋に入れて飛び去ろうとしているところです。
ペルセウスはヘルメスから与えられた、翼のあるサンダルを履いています。
黒い翼の二人はメドゥーサの死を知って駆け付けた姉たちです。
放射状に広がる三人の動きには迫力があります。
「アポロンの戦車」 オディロン・ルドン 油彩、パステル、厚紙 1909年 ボルドー美術館

アポロンはギリシャ神話の太陽神で、戦車を駆って空を飛びます。
アポロンの戦車のモチーフは、ドラクロワの描いたルーブル宮のアポロンの間の
天井画を基にしているということです。
深い青色の天空に駆け上がる馬たちは自身が太陽のように輝いています。
「パエトンの墜落」 ペーテル・パウル・ルーベンス
1604-05 年頃、おそらく1606-08 年頃に再制作 ワシントン、ナショナル・ギャラリー

パエトンはギリシャ神話の登場人物で、父の太陽神アポロンの戦車を駆りますが、
暴走させてしまい、世界中が大火災となります。
そこで、最高神ユピテルに雷を落とされ、死んでしまいます。
パエトンは跳ね狂った4頭立ての馬車から振り落とされ、蝶の羽を着けた女神たちは
恐れおののいています。
斜めに差す光が動きを誘う、ルーベンスらしいダイナミックな作品です。
「イカルスの墜落」 マルク・シャガール 1974~77年 パリ、ポンピドー・センター

90歳近い晩年の作品です。
ダイダロスと息子のイカルスはミノス王のために幽閉されますが、鳥の羽根を集めて
蝋で固めた翼を作り、空を飛んで逃げ出します。
ところがイカルスは調子に乗って、太陽神アポロンに近付いたため、熱で蝋が溶け、
イカルスは海に墜ちて死んでしまいます。
故郷ヴィテブスクの人々の上に墜ちて行くのは、シャガール自身にも見えます。
ヴィテブスクはユダヤ人を中心にした町でしたが、独ソ戦の戦場ともなっていて、
人々の運命は過酷だったはずです。
これほど多くの人々を描き入れたのは、鎮魂の意味を込めたのでしょうか。
たとえ墜落ではあっても、帰るべき故郷への思いの強さを見せています。
「マルシュアスの皮をはぐアポロ」 グエルチーノ
1618年 フィレンツェ、パラティーナ美術館

ギリシャ神話のお話で、笛の名手のマルシュアスは竪琴の名手のアポロと
技量を争って敗れ、生きたまま皮を剥がれてしまいます。
この作品ではアポロの楽器は竪琴ではなく、バイオリンに似た楽器が
右上に描かれています。
アポロは光を浴びて白く輝き、勝者と敗者の差を見せています。
「マルスとレア・シルウィア」 ペーテル・パウル・ルーベンス
1616-17年 ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

ローマ神話の軍神マルスが女神ウェスタに仕える巫女のレア・シルウィアに迫る場面です。
二人の間の子がローマを建国したとされる双子の兄弟、ロムルスとレムスです。
マルスが兜を脱いでいるのは戦いの停止、すなわち平和の到来も意味するそうです。
ネーデルランドの独立戦争で、スペインとの一時的停戦条約が結ばれていた時期の
作品で、平和への強い思いもあったのでしょう。
「スフィンクス像(おそらくテーブル脚部)」 大理石 紀元後120-140年頃 大英博物館

ギリシャ神話のスフィンクスは若い女性の顔、ライオンの体、鷲の羽根を持っています。
高さ84cmで、大きく広げた鷲の羽根は羽毛まで細かく彫られています。
体の部分はライオンにしては細身で優雅です。
ギリシャ神話ではスフィンクスはオイディプスに謎かけを挑んで答えを解かれてしまい、
海に身を投げています。
アングルやモローの作品で有名な場面です。
「オルフェウス」 ギュスターヴ・モロー 1865年 オルセー美術館

モローの代表作で、ギリシャ神話に出てくる詩人のオルフェウスが八つ裂きにされ、
竪琴とともにレスボス島に流れ着いた様子を描いています。
一昔前の絵のように見えますが、印象派と同時代の作品です。
ルーラント・サーフェリー 「動物に音楽を奏でるオルフェウス」
1625年 油彩・キャンヴァス プラハ国立美術館


ルーラント・サーフェリー(1576/78-1639)はオランダの画家で、神聖ローマ皇帝
ルドルフ2世の招きでプラハに行き、宮廷画家となっています。
風景画と動物画に優れ、数多くの動物たちを風景の中に取り込んだ動物画で
知られています。
この絵はオランダに帰ってからの作品で、ギリシャ神話の詩人オルフェウスは塔の下、
白馬の右側で竪琴を持って座っています。
ルドルフ2世は生きた動物たちを集め、動物園も作っています。
連作 「ピグマリオンと彫像」 エドワード・バーン=ジョーンズ
1878年 バーミンガム美術館
ギリシャ神話のお話で、キプロスのピグマリオンは自分の彫った理想の女性
ガラテアの彫刻に恋してしまいます。
それを憐れんだ愛の女神アフロディテは彫刻に生命を与え、ピグマリオンは
ガラテアと結ばれます。
ミュージカルや映画の「マイ・フェア・レディ」はこのお話を元にしています。
1.「恋心」

物思いに沈むピグマリオンです。
向こうに三美神の彫刻が見えます。
2.「心抑えて」

ノミと金槌を持ち、出来上がった像を前に、恋心を抑えているところです。
家の外には点景として風俗画のような人物が描かれています。
3.「女神のはからい」

美と愛の女神、アフロディテが鳩や薔薇とともに現れ、ガラテアに生命を与えます。
灰色だったガラテアも人肌色に変わっています。
海で産まれた女神なので足元には水が描かれています。
4.「成就」

喜んでひざまずくピグマリオンと、人になったばかりのガラテアです。
どの絵も背景に工夫があって、場面に奥行きと変化を見せています。
「赦しの樹」 エドワード・バーン=ジョーンズ 1881-82年
油彩、カンヴァス リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー

ギリシャ神話の人物、デーモポーンはトラキアの王女ピュリスと結婚しますが、妻を残して
故郷に帰ったまま戻らず、ピュリスは嘆いて死んでしまいます。
それを憐れんだ神々によりアーモンドの木に変えられ、後悔したデーモポーンが戻って
木を抱きしめるとピュリスが現れ、赦しを与えます。
満開のアーモンドの花を後ろに、抱きつくピュリスと驚くデーモポーンは渦のように
からみ合っています。
1870年に描かれたものの酷評され、7年間も公的展示から身を引いた作品の再制作と
いうことですが、何が不評だったのでしょう。
「ベートーヴェン・フリーズ 正面の壁「敵意に満ちた力」」 グスタフ・クリムト
1901-1902年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館

1984年の原寸大複製です。
ベートーヴェンを主題にした、1901年の第14回ウィーン分離派展示会のために
描かれた壁画です。
縦約2m、横約34mの大作で、第9交響曲に基いて描かれ、3面に分かれており、
左は「幸福への憧れ」、正面は「敵対する勢力」、右は「歓喜の歌」となっています。
ゴリラのような動物はギリシャ神話に出てくるテュフォンという怪物で、神々の王
ゼウスとも壮絶に戦っています。
左側の3人はギリシャ神話の怪物、ゴルゴン姉妹で、髪の毛は生きた蛇です。
何ともおどろおどろしい画面で、第9の中にこんな情景はあっただろうかと思います。
chariot
私の観た、ギリシャ・ローマ神話を題材にした作品を集めてみました。
今回は2回に分けた、その2です。
「アルテミス像」 前100年頃 デロス島、「ディアドゥメノスの家」より出土
アテネ国立考古学博物館蔵

アルテミスはギリシャ神話の狩猟の神で、本来は猛々しいのですが、トゥニカ(単衣)を着た
この像はどこか優し気です。
アレクサンドロス大王以後のヘレニズム文化の作品は優美で繊細になっているそうです。
このような像を観ていると、西洋文明は古代ギリシャに始まるのだということをあらためて
実感します。
『アルテミス:信奉者たちから贈られたマントを留める狩の女神、
通称「ギャビーのディアナ」』
ギャビー(現オステリア・デル・オーザ)、イタリア 100年頃 ルーヴル美術館

18世紀にローマ近郊で発見された像で、ギリシャ彫刻のローマでの模刻と思われます。
アルテミスはギリシャ神話の狩と月の女神、ローマではディアナとして
信仰されています。
ほぼ等身大に近い像で、トゥニカを着てマントを羽織っている姿はとても清楚で、
サンダルの飾り紐まで彫り出されています。
テオドール・シャセリオー 「アクタイオンに驚くディアナ」 1840年 国立西洋美術館

ディアナはローマ神話の狩の女神で、月の女神ともされています。
ギリシャ神話のアルテミスのことです。
水浴中の姿を見た漁師のアクタイオンは鹿の姿に変えられ、連れていた猟犬たちに
噛み殺されてしまいます。
頭に三日月を付けたディアナは背中を見せ、ニンフたちは驚き、アクタイオンは
遠くで鹿の姿になって、犬に襲われています。
夕暮れの光の中で、ニンフたちはただならぬ表情を見せ、異様な雰囲気を持っています。
「フローラ」 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
1515年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

バラ、スミレ、ジャスミンを手にした、ローマ神話の春の女神です。
右手に指輪をしていることから、結婚や花嫁の寓意ではないかということです。
ティツィアーノ(1488/1490頃-1576)の初期の作品で、きっちりとした
豊麗な描き方をしていて、つややかな肌が際立ちます。
「フローラ」 エドワード・バーン=ジョーンズ 1868-84年 郡山市立美術館

花の女神フローラが春風の中で花の種を撒き、その足元ではチューリップが花開いて
います。
体の線を風を受けた衣装が包んでいて、風は西風の神ゼピュロスを暗示しています。
フローラとゼピュロスはボッティチェッリの「プリマヴェーラ」や「ヴィーナスの誕生」などにも
描かれています。
指輪「女神ニケ」 紀元前4世紀後期、古典期ギリシャ
金、ガラス 橋本コレクション、国立西洋美術館

ニケはギリシャ神話の勝利の女神です。
有翼の姿で表され、ルーヴル美術館の所蔵する「サモトラケのニケ像」で有名です。
青いガラスの上に金箔で描かれ、小さなロゼット文が囲んでいます。
かつては透明ガラスにおおわれていたそうです。
「ニケ小像」 ブロンズ 紀元前500年頃 大英博物館

ニケは勝利を司る有翼の女神です。
アーティゾン美術館にあるラウホ作の大理石彫刻「勝利の女神」も
ニケを表しています。
こちらは高さ15cmの小さな像で、元はブロンズの容器の一部だったらしい
とのことです。
南イタリアの工房の作とのことですが、広げた翼はエジプト風の様式美があります。
「アンフィトリテ(海の女神)」 ラウル・デュフィ 1936年 伊丹市立美術館

朝日の昇る海にボート、ヨット、帆船、外輪船、貨物船が浮かび、地引網や浜辺を
散歩する人が見えます。
中心にギリシャ神話の海の女神、アンフィトリテが座って、巻貝から聞こえる海の音を
聴いています。
海の色は自在に塗り分けられ、豊かな地中海世界が広がっています。
デュフィはギリシャ・ローマ神話の神々をよく描いています。
地中海世界の豊穣さを象徴しているのでしょうか。
「シレーヌ」 藤田嗣治 1958年 ポーラ美術館

2013年に新たに発見され、ポーラ美術館が収蔵した作品です。
シレーヌはギリシャ神話の海の怪物、セイレーンのことで、美しい歌声で船人を
惑わし難破させます。
英語のサイレンの語源にもなっています。
フジタ特有の面相筆を活かした筆遣いで、乱れて海藻のように漂う髪も不気味な
妖怪を表しています。
魚の描写がとても巧みで、鱗は光って見えます。
「ムネーモシューネー(記憶の女神)」 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
1876-81年 デラウェア美術館

ムネーモシューネーは記憶を司るギリシャ神話の女神です。
右手の容器に入っている水を飲むと、過去の記憶を完全に思い出すそうです。
額縁にはロセッティ自身により詩が書き込まれています。
「バッカス」 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
1597-98年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

ローマ神話のワインの神、バッカスに扮したカラヴァッジョがブドウの冠を被り、
ちょっと酔ったような無防備な顔でこちらを見ています。
片肌脱ぎをした右腕の手先だけ日焼けしているところまで描かれています。
ワイングラスを左手に持っているのは鏡を見て自分を描いたためだろうということです。
まだ絵の売れない初期の頃はモデルを雇う金が無いので、よく自分自身を
モデルにして描いています。
「バッカス祭」 モーリス・ドニ 1920年 アーティゾン美術館

バッカスはローマ神話のワインの神です。
バッカス祭は豊穣を祝うお祭りで、ブドウの木の下で、にぎやかに祝い、
虎や黒豹、象も集まって、盛り上がっています。
ティツイアーノに倣った作品で、ドニ特有の藤色がかった色彩による祝祭的な情景です。
ジュネーヴの毛皮店、「ベンガル虎」の注文で描かれた作品の下絵なので、
虎が大きく描かれています。
「ヘラクレス」 紀元前4世紀後半 フィレンツェ国立考古学博物館蔵

ギリシャ神話の英雄、ヘラクレスがライオンと闘った棍棒を持った姿で表されています。
高さ約50㎝の小像で、堂々とした体格をしています。
ヘラクレスは仏教の守護神の形で日本に伝わり、仁王様になっています。
「ナルキッソス」 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
1599年頃 ローマ、バルベリーニ宮国立古典美術館

ナルキッソスはギリシャ神話に出てくる美少年で、水に映った自分の姿に恋をしてしまいます。
ナルシズムの語源になったお話で、接吻しようとして水に左手を入れたところを描いています。
明暗の対比が強くなり、劇的な効果が出ています。
「エコーとナルキッソス」 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
1903年 油彩・カンヴァス

ギリシャ神話の中の不毛な愛を象徴するお話で、美少年ナルキッソスは水に映る
自分の姿に恋をして、やがて死んでしまい、水仙に姿を変えます。
エコーはナルキッソスに恋しますが、木霊のように相手の言葉を繰り返すだけで、
自分から話しかけることは出来ません。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(1849-1917)はイギリスの古典主義の
画家ですが、ラファエル前派にも近い雰囲気を持っています。
ピエール=ナルシス・ゲラン 「モルフェウスとイリス」 1811年 エルミタージュ美術館

ギリシャ神話の夢の神、モルフェウスが虹の神のイリスに起こされているところで、
クピドは夜を表すカーテンを開けています。
モルフェウスはモルヒネの語源とされています。
磁器のような硬質で艶やかな肌の神々による、ロマンティックな情景です。
ピエール=ナルシス・ゲラン(1774-1833)は「ナポレオンの戴冠式を描いた、
ジャック=ルイ・ダヴィッドに続く新古典派の画家ですが、感傷的な作風が特徴との
ことです。
「ペルセウスとアンドロメダ」 ペーテル・パウル・ルーベンスと工房
1622年以降 リヒテンシュタイン侯爵家

ギリシャ神話の、英雄ペルセウスが海の怪獣を退治して、生贄にされそうになった
アンドロメダを救う話で、討たれた怪獣は海に落ちています。
ペルセウスの乗っていた、翼のある天馬、ペガサスも描かれています。
ルーベンスらしい、バロックの躍動的な画面で、ペルセウスのマントの赤と
アンドロメダの白い肌が際立っています。
「メドゥーサの死 II」 -連作「ペルセウス」より
エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ
1882年 グワッシュ、紙 サウサンプトン市立美術館

イギリスの政治家、アーサー・バルフォアの邸宅の装飾を依頼されて描いた、
縦約150cmの大きな下絵です。
バルフォアはパレスチナでのユダヤ人国家の設立を支持した、「バルフォア宣言」で
有名です。
作品は、ギリシャ神話の英雄のペルセウスが切り取った怪物メドゥーサの首を
袋に入れて飛び去ろうとしているところです。
ペルセウスはヘルメスから与えられた、翼のあるサンダルを履いています。
黒い翼の二人はメドゥーサの死を知って駆け付けた姉たちです。
放射状に広がる三人の動きには迫力があります。
「アポロンの戦車」 オディロン・ルドン 油彩、パステル、厚紙 1909年 ボルドー美術館

アポロンはギリシャ神話の太陽神で、戦車を駆って空を飛びます。
アポロンの戦車のモチーフは、ドラクロワの描いたルーブル宮のアポロンの間の
天井画を基にしているということです。
深い青色の天空に駆け上がる馬たちは自身が太陽のように輝いています。
「パエトンの墜落」 ペーテル・パウル・ルーベンス
1604-05 年頃、おそらく1606-08 年頃に再制作 ワシントン、ナショナル・ギャラリー

パエトンはギリシャ神話の登場人物で、父の太陽神アポロンの戦車を駆りますが、
暴走させてしまい、世界中が大火災となります。
そこで、最高神ユピテルに雷を落とされ、死んでしまいます。
パエトンは跳ね狂った4頭立ての馬車から振り落とされ、蝶の羽を着けた女神たちは
恐れおののいています。
斜めに差す光が動きを誘う、ルーベンスらしいダイナミックな作品です。
「イカルスの墜落」 マルク・シャガール 1974~77年 パリ、ポンピドー・センター

90歳近い晩年の作品です。
ダイダロスと息子のイカルスはミノス王のために幽閉されますが、鳥の羽根を集めて
蝋で固めた翼を作り、空を飛んで逃げ出します。
ところがイカルスは調子に乗って、太陽神アポロンに近付いたため、熱で蝋が溶け、
イカルスは海に墜ちて死んでしまいます。
故郷ヴィテブスクの人々の上に墜ちて行くのは、シャガール自身にも見えます。
ヴィテブスクはユダヤ人を中心にした町でしたが、独ソ戦の戦場ともなっていて、
人々の運命は過酷だったはずです。
これほど多くの人々を描き入れたのは、鎮魂の意味を込めたのでしょうか。
たとえ墜落ではあっても、帰るべき故郷への思いの強さを見せています。
「マルシュアスの皮をはぐアポロ」 グエルチーノ
1618年 フィレンツェ、パラティーナ美術館

ギリシャ神話のお話で、笛の名手のマルシュアスは竪琴の名手のアポロと
技量を争って敗れ、生きたまま皮を剥がれてしまいます。
この作品ではアポロの楽器は竪琴ではなく、バイオリンに似た楽器が
右上に描かれています。
アポロは光を浴びて白く輝き、勝者と敗者の差を見せています。
「マルスとレア・シルウィア」 ペーテル・パウル・ルーベンス
1616-17年 ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

ローマ神話の軍神マルスが女神ウェスタに仕える巫女のレア・シルウィアに迫る場面です。
二人の間の子がローマを建国したとされる双子の兄弟、ロムルスとレムスです。
マルスが兜を脱いでいるのは戦いの停止、すなわち平和の到来も意味するそうです。
ネーデルランドの独立戦争で、スペインとの一時的停戦条約が結ばれていた時期の
作品で、平和への強い思いもあったのでしょう。
「スフィンクス像(おそらくテーブル脚部)」 大理石 紀元後120-140年頃 大英博物館

ギリシャ神話のスフィンクスは若い女性の顔、ライオンの体、鷲の羽根を持っています。
高さ84cmで、大きく広げた鷲の羽根は羽毛まで細かく彫られています。
体の部分はライオンにしては細身で優雅です。
ギリシャ神話ではスフィンクスはオイディプスに謎かけを挑んで答えを解かれてしまい、
海に身を投げています。
アングルやモローの作品で有名な場面です。
「オルフェウス」 ギュスターヴ・モロー 1865年 オルセー美術館

モローの代表作で、ギリシャ神話に出てくる詩人のオルフェウスが八つ裂きにされ、
竪琴とともにレスボス島に流れ着いた様子を描いています。
一昔前の絵のように見えますが、印象派と同時代の作品です。
ルーラント・サーフェリー 「動物に音楽を奏でるオルフェウス」
1625年 油彩・キャンヴァス プラハ国立美術館


ルーラント・サーフェリー(1576/78-1639)はオランダの画家で、神聖ローマ皇帝
ルドルフ2世の招きでプラハに行き、宮廷画家となっています。
風景画と動物画に優れ、数多くの動物たちを風景の中に取り込んだ動物画で
知られています。
この絵はオランダに帰ってからの作品で、ギリシャ神話の詩人オルフェウスは塔の下、
白馬の右側で竪琴を持って座っています。
ルドルフ2世は生きた動物たちを集め、動物園も作っています。
連作 「ピグマリオンと彫像」 エドワード・バーン=ジョーンズ
1878年 バーミンガム美術館
ギリシャ神話のお話で、キプロスのピグマリオンは自分の彫った理想の女性
ガラテアの彫刻に恋してしまいます。
それを憐れんだ愛の女神アフロディテは彫刻に生命を与え、ピグマリオンは
ガラテアと結ばれます。
ミュージカルや映画の「マイ・フェア・レディ」はこのお話を元にしています。
1.「恋心」

物思いに沈むピグマリオンです。
向こうに三美神の彫刻が見えます。
2.「心抑えて」

ノミと金槌を持ち、出来上がった像を前に、恋心を抑えているところです。
家の外には点景として風俗画のような人物が描かれています。
3.「女神のはからい」

美と愛の女神、アフロディテが鳩や薔薇とともに現れ、ガラテアに生命を与えます。
灰色だったガラテアも人肌色に変わっています。
海で産まれた女神なので足元には水が描かれています。
4.「成就」

喜んでひざまずくピグマリオンと、人になったばかりのガラテアです。
どの絵も背景に工夫があって、場面に奥行きと変化を見せています。
「赦しの樹」 エドワード・バーン=ジョーンズ 1881-82年
油彩、カンヴァス リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー

ギリシャ神話の人物、デーモポーンはトラキアの王女ピュリスと結婚しますが、妻を残して
故郷に帰ったまま戻らず、ピュリスは嘆いて死んでしまいます。
それを憐れんだ神々によりアーモンドの木に変えられ、後悔したデーモポーンが戻って
木を抱きしめるとピュリスが現れ、赦しを与えます。
満開のアーモンドの花を後ろに、抱きつくピュリスと驚くデーモポーンは渦のように
からみ合っています。
1870年に描かれたものの酷評され、7年間も公的展示から身を引いた作品の再制作と
いうことですが、何が不評だったのでしょう。
「ベートーヴェン・フリーズ 正面の壁「敵意に満ちた力」」 グスタフ・クリムト
1901-1902年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館

1984年の原寸大複製です。
ベートーヴェンを主題にした、1901年の第14回ウィーン分離派展示会のために
描かれた壁画です。
縦約2m、横約34mの大作で、第9交響曲に基いて描かれ、3面に分かれており、
左は「幸福への憧れ」、正面は「敵対する勢力」、右は「歓喜の歌」となっています。
ゴリラのような動物はギリシャ神話に出てくるテュフォンという怪物で、神々の王
ゼウスとも壮絶に戦っています。
左側の3人はギリシャ神話の怪物、ゴルゴン姉妹で、髪の毛は生きた蛇です。
何ともおどろおどろしい画面で、第9の中にこんな情景はあっただろうかと思います。
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