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「小林古径と速水御舟―画壇を揺るがした二人の天才―」展 山種美術館 その1
恵比寿
chariot

山種美術館では特別展、小林古径生誕140年記念、「小林古径と速水御舟
―画壇を揺るがした二人の天才―」が開かれています。
会期は7月17日(月・祝)までです。

山種img765 (1)


院展を代表する日本画家、小林古径(1883-1957)と速水御舟(1894-1935)の作品展で、
山種美術館の所蔵する小林古径のすべての作品が展示されています。

記事は2回に分け、今日は小林古径の記事を載せます。

小林古径は新潟県出身で、梶田半古(1870-1917)の画塾に入門しています。
同門に前田青邨、奥村土牛らがいます。
1914年には日本美術院の同人となっています。

小林古径 「闘草」 明治40年(1907) 山種美術館
高山003

五月五日の頃に草を持ち寄って、その優劣を競った、「草合わせ」という
四天王寺蔵の平安時代の扇面古写経にも描かれている遊びです。
手前の子は汗衫(かざみ)を着ています。
小林古径によれば、肌の色の表現に苦労したそうです。

小林古径 「極楽井」 明治45年(1912) 東京国立近代美術館
香010

6月18日までの展示です。
小石川伝通院裏の宗慶寺にあった極楽井の水を汲む乙女たちです。
白木蓮は裏箔によって描かれているそうです。
イエズス会の紋章を模様にした着物やロザリオなど南蛮趣味をあしらって
いますが、清楚で気品に満ちています。
泉に少女たちの集まっている情景は、大伴家持の詠った、
「もののふの八十乙女らが汲みまがふ寺井の上の堅香子(かたかご)の花」を
思い浮かべます。
安田靫彦は「この作品で古径芸術は八分通り完成」と述べています。
宗慶寺は小石川台地の麓にあり、地形からも湧水の出やすい場所だった
ことが分かります。

小林古径 「河風」 大正4年(1915) 山種美術館
和003

黒の絣の浴衣姿の女が河原に置いた縁台に掛け、桔梗の団扇を持って
足を水に浸しています。
後ろに垂らした帯の色が鮮やかで、水の描き方にも特徴があります。
33歳頃の作品で、後の画風と違い、絵に生々しさがあります。
元は日本画家たちの後援者だった原三渓のために描かれた作品で
奥村土牛の旧蔵とのことです。

小林古径 「出湯」 大正10年(1921) 東京国立博物館 
山種img765 (2)

6月27日からの展示です。

小林古径 「静物」 大正11年(1922) 山種美術館
西002

小林古径の描いた唯一の油絵ということで、写実的ですが、背景が無地の
ところは日本画風です。
きっちりとして気品のある描き方は、やはり小林古径です。
落款は痩金体という、北宋の徽宗の作り出した細くて硬い書体になっています。
この時期は西洋画と日本画の間で心が揺れていた頃とのことです。
前田青邨も一時は洋画に転向しようかと悩んだ時期もあるとのことですから、
日本画を続けていくのは大変だったようです。
小林古径はこの絵を描いた年に39歳で前田青邨とともに欧州に留学しています。
大英博物館では東晋の画家、顧愷之(こがいし:344?-405?)の「女史箴図巻
(じょししんずかん)」を見て逆に東洋画の線描に目覚め、模写しています。

小林古径 「琴」 昭和 2年(1927) 個人蔵
娘さんがモデルとのことで、赤い縞模様の着物姿の少女が琴の前に正座して、
爪箱を膝に置き、琴爪を指に嵌めているところです。
きりっとした顔の描線は演奏前のちょっと緊張した表情を見事に描き出しています。
同じ構図で着物の柄の違う作品を京都国立近代美術館が所蔵しています。

小林古径 「清姫」 8枚連作のうち「日高川」 昭和5年(1930) 山種美術館
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紀州の安珍清姫伝説を絵巻物風に8枚続きの絵に仕立てたものです。
安珍を追う清姫が日高川に阻まれている場面です。
灰色の満々とした水に向って伸ばした手が清姫の絶望を表しています。
なびく髪の下にかすかに金色が塗られています。

小林古径 「清姫」 8枚連作のうち「鐘巻」 昭和5年(1930) 山種美術館
山種img765 (4)

道成寺に逃げ込んだ安珍は釣鐘を降ろしてもらってその中に身を隠しますが、
蛇となった清姫は鐘に巻付き、焔を吹いて安珍を焼き殺してしまいます。
この絵では蛇ではなく、龍の姿に描かれています。
白い体や前脚を伸ばして鐘に掛けた姿は、「日高川」での手を伸ばした
清姫の姿に照応しています。
すさまじい場面ですが、古画のようで気品があります。

小林古径 「清姫」 8枚連作のうち「入相桜」 昭和5年(1930) 山種美術館 
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鐘の中で焼き殺された安珍と、日高川に身を投げた清姫の亡骸は共に比翼塚に葬られ、
桜が植えられ、入相桜と呼ばれます。
悲恋の物語は最後に満開の桜によって優しく慰められています。
小林古径はこの作品を気に入っていて、一生手元に置いておくつもりだったのを、
山種美術館の設立のお祝いに寄贈したとのことです。

小林古径 「白華小禽」 昭和5年(1930) 山種美術館
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泰山木に止まっているのは瑠璃でしょうか。
葉の艶や厚みも表されています。

小林古径 「弥勒」 昭和 8年(1933) 山種美術館 
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この作品のみ、撮影可能です。
奈良県室生の大野寺の対岸にある像高11.5mの弥勒如来の磨崖仏で、
鎌倉時代に興福寺の僧、雅縁の発願により彫られ、承元3年(1209)に
後鳥羽上皇の臨席で開眼供養がされています。
弥勒(みろく、マイトレーヤ)は釈迦入滅後、56億7千万年後にこの世に現れ、
人びとを救済するとされている未来仏です。
小林古径は制作の前年に速水御舟と共に京都奈良を旅行しており、その時の
写生を元に描いています。
実際の磨崖仏は岩を彫ってあるため、この絵のようにはっきりとは見えません。
線描により、生きた弥勒の表情になっています。
柴を担いで行く人と比べると、その大きさが分かります。
院展に発表した時は評判が芳しくなかったそうで、手元に20年置いて手を加えています。

小林古径 「三宝柑」 昭和14年(1939) 山種美術館
西003

6月18日までの展示です。
研ぎ澄まされた線描による日本画ですが、陰影も付けられ、立体感があります。

小林古径 「唐蜀黍」 昭和14年(1939) 東京国立近代美術館
山種img765 (3)

6月20日からの展示です。

「猫」 昭和21年(1941) 山種美術館
山種img778 (1)

耳を立て、両足を揃えた凛々しい姿で、この構図に決まるまで試行錯誤を重ねています。
小林古径は欧州に留学した時、大英博物館所蔵の古代エジプトのバステト神も
写生しており、その姿も参考にしています。
永青文庫所蔵の昭和6年(1931)作の「髪」も古代エジプト芸術に倣っています。

いつ観ても、小林古径の描写の巧みさ、線描の見事さ、そして作品の気品の高さには
感動を覚えます。

山種美術館のHPです。

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【2023/05/28 19:49】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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  • こんばんは。
  • 小林古径と速水御舟の作品をたっぷり味わえる、ぜいたくな機会です。
    「炎舞」は何度観ても惹き込まれます。

    【2023/05/28 23:00】 url[chariot #H4z1joGM] [ 編集]
  • 気になる美術展がまた一つ、です。

    小林古径の「清姫」、速水御舟の「炎舞」、どちらも久しぶりに観たい作品です。

    【2023/05/28 21:56】 url[ばーばむらさき #v9aI.q/w] [ 編集]
    please comment















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