日比谷・有楽町
日比谷の出光美術館では、「日本の美・鑑賞入門 しりとり日本美術」展が開かれています。
会期は9月3日(日)までです。

イメージの共通点のある作品を集めて、3つの章にまとめて展示する企画で、
さまざまな種類の美術品が揃っています。
第1章 ふたつでひとつ —「風神雷神図屏風」からはじまるしりとり。
一双の屏風や双福の掛軸など、2点セットの作品の展示です。
「風神雷神図屏風」 二曲一双 酒井抱一 江戸時代

俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を尾形光琳が模写し、さらにそれを酒井抱一が
模写したものです。
琳派の継承の流れを伝える作品ですが、宗達に比べ抱一の風神雷神は顔が
かなり優しくなっています。
「馬祖・臨済画賛」 双幅 仙厓義梵 江戸時代

馬祖道一(709-788)は唐時代の禅僧で、百丈懐海や南泉普願など多くの弟子を
育てています。
百丈懐海(749-814)は「一日不作、一日不食」の教えを残し、南泉普願は南泉斬猫の
逸話で知られています。
臨済義玄(? - 867)は唐時代の禅僧で、百丈懐海の孫弟子にあたり、臨済宗の祖と
なっています。
馬祖の賛の「一喝三日」は、弟子の百丈に発した一喝で百丈は三日間、耳鳴りが
止まなかった逸話を指しています。
臨済の賛の「打爺挙手」は、臨済が師の黄檗希運(? - 850)に三度も棒で叩かれた後に
開悟したのですが、再会した時に今度は黄檗を平手で叩いたという逸話を描いています。
怒鳴るは叩くは、禅とは厳しいものです。
「松に鴉・柳に白鷺図屏風」 六曲一双 長谷川等伯 桃山時代
右隻


左隻

右隻に松に巣を作る鴉、左隻に柳と白鷺で、黒と白の対比です。
花鳥画で黒い鳥を描くときは叭々鳥を使うのが普通で、鴉は珍しい
とのことです。
鴉は親鳥と雛の家族のように描かれていて、とても優しい
顔をしています。
巣の下にタンポポがあり、生命の生まれる春の情景です。
花鳥画では季節の草花を何種類も描くことが多いのに対して、
等伯はタンポポ一つだけで、かえって春を強く意識させているそうです。
屏風を調べてみると、作者の等伯の字が消され、雪舟等楊と書かれた
跡があるとのことで、今では人気の長谷川等伯も一時は忘れられた
存在であったことを示しているそうです。
第2章 いろいろな水のかたち —「波濤水禽図屏風」からはじまるしりとり。
水を題材にした作品の展示です。
「波濤水禽図屏風」 六曲一双 狩野常信 江戸時代
岩場に砕ける波と水鳥が装飾的に描かれています。
狩野常信(1636~1713)は狩野探幽の弟の子で、狩野派としては優しい画風が
特徴です。
「柳橋水車図屏風」 右隻 長谷川派 江戸時代

画面をまたぐ大きな木の橋と、若葉を付けた柳の枝です。
若葉は一枚一枚ていねいに描き込まれています。
川には蛇籠(じゃかご)とともに水車が見えるので、宇治川と分かり、源氏物語の
宇治十帖を想像させます。
デザイン性に優れた作品で、蒔絵のように装飾的ですが、川の流れはリズムのある
力強い線で描かれていて、桃山風の力強さを感じます。
「織部舟人物文蓋物」 美濃 桃山時代

型を使った、蓋のある器で、行き交う舟や釣り人がゆったりした筆遣いで描かれています。
第3章 たくさんの図柄 —「美人鑑賞図」からはじまるしりとり。
屏風や茶道具、陶磁器など、多様な作品の展示です。
「美人鑑賞図」 勝川春章 寛政2- 4年(1790 -92)頃



勝川春章の最晩年の作で、あるいは絶筆かもしれないとのことです。
西洋の遠近法を取り入れた画面ですが、消失点の揃っていないところがご愛敬です。
皆で鑑賞しているのは狩野探幽の三幅対とのことで、寿老人と鶴の絵が見え、
飾られた牡丹は富貴を表します。
じゃれる猫は中国語の発音が、「耄」と、一人の着ている着物の柄の蝶は「耋」と同じく、
長寿を表す「耄耋(ぼうてつ)」となる、目出度尽くしの絵柄です。
大和郡山藩主で柳沢吉保の孫、信鴻(のぶとき、1724‐92)の古希を祝って
描かれたとのことで、柱の釘隠しには花菱(柳沢家の家紋は四つ花菱)を用い、
庭は吉保が造り、信鴻が晩年を過ごした駒込の六義園になぞらえています。
画面の上に、すやり霞を描いて、大和絵の雰囲気も見せています。
このような古典的な世界との融合が勝川春章の特徴です。
「色絵花筏文皿」 鍋島藩窯 江戸時代中期

鍋島は佐賀藩鍋島家が将軍家への献上品や諸大名への贈答品として
制作した磁器で、すっきりと端正なデザインが特徴です。
花筏は水面に散った桜花が集まったものを言いますが、やがて筏その物を
添えた絵も描かれるようになります。
「月に秋草図屏風」 右隻 伝 俵屋宗達 江戸時代

六曲一双の金屏風に薄、萩、桔梗など秋の草を散らし、銀泥で半月を描いています。
疎らに置かれた草花は空間の広がりを思わせ、しみじみとした秋の情緒に
満ちています。
俵屋宗達の工房の作ですが、質の高さから宗達自身が描いたのではないかと
言われているとのことです。
展覧会のHPです。
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日比谷の出光美術館では、「日本の美・鑑賞入門 しりとり日本美術」展が開かれています。
会期は9月3日(日)までです。

イメージの共通点のある作品を集めて、3つの章にまとめて展示する企画で、
さまざまな種類の美術品が揃っています。
第1章 ふたつでひとつ —「風神雷神図屏風」からはじまるしりとり。
一双の屏風や双福の掛軸など、2点セットの作品の展示です。
「風神雷神図屏風」 二曲一双 酒井抱一 江戸時代

俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を尾形光琳が模写し、さらにそれを酒井抱一が
模写したものです。
琳派の継承の流れを伝える作品ですが、宗達に比べ抱一の風神雷神は顔が
かなり優しくなっています。
「馬祖・臨済画賛」 双幅 仙厓義梵 江戸時代

馬祖道一(709-788)は唐時代の禅僧で、百丈懐海や南泉普願など多くの弟子を
育てています。
百丈懐海(749-814)は「一日不作、一日不食」の教えを残し、南泉普願は南泉斬猫の
逸話で知られています。
臨済義玄(? - 867)は唐時代の禅僧で、百丈懐海の孫弟子にあたり、臨済宗の祖と
なっています。
馬祖の賛の「一喝三日」は、弟子の百丈に発した一喝で百丈は三日間、耳鳴りが
止まなかった逸話を指しています。
臨済の賛の「打爺挙手」は、臨済が師の黄檗希運(? - 850)に三度も棒で叩かれた後に
開悟したのですが、再会した時に今度は黄檗を平手で叩いたという逸話を描いています。
怒鳴るは叩くは、禅とは厳しいものです。
「松に鴉・柳に白鷺図屏風」 六曲一双 長谷川等伯 桃山時代
右隻


左隻

右隻に松に巣を作る鴉、左隻に柳と白鷺で、黒と白の対比です。
花鳥画で黒い鳥を描くときは叭々鳥を使うのが普通で、鴉は珍しい
とのことです。
鴉は親鳥と雛の家族のように描かれていて、とても優しい
顔をしています。
巣の下にタンポポがあり、生命の生まれる春の情景です。
花鳥画では季節の草花を何種類も描くことが多いのに対して、
等伯はタンポポ一つだけで、かえって春を強く意識させているそうです。
屏風を調べてみると、作者の等伯の字が消され、雪舟等楊と書かれた
跡があるとのことで、今では人気の長谷川等伯も一時は忘れられた
存在であったことを示しているそうです。
第2章 いろいろな水のかたち —「波濤水禽図屏風」からはじまるしりとり。
水を題材にした作品の展示です。
「波濤水禽図屏風」 六曲一双 狩野常信 江戸時代
岩場に砕ける波と水鳥が装飾的に描かれています。
狩野常信(1636~1713)は狩野探幽の弟の子で、狩野派としては優しい画風が
特徴です。
「柳橋水車図屏風」 右隻 長谷川派 江戸時代

画面をまたぐ大きな木の橋と、若葉を付けた柳の枝です。
若葉は一枚一枚ていねいに描き込まれています。
川には蛇籠(じゃかご)とともに水車が見えるので、宇治川と分かり、源氏物語の
宇治十帖を想像させます。
デザイン性に優れた作品で、蒔絵のように装飾的ですが、川の流れはリズムのある
力強い線で描かれていて、桃山風の力強さを感じます。
「織部舟人物文蓋物」 美濃 桃山時代

型を使った、蓋のある器で、行き交う舟や釣り人がゆったりした筆遣いで描かれています。
第3章 たくさんの図柄 —「美人鑑賞図」からはじまるしりとり。
屏風や茶道具、陶磁器など、多様な作品の展示です。
「美人鑑賞図」 勝川春章 寛政2- 4年(1790 -92)頃



勝川春章の最晩年の作で、あるいは絶筆かもしれないとのことです。
西洋の遠近法を取り入れた画面ですが、消失点の揃っていないところがご愛敬です。
皆で鑑賞しているのは狩野探幽の三幅対とのことで、寿老人と鶴の絵が見え、
飾られた牡丹は富貴を表します。
じゃれる猫は中国語の発音が、「耄」と、一人の着ている着物の柄の蝶は「耋」と同じく、
長寿を表す「耄耋(ぼうてつ)」となる、目出度尽くしの絵柄です。
大和郡山藩主で柳沢吉保の孫、信鴻(のぶとき、1724‐92)の古希を祝って
描かれたとのことで、柱の釘隠しには花菱(柳沢家の家紋は四つ花菱)を用い、
庭は吉保が造り、信鴻が晩年を過ごした駒込の六義園になぞらえています。
画面の上に、すやり霞を描いて、大和絵の雰囲気も見せています。
このような古典的な世界との融合が勝川春章の特徴です。
「色絵花筏文皿」 鍋島藩窯 江戸時代中期

鍋島は佐賀藩鍋島家が将軍家への献上品や諸大名への贈答品として
制作した磁器で、すっきりと端正なデザインが特徴です。
花筏は水面に散った桜花が集まったものを言いますが、やがて筏その物を
添えた絵も描かれるようになります。
「月に秋草図屏風」 右隻 伝 俵屋宗達 江戸時代

六曲一双の金屏風に薄、萩、桔梗など秋の草を散らし、銀泥で半月を描いています。
疎らに置かれた草花は空間の広がりを思わせ、しみじみとした秋の情緒に
満ちています。
俵屋宗達の工房の作ですが、質の高さから宗達自身が描いたのではないかと
言われているとのことです。
展覧会のHPです。
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