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「江戸時代の美術─「軽み」の誕生」展 出光美術館
日比谷・有楽町
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日比谷の出光美術館では、「江戸時代の美術─「軽み」の誕生」展が開かれています。
会期は10月22日(日)までです。

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江戸時代初期、徳川幕府の御用絵師となり、狩野派の新しい画風を築いた狩野探幽
(1602-1674)は後水尾天皇(1596-1680)に「絵はつまりたるがわろき」と述べています。
絵の中になんでも詰め込むのは良くない、ゆとりを持った空間が必要だという意味です。
そして探幽は「つまらない」絵画を追及しています。
この展覧会は「つまらない」の視点に立って江戸絵画を見直しています。

「叭々鳥・小禽図屏風」 六曲一双 右隻 狩野探幽 江戸時代
軽みimg061 (2)

部分
狩野img033 (1)

右隻は竹林に叭々鳥(ははちょう:ムクドリの一種)、左隻は松に渓流と
山鳩が描かれています。
従来の狩野派に比べ、空間を大きく取り、近景の松の木も一部しか描かず、
水墨画のように画面に余韻を響かせています。
これにより狩野派の画風を一変させたということです。
この、空間の広い瀟洒な画風は江戸狩野の特徴となります。

「平家物語小督・子猶訪戴図屏風」 六曲一双 右隻(部分)  狩野尚信 江戸時代
物語001

右隻は平家物語の一節で、高倉天皇の寵を受けた小督(こごう)は、
娘の建礼門院徳子にとって邪魔な存在であるとして平清盛に
追放され、嵯峨野に隠棲しますが、帝の命で行方を捜していた
源仲国は琴の音をたよりに小督の居所を捜しあてます。
墨絵の静けさの広がる中、人物のところに淡く彩色を施してあり、
琴の音も聞こえてきそうな風情です。
民謡の黒田節にも謡われている場面です。

 峰の嵐か松風か 尋ぬる人の琴の音か 
 おぼつかなくは思へども 駒を速めて行くほどに

左隻は東晋の文人、王子猶(王徽之)が雪の夜の月光に興を覚え、友人の戴安道を
訪ねるものの、途中で興が尽きたので、会わずに帰ったという故事です。
小舟に乗った王子猶と従者は空を見上げていますが、目の先にあるのは
右隻に描かれた月という、二つの話を飛び越えた夢幻的な絵になっています。

狩野尚信(1607-1650)は狩野探幽の弟で、探幽と同じく幕府の御用絵師となっています。
画風は兄の探幽以上にあっさりと淡白で、この屏風も広々とした余白に
何とも言えぬ風情があります。

「須磨・明石図屏風」 六曲一双 土佐光起 江戸時代 重要美術品
須磨・明石は源氏物語の舞台として有名ですが、この屏風では、あっさりとした色彩で、
広々とした空間の中の景色を見せています。
右隻は六甲を遠くに望む須磨で、松林や塩を焼く小屋、燃料の柴を運んだり、
汐汲みをしたり、出来た塩を馬に載せて運ぶ人など製塩の様子が小さく描かれています。
遠くの須磨寺や桜なども源氏物語を思い出させます。
左隻は淡路島から四国まで見渡せる明石の景色で、月も出ています。
自然の大きさと、人の営みの小ささを印象付けています。
土佐光起(1617-1691)は江戸初期の絵師で、狩野派や宋元画なども学んでいます。
後水尾天皇の寵愛を受け、土佐家が一旦失った絵所預の職を85年振りに得て、
土佐家中興の祖と謳われています。

「源氏物語 賢木・澪標図屏風」 六曲一双 右隻(部分) 
 狩野探幽 寛文9年(1669)

源003

源004

右隻は源氏物語第十帖、「賢木(さかき)」の一場面です。
光源氏との関係を諦め、伊勢に下ろうとする六条御息所の篭る野の宮を
源氏が訪れています。
源氏は変わらぬ恋心を伝えるため、常緑樹の榊の枝を御簾から差し入れている
ところです。
萩薄の茂る庭の風情には深い趣きがあります。

  神垣はしるしの杉もなきものをいかにまがへて折れるさかきぞ 六条御息所

  少女子があたりと思へば榊葉の香をなつかしみとめてこそ折れ 源氏

舘の外では従者たちが控えていて、お約束のように居眠りをしている者も
描かれています。

左隻は第十四帖、「澪標(みおつくし)」の一場面です。
光源氏の一行が住吉神社に詣でたところ、たまたま来合わせた明石の君が
源氏には会わず、帰っていきます。

とても優美な屏風で、探幽など狩野派は大和絵もよく学んでいることが分かります。

「野々宮図」 岩佐又兵衛 
 桃山-江戸時代・17世紀 出光美術館 重要美術品

岩佐0_1

元は福井の豪商、金屋家が福井藩主より下賜され、「金谷屏風」と呼ばれた屏風で、
六曲一双だったものが、明治時代になって別々に剥がされた、そのうちの1枚です。
源氏物語、「賢木」の、光源氏が野々宮に居る六条御息所を訪ねる場面で、
黒木の鳥居の下で童子と共に佇んでいます。
墨絵で描かれた二人は、岩佐又兵衛の特徴の下膨れの顔で、存在感があり、
いわゆる大和絵の穏やかさとは異なる印象です。
衣装の文様も細かく描きこまれ、唇には薄く紅が差してあります。

「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」 六曲一双 酒井抱一 江戸時代
右隻
琳派008

左隻
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月次花鳥図の型に拠りながら、昆虫や小鳥、外来種の向日葵なども
取り入れて、現実感のある季節を描き出しています。
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右: 紫陽花に蜻蛉です。
中: 向日葵を描くと絵の重心が高くなります。
左: 柿の木に目白が目白押しに並んでいます。

十二ヵ月花鳥図は文政6年(1823)の年記のある、三の丸尚蔵館所蔵の作品を始め
7組ありますが、抱一の工房、雨華庵(うげあん)の画家たちの参加があると
思われるそうです。

「秋草図屏風」 ニ曲一隻 鈴木其一 江戸時代
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江戸img199 (3)

銀地に萩、薄、葛、撫子、女郎花、藤袴、朝顔が描かれ、万葉集の山上憶良の歌、
2首が添えられています。

秋の七草は山上憶良の歌に拠っています。

江戸img199 (2)

  秋の野に 咲きたる花を指(および)折り かき数ふれば七種(ななくさ)の花

  萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなへし) また藤袴 朝貌の花

「四季日待図巻」(部分) 英一蝶 元禄11年~宝永6年(1698-1709) 重要文化財
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「日待」は、日の出を拝むため、集まって夜を明かす行事とのことです。
座敷では笛や鼓、太鼓に合わせて賑やかに踊り、障子にも踊る人の影が映っています。
台所で料理を作っている様子も見えます。
英一蝶(1652-1724)が徳川綱吉の禁令に触れて、三宅島に島流しにされている時の
作品ですが、着物の柄まで細かく描かれ、目の前の光景を写したように活き活きと
しています。

松尾芭蕉の発句画賛なども何点か展示されています。

「発句画賛 野をよこに」 書:松尾芭蕉 画:森川許六 江戸時代
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  野をよこにむま引むけよほとゝきす はせを

「奥の細道」の中の、那須野の殺生石に向かう途中、馬子に乞われて詠んだ句です。
森川許六(1656-1715)は彦根藩士で、蕉門十哲の一人に数えられています。
また、絵も得意とし、芭蕉に絵を教えたともいわれています。

「発句自画賛 はまぐりの」 松尾芭蕉 江戸時代
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  はまぐりの生ける甲斐あれ年の暮れ

芭蕉晩年の句で、生き甲斐と活き貝を掛けてあるそうです。
藤井巴水の編集した、元禄6年(1693)刊行の薦獅子集(こもじししゅう)所収です。

展覧会のHPです。


次回の展覧会は「青磁」です。
会期は11月3日(金・祝)から2024年1月28日(日)までです。

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【2023/10/01 22:21】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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  • こんばんは。
  • コメント有難うございます。
    秋は団体展や各美術館の新しい展覧会が始まり、観る方も忙しくなります。
    東博では11日から本格的な「やまと絵」展が始まるとのことで、楽しみにしています。

    【2023/10/02 20:01】 url[chariot #H4z1joGM] [ 編集]
  • またまた魅力ある美術展ですね。

    狩野派、土佐派、は物語絵も多く、岩佐又兵衛の独特の画風にも惹かれます。

    「芸術の秋」、気になる展覧会が目白押しとなりそうです。

    【2023/10/01 23:54】 url[ばーばむらさき #v9aI.q/w] [ 編集]
    please comment















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