新宿
新宿のSOMPO美術館では「ゴッホと静物画ー伝統から革新へ」展が開かれています。
会期は2024年1月21日(日)までです。

フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の作品を中心にして、17世紀オランダから
20世紀初めまでの西洋絵画における静物画の流れを一覧する展覧会です。
作品は一部を除き撮影可能です。
1 伝統 ― 17世紀から19世紀
静物画は商業活動により市民階級が力を持ち始めた17世紀オランダで盛んになります。
壮大な宗教画や歴史画に替わって、個人の家の中で楽しめる作品の需要が高まります。
ピーテル・ファン・ノールト 「 静物(魚)」 1670年頃
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

ピーテル・ファン・ノールト(1602-1672)はオランダの静物画家で、魚をよく描いています。
台所にある食材を題材にした作品を厨房画と言い、スペインではボデコンと呼ばれ、
ファン・サンチェス・コタンやベラスケスが描いています。
アンリ・ファンタン=ラトゥール 「プリムラ、洋ナシ、ザクロのある静物」 1866年
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

アンリ・ファンタン=ラトゥール(1836-1904)はサロンで認められた画家ですが、
印象派の人たちとも親しく、その運動にも共感しています。
描き方はていねいな写実で、印象派とは異なります。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アネモネ」 1883~1890年頃 ポーラ美術館

一度、古典主義風の作風になったルノワールが以前の色彩を重視した作風に
戻った頃の作品です。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「麦わら帽のある静物」 1881年11月下旬~12月中旬
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

ハーグで絵画の勉強をしていた頃の作品で、陶器への光の反射など、質感の表現を
研究しています。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「コウモリ」 1884年10月~11月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

ゴッホの描いた動物の絵を初めて観ました。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「青い花瓶にいけた花」 1887年6月頃
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

ゴッホは1886年に画商をしている弟のテオを頼ってパリに出てきて一緒に暮らします。
パリでは当時興っていた印象派の影響を受けて、色彩は明るく、筆触も大胆になります。
背景は点描ですが、花は厚塗り、机も長い筆触で描いています。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「髑髏」 1887年5月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

オランダで流行したヴァニタス(人生の虚しさ)という主題の絵にはよく髑髏が
描かれているので、ゴッホもそれに倣ったのでしょうか。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「野牡丹とばらのある静物」 1886~87年
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

花瓶の下も花で埋まった豪奢な画面で、ゴッホとしては変わった印象の作品です。
2 花の静物画 ― 「ひまわり」をめぐって
コルネリス・ファン・スペンドンク 「花と果物のある静物」 1804年 東京富士美術館

コルネリス・ファン・スペンドンク(スパーンドンク、1756-1840)はオランダ出身の画家で、
植物画を得意とし、パリで活躍していました。
セーヴル磁器の絵付のデザインを担当し、工場の主任も務めています。
ルノワールはリモージュの絵付職人でしたが、機械による絵付の普及で失職し
、画家を志しています。
エドゥアール・マネ 「白いシャクヤクとその他の花のある静物」 1880年頃
ロッテルダム ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館

マネらしい品の良い描き振りです。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「赤と白の花をいけた花瓶」 1886年

ロッテルダム、ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館
弟のテオを頼ってパリに出てきた年の作品で、まだ暗くて重い画面です。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「ひまわり」 1888年11月~12月 SOMPO美術館

SOMPO美術館で常設展示されている有名な作品です。
満開の花、しおれた花など、時の経過を表しています。
アルルにやって来たゴーギャンと仲が悪くなった頃に描いていますが、黄色でまとめ、
ひまわりの生命力を見せて迫力があります。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「アイリス」 1890年5月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

亡くなる年にサン=レミの病院で描いた作品です。
ゴッホはひまわりと共にアイリスもよく描いています。
「ひまわり」と似た絵柄ですが、紫色と黄色の思い切った対比が印象的です。
ゴッホはドラクロワの色遣いに感銘を受けていて、この補色の使い方も
ドラクロワの手本に倣っているそうです。
燃えるように咲くアイリス、まっすぐに伸びた緑の葉、一方で萎れた花と、
生命そのものを描いているようです。
イサーク・イスラエルス 「「ひまわり」の横で本を読む女性」 1915~20年
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

ヨーゼフ・イスラエルス(1824-1911)は落着いた色調と精神性の高さから
第2のレンブラントと呼ばれていたそうです。
ゴッホの色彩に魅せられたイスラエルスはゴッホの弟のテオの妻ヨハンナに頼んで
「ひまわり」を借り、自分の絵の中に描き込んでいます。
白い額縁はゴッホ自身が指定したものです。
3 革新 ― 19世紀から20世紀
フィンセント・ファン・ゴッホ 「靴」 1886年9月~11月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

パリに移った年に描かれた、オランダ時代の農民の生活を主題にした作品です。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「皿とタマネギのある静物」 1889年1月上旬
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

アルルで耳切事件を起こし、退院した直後の作品です。
蝋燭やパイプなど、ヴァニタスを思わせるところもありますが、色彩は明るく、
日常性を感じさせます。
ポール・セザンヌ 「りんごとナプキン」 1879~80年 SOMPO美術館

絵画とは実物を写すものではなく、要するに色と形の集合なのだという方向に
画家たちが進み始めた端緒はセザンヌです。
言葉として明言したのナビ派のモーリス・ドニで、「ある一定の秩序で集められた
色彩によっておおわれた平坦な面」と述べています。
ポール・ゴーギャン 「ばらと彫像のある静物」 1889年 ランス美術館

ブルターニュのル・ブルデュの宿屋で描いた作品で、マルティニークで制作した
丸彫り彫刻が置いてあります。
この彫刻は宿屋の主人に借金のかたとして取られてしまったそうです。
ゴーギャンの生活も大変だったようです。
ポール・ゴーギャン 「花束」 1897年 パリ、マルモッタン・モネ美術館

この年、娘が亡くなり、自身も健康上の問題と借金を抱えていて、自殺を図っています。
そんな苦悩の中で描かれた作品です。
エドゥアール・ヴュイヤール 「アネモネ」 1906年 ヤマザキマザック美術館

濃密な色彩で、背景もしっかり描き込んで、その場の雰囲気を表しています。
エドゥアール・ヴュイヤール(1868-1940)は室内の情景を好んで描き、
自らアンティミスト(親密派)と名乗っています。
モーリス・ド・ヴラマンク 「花瓶の花」 1905~06年頃 メナード美術館

初期の野獣派時代の作品で、ゴッホの影響を受け、赤、白、青の原色を思うままに
塗りつけています。
後の暗く重い画風とは激しいところは似ていますが、色調はかなり異なります。
大変力の入った展覧会で、ゴッホの静物画が25点も展示されています。
今まで観たことのなかったゴッホの静物画を数多く観ることが出来ました。
とても人気の高い展覧会で混雑が予想されるので、日時指定予約の利用をお勧めします。
展覧会のHPです。
chariot
新宿のSOMPO美術館では「ゴッホと静物画ー伝統から革新へ」展が開かれています。
会期は2024年1月21日(日)までです。

フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の作品を中心にして、17世紀オランダから
20世紀初めまでの西洋絵画における静物画の流れを一覧する展覧会です。
作品は一部を除き撮影可能です。
1 伝統 ― 17世紀から19世紀
静物画は商業活動により市民階級が力を持ち始めた17世紀オランダで盛んになります。
壮大な宗教画や歴史画に替わって、個人の家の中で楽しめる作品の需要が高まります。
ピーテル・ファン・ノールト 「 静物(魚)」 1670年頃
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

ピーテル・ファン・ノールト(1602-1672)はオランダの静物画家で、魚をよく描いています。
台所にある食材を題材にした作品を厨房画と言い、スペインではボデコンと呼ばれ、
ファン・サンチェス・コタンやベラスケスが描いています。
アンリ・ファンタン=ラトゥール 「プリムラ、洋ナシ、ザクロのある静物」 1866年
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

アンリ・ファンタン=ラトゥール(1836-1904)はサロンで認められた画家ですが、
印象派の人たちとも親しく、その運動にも共感しています。
描き方はていねいな写実で、印象派とは異なります。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アネモネ」 1883~1890年頃 ポーラ美術館

一度、古典主義風の作風になったルノワールが以前の色彩を重視した作風に
戻った頃の作品です。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「麦わら帽のある静物」 1881年11月下旬~12月中旬
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

ハーグで絵画の勉強をしていた頃の作品で、陶器への光の反射など、質感の表現を
研究しています。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「コウモリ」 1884年10月~11月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

ゴッホの描いた動物の絵を初めて観ました。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「青い花瓶にいけた花」 1887年6月頃
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

ゴッホは1886年に画商をしている弟のテオを頼ってパリに出てきて一緒に暮らします。
パリでは当時興っていた印象派の影響を受けて、色彩は明るく、筆触も大胆になります。
背景は点描ですが、花は厚塗り、机も長い筆触で描いています。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「髑髏」 1887年5月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

オランダで流行したヴァニタス(人生の虚しさ)という主題の絵にはよく髑髏が
描かれているので、ゴッホもそれに倣ったのでしょうか。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「野牡丹とばらのある静物」 1886~87年
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

花瓶の下も花で埋まった豪奢な画面で、ゴッホとしては変わった印象の作品です。
2 花の静物画 ― 「ひまわり」をめぐって
コルネリス・ファン・スペンドンク 「花と果物のある静物」 1804年 東京富士美術館

コルネリス・ファン・スペンドンク(スパーンドンク、1756-1840)はオランダ出身の画家で、
植物画を得意とし、パリで活躍していました。
セーヴル磁器の絵付のデザインを担当し、工場の主任も務めています。
ルノワールはリモージュの絵付職人でしたが、機械による絵付の普及で失職し
、画家を志しています。
エドゥアール・マネ 「白いシャクヤクとその他の花のある静物」 1880年頃
ロッテルダム ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館

マネらしい品の良い描き振りです。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「赤と白の花をいけた花瓶」 1886年

ロッテルダム、ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館
弟のテオを頼ってパリに出てきた年の作品で、まだ暗くて重い画面です。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「ひまわり」 1888年11月~12月 SOMPO美術館

SOMPO美術館で常設展示されている有名な作品です。
満開の花、しおれた花など、時の経過を表しています。
アルルにやって来たゴーギャンと仲が悪くなった頃に描いていますが、黄色でまとめ、
ひまわりの生命力を見せて迫力があります。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「アイリス」 1890年5月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

亡くなる年にサン=レミの病院で描いた作品です。
ゴッホはひまわりと共にアイリスもよく描いています。
「ひまわり」と似た絵柄ですが、紫色と黄色の思い切った対比が印象的です。
ゴッホはドラクロワの色遣いに感銘を受けていて、この補色の使い方も
ドラクロワの手本に倣っているそうです。
燃えるように咲くアイリス、まっすぐに伸びた緑の葉、一方で萎れた花と、
生命そのものを描いているようです。
イサーク・イスラエルス 「「ひまわり」の横で本を読む女性」 1915~20年
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

ヨーゼフ・イスラエルス(1824-1911)は落着いた色調と精神性の高さから
第2のレンブラントと呼ばれていたそうです。
ゴッホの色彩に魅せられたイスラエルスはゴッホの弟のテオの妻ヨハンナに頼んで
「ひまわり」を借り、自分の絵の中に描き込んでいます。
白い額縁はゴッホ自身が指定したものです。
3 革新 ― 19世紀から20世紀
フィンセント・ファン・ゴッホ 「靴」 1886年9月~11月
アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館

パリに移った年に描かれた、オランダ時代の農民の生活を主題にした作品です。
フィンセント・ファン・ゴッホ 「皿とタマネギのある静物」 1889年1月上旬
オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館

アルルで耳切事件を起こし、退院した直後の作品です。
蝋燭やパイプなど、ヴァニタスを思わせるところもありますが、色彩は明るく、
日常性を感じさせます。
ポール・セザンヌ 「りんごとナプキン」 1879~80年 SOMPO美術館

絵画とは実物を写すものではなく、要するに色と形の集合なのだという方向に
画家たちが進み始めた端緒はセザンヌです。
言葉として明言したのナビ派のモーリス・ドニで、「ある一定の秩序で集められた
色彩によっておおわれた平坦な面」と述べています。
ポール・ゴーギャン 「ばらと彫像のある静物」 1889年 ランス美術館

ブルターニュのル・ブルデュの宿屋で描いた作品で、マルティニークで制作した
丸彫り彫刻が置いてあります。
この彫刻は宿屋の主人に借金のかたとして取られてしまったそうです。
ゴーギャンの生活も大変だったようです。
ポール・ゴーギャン 「花束」 1897年 パリ、マルモッタン・モネ美術館

この年、娘が亡くなり、自身も健康上の問題と借金を抱えていて、自殺を図っています。
そんな苦悩の中で描かれた作品です。
エドゥアール・ヴュイヤール 「アネモネ」 1906年 ヤマザキマザック美術館

濃密な色彩で、背景もしっかり描き込んで、その場の雰囲気を表しています。
エドゥアール・ヴュイヤール(1868-1940)は室内の情景を好んで描き、
自らアンティミスト(親密派)と名乗っています。
モーリス・ド・ヴラマンク 「花瓶の花」 1905~06年頃 メナード美術館

初期の野獣派時代の作品で、ゴッホの影響を受け、赤、白、青の原色を思うままに
塗りつけています。
後の暗く重い画風とは激しいところは似ていますが、色調はかなり異なります。
大変力の入った展覧会で、ゴッホの静物画が25点も展示されています。
今まで観たことのなかったゴッホの静物画を数多く観ることが出来ました。
とても人気の高い展覧会で混雑が予想されるので、日時指定予約の利用をお勧めします。
展覧会のHPです。
- 関連記事
-
- 「東京ビエンナーレ2023秋会期」 (2023/10/27)
- 「日本画聖地巡礼―東山魁夷の京都、 奥村土牛の鳴門―」展 山種美術館 (2023/10/26)
- 「ゴッホと静物画ー伝統から革新へ」展 SOMPO美術館 (2023/10/24)
- 「二つの頂―宋磁と清朝官窯」展 静嘉堂@丸の内 (2023/10/22)
- 「激動の時代 幕末明治の絵師たち」展 サントリー美術館 (2023/10/21)
ピーテル・ファン・ノールトの魚がなんか美味そう。躍動感があるのに、しかし干物に見えてしまうのは何故だろう(笑
コメント、有難うございます。
花の絵を中心にして、ゴッホばかりでなく多くの画家の静物画が揃って見応え十分です。
あまり静物画を描かないピサロの絵もありました。
会期が迫るとかなり混雑しそうで、出来れば早めの平日が良さそうです。
花の絵を中心にして、ゴッホばかりでなく多くの画家の静物画が揃って見応え十分です。
あまり静物画を描かないピサロの絵もありました。
会期が迫るとかなり混雑しそうで、出来れば早めの平日が良さそうです。
こんばんは。
この展覧会、ぜひ行きたいと思っています。行けるのはもう少し先になりそうですが、やっぱり予約した方が良さそうですね。見ごたえあるとの事で、楽しみです。
この展覧会、ぜひ行きたいと思っています。行けるのはもう少し先になりそうですが、やっぱり予約した方が良さそうですね。見ごたえあるとの事で、楽しみです。
オランダなのでサーモンでしょうか。
台所に吊るされているようですが、反り返っていて画面に活力があります。
干物なのか、ノールトはよくこの形の魚を描いています。